Chivalry - 異国のサムライ達 -

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)

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最終章

第五十五話 逢魔の調べ(20)

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   ◆◆◆

「一刻も早く民を通過させろ!」

 レオンが撤退の指示を出したのとほぼ同時に、アランも声を上げていた。
 アランにはこの後の展開が予想できていた。台本が提示していた。
 この強烈な精神攻撃の中で緻密な連携を取り続けることは難しい。精神攻撃の波を相殺することに脳と虫の処理能力の多くを奪われるからだ。先の繚乱陣形のような動きは困難になる。
 つまり、『全体の動きが単調に、かつ鈍くなる』はずなのだ。
 ならばここで、塹壕陣地で敵を待ち受けて戦うのが最善。ここならば少ない動きで大きな成果を得られる。
 そしてそこにレオンが抱いた違和感の正体があった。
 思考力や判断力が低下するのは相手も同じはずなのだ。
 楽器にある程度の指向性を持たせていたとしても、全体に波が反響するのは避けられないはず。
 ならば、対処法が無ければ戦術的優位があまり得られないはずなのだ。

「……っ」

 そこまで考えたところでアランは奥歯をかみ締めた。
 アランの危惧は当たっていた。
 魔王はその「対処法」を持っているのだ。『既に実践している』のだ。

   ◆◆◆

「ほう、あれがそうか」

 騎馬隊を押し返しながら前進していた魔王軍であったが、御輿の上にいる総大将が放ったその一言と同時に足を止めた。
 前方には報告書にあった塹壕陣地が広がっている。
 恐ろしく横に長い。森などの障害物に当たるまで伸びている。

「……」

 その強固な防御に対し、魔王は珍しく思案した。
 遊撃部隊の援護を待ちたいのが正直なところだが、こちらには兵糧という制限時間がある。
 ならば挑むしかない。
 しかしあれと戦えばこちらも相応の被害を受けるだろう。
 そこまで考えたところで、

「……誰から先に『使いますか』?」

 横にいる参謀がその思考に割り込んだ。
 魔王はその問いに薄い笑みを浮かべた。
 参謀は魔王が考えていることを分かっていながら、あえて尋ねてきているからだ。
 だから『どれを使うか』と表現した。
 ゆえに魔王は参謀が既に知っている答えをそのまま返した。

「当然決まっている。使うのであれば『捨て駒』からだ」

 早めに消費したほうが食い扶持(くいぶち)が減って都合が良い、という思いを響かせながら。
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