533 / 586
最終章
第五十六話 老骨、鋼が如く(10)
しおりを挟む
◆◆◆
一方、二人の戦いにも変化が起きた。
建物は火に包まれ始めていた。
外からは雲水の部下である忍者達とガストン達が共闘している音が聞こえてくる。
優勢になり、手の空いたガストン達が建物に直接攻撃を加えているのだ。
室内に煙が充満し始める。
直後、その熱気と息苦しさを払うかのように、
「斬!」
雲水が気勢と共に三日月を放った。
それを避けようと左に跳ぶザウル。
が、
「っ!?」
生じた嵐はまるで意思を持っているかのように、ザウルの方に曲がり襲いかかってきた。
用意しておいた狼牙で受ける。
そして思った。
(またか!)
と。
何がまたなのか。
それは嵐が曲がって追いかけてきたこと、すなわち回避先を読まれていることであった。
完全に心を読まれている。
自分の隠蔽技術はそれほど高くない。
ゆえに読まれているのだと、ザウルはそう思っていたが、
「?!」
直後、雲水の心を虫に覗かせた瞬間、その認識が間違いであることが明らかになった。
それはどこまでも広がる水面だった。
雲水の心にはそれしか無かった。
鏡のような水面が空を映している。
しかし映っているのは雲だけでは無かった。
おぼろげな自分の姿が写っていた。
(これは……!)
ザウルは気付いた。
これは自分の心の写しだと。
心の奥底まで写し取られたわけでは無い。
これは戦闘に関わる部分だけを読み取って作り上げた擬似人格であると。
(だから……!)
だから回避先を読まれるのだと。
驚きに足を止めているザウルに対して雲水が三日月を放つ。
(どっちだ!)
左か右か。
左、左と、立て続けに回避して失敗した。
ならば右?
それともあえてもう一度左?
ザウルの理性には分からなかった。
ゆえにザウルは本能が提示した選択肢に従った。
それは、
(下!)
その場に仰向けに寝転がるように、後ろに倒れながら足を前に出して地面の上に滑り込む。
地に水平に滑空する三日月がザウルの真上すれすれを通り抜けていく。
そして三日月はザウルの鼻先をかすめた後、嵐になった。
それは左に偏っていた。ゆえに、
(危なかった!)
ザウルは安堵した。
最初は左を選ぶつもりだったからだ。
しかしこれで分かったことがあった。
相手がこちらの癖を読んでいる、そのことに気付くだけでも意味があることを。
それによってこちらの思考が変化し、選択肢に変化が生じるのだ。
これまでは候補にも挙がらなかった突飛で奇抜な選択肢が選ばれるようになるのだ。
(よし!)
やれる、ザウルはそう思ったのだが、
「!?」
直後、雲水もまたそれに対応して変化を見せた。
それは先よりもやや小さな三日月の三連射。
それは対策が施された連携であった。
回避における奇抜な選択肢は大体が「上」か「下」。
ならばその回避先自体を先に潰しておけばいい。
先頭を走る三日月が地面すれすれを走っており、そしてそのほぼ真後ろに「上」の選択肢を潰す三日月が滑空している。
回避するならば左右のどちらかしか無い。
そして最後に並んでいる三枚目の三日月で回避先に追い討ちする形に見えた。
この問いに対し、
(ならば!)
と、ザウルは叫んだ。
そして選んだ答えは左右のどちらでも無かった。
それは前。
二枚の三日月を受け払う、それがザウルの選択。
左の狼牙で低空の三日月を押しつぶし、続いて高めに飛来してきた三日月を右の狼牙で受け凌ぐ。
三枚目は左右のどちらかに傾くはず、ザウルはそう思っていたが、
「!?」
それは間違いだった。
三枚目の嵐の軌道は左右のどちらでもない、正面。
動かずに左右のどちらかを通り過ぎるのを待っていたザウルに襲い掛かる。
「ぐっ!」
両手の狼牙を使い果たしていたがゆえに、ザウルはそれを手刀で受け払った。
しかし爆心地が近すぎる。
ザウルの体にさらに生傷が増える。
しかしなぜ読まれたのか。
それはザウルが「奇抜な選択肢に意識をとらわれすぎた」からであった。
ゆえに奇抜な選択肢が選ばれる確率が大幅に上がったことを、雲水は読んでいたのだ。
一方、二人の戦いにも変化が起きた。
建物は火に包まれ始めていた。
外からは雲水の部下である忍者達とガストン達が共闘している音が聞こえてくる。
優勢になり、手の空いたガストン達が建物に直接攻撃を加えているのだ。
室内に煙が充満し始める。
直後、その熱気と息苦しさを払うかのように、
「斬!」
雲水が気勢と共に三日月を放った。
それを避けようと左に跳ぶザウル。
が、
「っ!?」
生じた嵐はまるで意思を持っているかのように、ザウルの方に曲がり襲いかかってきた。
用意しておいた狼牙で受ける。
そして思った。
(またか!)
と。
何がまたなのか。
それは嵐が曲がって追いかけてきたこと、すなわち回避先を読まれていることであった。
完全に心を読まれている。
自分の隠蔽技術はそれほど高くない。
ゆえに読まれているのだと、ザウルはそう思っていたが、
「?!」
直後、雲水の心を虫に覗かせた瞬間、その認識が間違いであることが明らかになった。
それはどこまでも広がる水面だった。
雲水の心にはそれしか無かった。
鏡のような水面が空を映している。
しかし映っているのは雲だけでは無かった。
おぼろげな自分の姿が写っていた。
(これは……!)
ザウルは気付いた。
これは自分の心の写しだと。
心の奥底まで写し取られたわけでは無い。
これは戦闘に関わる部分だけを読み取って作り上げた擬似人格であると。
(だから……!)
だから回避先を読まれるのだと。
驚きに足を止めているザウルに対して雲水が三日月を放つ。
(どっちだ!)
左か右か。
左、左と、立て続けに回避して失敗した。
ならば右?
それともあえてもう一度左?
ザウルの理性には分からなかった。
ゆえにザウルは本能が提示した選択肢に従った。
それは、
(下!)
その場に仰向けに寝転がるように、後ろに倒れながら足を前に出して地面の上に滑り込む。
地に水平に滑空する三日月がザウルの真上すれすれを通り抜けていく。
そして三日月はザウルの鼻先をかすめた後、嵐になった。
それは左に偏っていた。ゆえに、
(危なかった!)
ザウルは安堵した。
最初は左を選ぶつもりだったからだ。
しかしこれで分かったことがあった。
相手がこちらの癖を読んでいる、そのことに気付くだけでも意味があることを。
それによってこちらの思考が変化し、選択肢に変化が生じるのだ。
これまでは候補にも挙がらなかった突飛で奇抜な選択肢が選ばれるようになるのだ。
(よし!)
やれる、ザウルはそう思ったのだが、
「!?」
直後、雲水もまたそれに対応して変化を見せた。
それは先よりもやや小さな三日月の三連射。
それは対策が施された連携であった。
回避における奇抜な選択肢は大体が「上」か「下」。
ならばその回避先自体を先に潰しておけばいい。
先頭を走る三日月が地面すれすれを走っており、そしてそのほぼ真後ろに「上」の選択肢を潰す三日月が滑空している。
回避するならば左右のどちらかしか無い。
そして最後に並んでいる三枚目の三日月で回避先に追い討ちする形に見えた。
この問いに対し、
(ならば!)
と、ザウルは叫んだ。
そして選んだ答えは左右のどちらでも無かった。
それは前。
二枚の三日月を受け払う、それがザウルの選択。
左の狼牙で低空の三日月を押しつぶし、続いて高めに飛来してきた三日月を右の狼牙で受け凌ぐ。
三枚目は左右のどちらかに傾くはず、ザウルはそう思っていたが、
「!?」
それは間違いだった。
三枚目の嵐の軌道は左右のどちらでもない、正面。
動かずに左右のどちらかを通り過ぎるのを待っていたザウルに襲い掛かる。
「ぐっ!」
両手の狼牙を使い果たしていたがゆえに、ザウルはそれを手刀で受け払った。
しかし爆心地が近すぎる。
ザウルの体にさらに生傷が増える。
しかしなぜ読まれたのか。
それはザウルが「奇抜な選択肢に意識をとらわれすぎた」からであった。
ゆえに奇抜な選択肢が選ばれる確率が大幅に上がったことを、雲水は読んでいたのだ。
0
お気に入りに追加
88
あなたにおすすめの小説
何を間違った?【完結済】
maruko
恋愛
私は長年の婚約者に婚約破棄を言い渡す。
彼女とは1年前から連絡が途絶えてしまっていた。
今真実を聞いて⋯⋯。
愚かな私の後悔の話
※作者の妄想の産物です
他サイトでも投稿しております
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
夫から国外追放を言い渡されました
杉本凪咲
恋愛
夫は冷淡に私を国外追放に処した。
どうやら、私が使用人をいじめたことが原因らしい。
抵抗虚しく兵士によって連れていかれてしまう私。
そんな私に、被害者である使用人は笑いかけていた……
【完結】王子は聖女と結婚するらしい。私が聖女であることは一生知らないままで
雪野原よる
恋愛
「聖女と結婚するんだ」──私の婚約者だった王子は、そう言って私を追い払った。でも、その「聖女」、私のことなのだけど。
※王国は滅びます。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる