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最終章
第五十六話 老骨、鋼が如く(13)
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そしてシャロンの皮をかぶった雲水は着地すると同時に後方に地を蹴った。
また飛び道具の連射に持ち込むつもりか、そうはさせまいとザウルが前へ地を蹴る。
が、それは間違いだった。
雲水が下がったのは、ある技の予備動作の時間を稼ぐためであった。
「!?」
そしてそれを見たザウルは思わず足を止めた。
雲水の体に光の線が、輝く文様が描かれ始めたからだ。
それが電撃魔法の糸であることはすぐに分かった。
だが、何をしているのかは分からなかった。
だが、とても危険であるように思えた。
ゆえにザウルは本能に従い、後方に地を蹴った。
その選択は正解であった。
「!」
直後、雲水の手から閃光が伸び走った。目ではそうとしか判断出来なかった。
それが突進突きであったことは、
「つぅっ!」
右腕に走った傷の形状と、遅れて計算完了した感知から分かった。
深くなぞられた右腕が瞬く間に赤く染まる。
反射的に迎撃で放った狼牙が発動前に潰され、そして一方的に打ち負けた。
そして雲水は自分の体を押しのけてそのまま後方へ。
とんでもない速度。
しかしもう一つ分かったことがある。
この技の代償は大きいこと。
すれ違いざまに感じ取れたのだ。雲水の筋肉が、間接が悲鳴を上げていることを。
おそらく、この技は長くは使えない。
ならば、今の自分に打てる対抗策は――
ザウルは直後にそれを叫んだ。
(絶招狼牙!)
叫びはそこまでだった。それ以上の名は無かった。
これからやることはただの「全力」、「死力を尽くす」という意思表示であった。
そしてその叫びと共にザウルは走り出した。
しかしその向きは突進では無く、雲水を中心とした円の軌道であった。
死力を尽くす、その覚悟はすぐに目に映った。
一歩一歩、その全てが地鳴らし。
盾を形成する時間を作るために歩幅は大きく、そして膝は高く。
ゆえに方向転換などの急制動は弱い。
その弱点を埋めるために両腕を動かす。
雲水に向かって左手で狼牙を放つ。
攻撃が単調にならぬように、右手はあえて狙いを雲水から外す。
雲水の回避先を塞ぐように、または回りこみを阻止するために進行方向に置くように狼牙を放つ。
これを全力で繰り返す。
筋肉が悲鳴を上げようとも、間接が軋もうとも無視する。
なぜならば、これは我慢比べだからだ。
ザウルは読んでいた。あの技は細かい動作が出来ないのだと。
突進突きを放った後に、素早く追撃出来なかったのがその証拠。
ゆえの我慢比べ。こちらは手を出し続け、相手の体力を防御に使わせる。
雲水が手を出しかねるほどに、蛇を撒き散らし続ける。
それはザウルにとっても初めてのことだった。
かつて経験したことの無い量の蛇の弾幕。
通れる隙間を探すほうが難しいほどの密度。
既に全体に回った火から放たれる熱気が、その蛇に陽炎を纏わせる。
もはや像の虚実すらはっきりしないありさまであったが、
「……っ!?」
ザウルは驚きに目を細めた。
雲水はその全てを正確に斬り払っていた。
手元がはっきりと見えないほどの速度。
しかしその剣速をもってしてもその足は動いていない。
やはりこれは我慢比べ。
先に手が緩んだほうが――
「っ?!」
そんな言葉が浮かんだ直後、ザウルの視界が傾いた。
攻撃?! 何かされた!? ザウルはそう思ったがそうではなかった。
膝が笑い始めたのだ。
「くっ!」
動け、そう叱咤すると同時に星を爆発させて活を入れる。
痛みと共に周りの景色が再び流れ始める。
その直後、ザウルの目に雲水の背中が映り込んだ。
こちらに向き直れていない。止まっている。
なぜ? ザウルには分からなかったが、状況は直後にさらに変わった。
雲水がその場に片膝をついたのだ。
見ると、その足は赤く染まっていた。
絶好の好機、そう見えた。
ゆえに、ザウルはその背中に向かって、
「疾ッ!」
進路を変え、突進した。
傷ついていない左手に盾を用意する。
手の形を槍に整える。
あとはこの手を突き出すだけ。
だったのだが、
「?!」
ザウルは感じ取った。
雲水の水面に写っていたシャロンが消えたのを。
そして代わりに現れたのは自分。
(いや、)
違うと、ザウルは気付いた。
いつからかは分からないが、こいつは、自分の写しはずっといたのだ。裏に隠れていたのだ。
その推察は正解だった。
雲水はシャロンの人格を少しずつ削りながら、裏でザウルの写しを再構築していたのだ。
そしてシャロンの写しを裏から操作させていたのだ。
何のために。
それは考えるまでも無かった。
(! 誘われた?!)
これは甘い罠。
決着をつけられる、そんな希望を利用した罠。
持久戦では分が悪いと判断した雲水は作戦を切り替えたのだ。
そして好機は訪れた。ザウルの膝が僅かに崩れたあの時だ。
ザウルの意識、脳の処理能力の多くが身体制御にあてられた瞬間を、こちらから意識が外れた刹那の瞬間を雲水は見逃さなかった。
雲水はわざと被弾したのだ。シャロンにそうしろと影から命じたのだ。
また飛び道具の連射に持ち込むつもりか、そうはさせまいとザウルが前へ地を蹴る。
が、それは間違いだった。
雲水が下がったのは、ある技の予備動作の時間を稼ぐためであった。
「!?」
そしてそれを見たザウルは思わず足を止めた。
雲水の体に光の線が、輝く文様が描かれ始めたからだ。
それが電撃魔法の糸であることはすぐに分かった。
だが、何をしているのかは分からなかった。
だが、とても危険であるように思えた。
ゆえにザウルは本能に従い、後方に地を蹴った。
その選択は正解であった。
「!」
直後、雲水の手から閃光が伸び走った。目ではそうとしか判断出来なかった。
それが突進突きであったことは、
「つぅっ!」
右腕に走った傷の形状と、遅れて計算完了した感知から分かった。
深くなぞられた右腕が瞬く間に赤く染まる。
反射的に迎撃で放った狼牙が発動前に潰され、そして一方的に打ち負けた。
そして雲水は自分の体を押しのけてそのまま後方へ。
とんでもない速度。
しかしもう一つ分かったことがある。
この技の代償は大きいこと。
すれ違いざまに感じ取れたのだ。雲水の筋肉が、間接が悲鳴を上げていることを。
おそらく、この技は長くは使えない。
ならば、今の自分に打てる対抗策は――
ザウルは直後にそれを叫んだ。
(絶招狼牙!)
叫びはそこまでだった。それ以上の名は無かった。
これからやることはただの「全力」、「死力を尽くす」という意思表示であった。
そしてその叫びと共にザウルは走り出した。
しかしその向きは突進では無く、雲水を中心とした円の軌道であった。
死力を尽くす、その覚悟はすぐに目に映った。
一歩一歩、その全てが地鳴らし。
盾を形成する時間を作るために歩幅は大きく、そして膝は高く。
ゆえに方向転換などの急制動は弱い。
その弱点を埋めるために両腕を動かす。
雲水に向かって左手で狼牙を放つ。
攻撃が単調にならぬように、右手はあえて狙いを雲水から外す。
雲水の回避先を塞ぐように、または回りこみを阻止するために進行方向に置くように狼牙を放つ。
これを全力で繰り返す。
筋肉が悲鳴を上げようとも、間接が軋もうとも無視する。
なぜならば、これは我慢比べだからだ。
ザウルは読んでいた。あの技は細かい動作が出来ないのだと。
突進突きを放った後に、素早く追撃出来なかったのがその証拠。
ゆえの我慢比べ。こちらは手を出し続け、相手の体力を防御に使わせる。
雲水が手を出しかねるほどに、蛇を撒き散らし続ける。
それはザウルにとっても初めてのことだった。
かつて経験したことの無い量の蛇の弾幕。
通れる隙間を探すほうが難しいほどの密度。
既に全体に回った火から放たれる熱気が、その蛇に陽炎を纏わせる。
もはや像の虚実すらはっきりしないありさまであったが、
「……っ!?」
ザウルは驚きに目を細めた。
雲水はその全てを正確に斬り払っていた。
手元がはっきりと見えないほどの速度。
しかしその剣速をもってしてもその足は動いていない。
やはりこれは我慢比べ。
先に手が緩んだほうが――
「っ?!」
そんな言葉が浮かんだ直後、ザウルの視界が傾いた。
攻撃?! 何かされた!? ザウルはそう思ったがそうではなかった。
膝が笑い始めたのだ。
「くっ!」
動け、そう叱咤すると同時に星を爆発させて活を入れる。
痛みと共に周りの景色が再び流れ始める。
その直後、ザウルの目に雲水の背中が映り込んだ。
こちらに向き直れていない。止まっている。
なぜ? ザウルには分からなかったが、状況は直後にさらに変わった。
雲水がその場に片膝をついたのだ。
見ると、その足は赤く染まっていた。
絶好の好機、そう見えた。
ゆえに、ザウルはその背中に向かって、
「疾ッ!」
進路を変え、突進した。
傷ついていない左手に盾を用意する。
手の形を槍に整える。
あとはこの手を突き出すだけ。
だったのだが、
「?!」
ザウルは感じ取った。
雲水の水面に写っていたシャロンが消えたのを。
そして代わりに現れたのは自分。
(いや、)
違うと、ザウルは気付いた。
いつからかは分からないが、こいつは、自分の写しはずっといたのだ。裏に隠れていたのだ。
その推察は正解だった。
雲水はシャロンの人格を少しずつ削りながら、裏でザウルの写しを再構築していたのだ。
そしてシャロンの写しを裏から操作させていたのだ。
何のために。
それは考えるまでも無かった。
(! 誘われた?!)
これは甘い罠。
決着をつけられる、そんな希望を利用した罠。
持久戦では分が悪いと判断した雲水は作戦を切り替えたのだ。
そして好機は訪れた。ザウルの膝が僅かに崩れたあの時だ。
ザウルの意識、脳の処理能力の多くが身体制御にあてられた瞬間を、こちらから意識が外れた刹那の瞬間を雲水は見逃さなかった。
雲水はわざと被弾したのだ。シャロンにそうしろと影から命じたのだ。
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