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最終章
第五十六話 老骨、鋼が如く(4)
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◆◆◆
「でぇやっ!」「うがぁっ!」
そして場は乱戦になっていった。
ゲオルク達は槍衾を維持しようとしたが、それは難しかった。
なぜなら敵と味方の多くが入り混じって、交戦状態のまま散発的に集合したからだ。
助ける必要が無いほどに、有利な状態で駆けつけてくれた場合は良い。
だが、大きく不利であった場合は別だ。
こちらから駆けつければ助けられる、それが分かれば動きたくなるのが心情というもの。
当然それは槍衾のままでは間に合わない。
「前列突撃しろ!」
ゆえにゲオルクは声を上げ、兵士は走り始めた。
そうして陣形は分裂と再集合を繰り返し、
「次はこっちだ!」「手を貸せ!」「ぅわぁっ!」
いつしか、場は混沌としたものになった。
敵が激しく動いて場をかき乱している。
ゆえにゲオルクは、
「全員――」
再集合しろ、陣形を組みなおすぞ、そう叫ぼうとした。
が、次の瞬間、
「「「!?」」」
突如後方から、自分達が篭城していた建物のほうから響いた轟音に、ゲオルク達は一斉に振り返った。
「いかん!」
真っ先に声を上げて走り始めたのはゲオルク。
観音開きの小門に向かって全速力で駆ける。
悠長に開く時間は無い、そう思ったゲオルクは門に向かって輝く右手をかざした。
が、直後、
「!」
その小門は同じ轟音と共に粉々になって吹き飛んだ。
閃光と共にあふれた蛇が、門だけでなくゲオルクまで食らわんと迫る。
手に込めていた魔力を盾に変えてそれを受ける。
「ぐっ!」
盾の横から回り込むように食らいついてきた蛇がその身に赤い線を残す。
盾にぶつかっった蛇が砕け、光る粒子となってゲオルクの視界を白く染める。
しかし次の瞬間、その白い世界の中に、
「!?」
ぼんやりと、黒い染みが浮かんだ。
それは人の形をしているように見えた。
そして振り上げられたその手は、その爪は、白い世界の中でも輝いて見えた。
ゲオルクは一瞬で察した。
この爪が先の音の正体、そして小門を切り刻んだものだと。
しかし次の瞬間、
「「雄雄っ!」」
ゲオルクの前に二つの影が左右から割り込んだ。
大盾を持った二人の兵士だ。
二人はその二つの盾を、振り下ろされる爪に向かって同時に突き出した。
「っ!」
そしてゲオルクの視界は甲高い金属音と共に白く塗り直された。
爪から生まれた蛇が盾を激しくひっかき、削る。
その耳障りな音と共に赤い火花が散る。
衝撃に二人の兵士の体が後ろに押し返される。
しかしそれは半歩ほどで音と共に止まった。
凌いだ、反撃するならば今、そう思った二人の兵士は足を前に出そうとしたが、
「でぇやああありゃぁっ!」
直後に響いたザウルの気勢と同時に、攻撃は再開された。
単発では無い、烈火のような連打。
小さな盾を形成した後、腕を伸ばしながら爪でえぐって嵐と成す。
嵐の規模は盾の大きさに依存するため小さい。
しかし代わりに連打が利く。
これが訓練によって得られたザウルの成果の一つ。
以前のような大きな一撃だけでなく、様々な状況に対応出来るようにザウルの技は多様化していた。
あまりの連打に受けている二人の背がのけぞり、足が下がる。
「ぬうぅっ!」
ゲオルクがその背を抱きつくように支える。
直後、
「「!?」」
左の兵士が持つ盾から響いた歪な音に、二人は目を見開いた。
限界寸前の音。
右半分の金属板がはがれ、裏張りに使われているなめし皮がむき出しになっている。
次の一撃で確実に貫かれる。
左の兵士はそれを瞬時に察したが、
(……)
その心は逆に静かになった。
自分に何が出来るか、何をするべきか、それを悟っていた。
だから覚悟も出来ていた。
繰り出された左爪が皮を引き裂き、兵士の胸に食い込む。
それは肺を貫いて背中に抜けるほどの一撃であったが、
「ゥ雄ォッ!」
兵士は胸から赤い華を咲かせながら体を前に出し、その腕を右手で掴んだ。
「!」
強烈な握力、抜けない、それを本能で察したザウルが右爪を繰り出そうとする。
しかしそれを読んでいた兵士はさらに踏み込んだ。
己を串刺しにしているザウルの左腕をさらに深く食い込ませながら。
四半歩ほど前進し、残骸のようになった盾をザウルの右手に叩き付ける。
「!?」
これに、今度はザウルが目を見開いた。
防御魔法の展開を阻止されたから、嵐の発生を潰されたからだ。
両腕を封じた形。
しかし赤く染まりつつある兵士にはそれ以上何も出来なかった。
だから、
「――ッ!」
叫んだ。
片肺は既に無く、喉は血で溢れていたため、それは声にはならなかった。
だが、その心の叫びは痛いほどに響いた。
俺ごとやれ、と。
その声にもう一人の兵士とゲオルクが応え、動き始める。
が、直後、
「「「?!」」」
今度はザウルの心の声が響いた。
『狼牙、一寸地鳴らし(いっすんぢならし)』と。
「でぇやっ!」「うがぁっ!」
そして場は乱戦になっていった。
ゲオルク達は槍衾を維持しようとしたが、それは難しかった。
なぜなら敵と味方の多くが入り混じって、交戦状態のまま散発的に集合したからだ。
助ける必要が無いほどに、有利な状態で駆けつけてくれた場合は良い。
だが、大きく不利であった場合は別だ。
こちらから駆けつければ助けられる、それが分かれば動きたくなるのが心情というもの。
当然それは槍衾のままでは間に合わない。
「前列突撃しろ!」
ゆえにゲオルクは声を上げ、兵士は走り始めた。
そうして陣形は分裂と再集合を繰り返し、
「次はこっちだ!」「手を貸せ!」「ぅわぁっ!」
いつしか、場は混沌としたものになった。
敵が激しく動いて場をかき乱している。
ゆえにゲオルクは、
「全員――」
再集合しろ、陣形を組みなおすぞ、そう叫ぼうとした。
が、次の瞬間、
「「「!?」」」
突如後方から、自分達が篭城していた建物のほうから響いた轟音に、ゲオルク達は一斉に振り返った。
「いかん!」
真っ先に声を上げて走り始めたのはゲオルク。
観音開きの小門に向かって全速力で駆ける。
悠長に開く時間は無い、そう思ったゲオルクは門に向かって輝く右手をかざした。
が、直後、
「!」
その小門は同じ轟音と共に粉々になって吹き飛んだ。
閃光と共にあふれた蛇が、門だけでなくゲオルクまで食らわんと迫る。
手に込めていた魔力を盾に変えてそれを受ける。
「ぐっ!」
盾の横から回り込むように食らいついてきた蛇がその身に赤い線を残す。
盾にぶつかっった蛇が砕け、光る粒子となってゲオルクの視界を白く染める。
しかし次の瞬間、その白い世界の中に、
「!?」
ぼんやりと、黒い染みが浮かんだ。
それは人の形をしているように見えた。
そして振り上げられたその手は、その爪は、白い世界の中でも輝いて見えた。
ゲオルクは一瞬で察した。
この爪が先の音の正体、そして小門を切り刻んだものだと。
しかし次の瞬間、
「「雄雄っ!」」
ゲオルクの前に二つの影が左右から割り込んだ。
大盾を持った二人の兵士だ。
二人はその二つの盾を、振り下ろされる爪に向かって同時に突き出した。
「っ!」
そしてゲオルクの視界は甲高い金属音と共に白く塗り直された。
爪から生まれた蛇が盾を激しくひっかき、削る。
その耳障りな音と共に赤い火花が散る。
衝撃に二人の兵士の体が後ろに押し返される。
しかしそれは半歩ほどで音と共に止まった。
凌いだ、反撃するならば今、そう思った二人の兵士は足を前に出そうとしたが、
「でぇやああありゃぁっ!」
直後に響いたザウルの気勢と同時に、攻撃は再開された。
単発では無い、烈火のような連打。
小さな盾を形成した後、腕を伸ばしながら爪でえぐって嵐と成す。
嵐の規模は盾の大きさに依存するため小さい。
しかし代わりに連打が利く。
これが訓練によって得られたザウルの成果の一つ。
以前のような大きな一撃だけでなく、様々な状況に対応出来るようにザウルの技は多様化していた。
あまりの連打に受けている二人の背がのけぞり、足が下がる。
「ぬうぅっ!」
ゲオルクがその背を抱きつくように支える。
直後、
「「!?」」
左の兵士が持つ盾から響いた歪な音に、二人は目を見開いた。
限界寸前の音。
右半分の金属板がはがれ、裏張りに使われているなめし皮がむき出しになっている。
次の一撃で確実に貫かれる。
左の兵士はそれを瞬時に察したが、
(……)
その心は逆に静かになった。
自分に何が出来るか、何をするべきか、それを悟っていた。
だから覚悟も出来ていた。
繰り出された左爪が皮を引き裂き、兵士の胸に食い込む。
それは肺を貫いて背中に抜けるほどの一撃であったが、
「ゥ雄ォッ!」
兵士は胸から赤い華を咲かせながら体を前に出し、その腕を右手で掴んだ。
「!」
強烈な握力、抜けない、それを本能で察したザウルが右爪を繰り出そうとする。
しかしそれを読んでいた兵士はさらに踏み込んだ。
己を串刺しにしているザウルの左腕をさらに深く食い込ませながら。
四半歩ほど前進し、残骸のようになった盾をザウルの右手に叩き付ける。
「!?」
これに、今度はザウルが目を見開いた。
防御魔法の展開を阻止されたから、嵐の発生を潰されたからだ。
両腕を封じた形。
しかし赤く染まりつつある兵士にはそれ以上何も出来なかった。
だから、
「――ッ!」
叫んだ。
片肺は既に無く、喉は血で溢れていたため、それは声にはならなかった。
だが、その心の叫びは痛いほどに響いた。
俺ごとやれ、と。
その声にもう一人の兵士とゲオルクが応え、動き始める。
が、直後、
「「「?!」」」
今度はザウルの心の声が響いた。
『狼牙、一寸地鳴らし(いっすんぢならし)』と。
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