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最終章
第五十五話 逢魔の調べ(15)
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問題はそれだけでは無い。
そしてその問題は再び迫っている。
ゆえにキーラは頭を地面にぶつける勢いで背を反らした。
同時に両腕を伸ばして逆立ちするように手の平を地面に叩きつける。
後方転回受身の動き。
しかしキーラの狙いは受身だけでは無かった。
もう視界に入っている問題、斜め後ろ左右から挟み撃ちを仕掛けてきている、受身狩り狙いの二頭の騎兵に対処するための初動。
複数からの同時攻撃を回避する方法はいくつかある。
自ら一方の敵に突撃して刹那の一対一を作るのがその一つ。
キーラはそのために地につけた両手を眩く爆発させ、その反動で飛んだ。
逆立ちからの曲芸のような跳躍。
ゆえに迎撃の型は自然と蹴り。
反らした上半身を戻しつつ、両足を曲げてバネを作る。
「!」
そしてそれを見た騎兵は焦りの波紋を水面に立たせた。
ランスで迎え討てないからだ。
右手に持って馬の横顔に添えるように地に水平に構えている。
対し、女は自身の左側を通り抜けようとしている。持ち替えも何も間に合わない。
が、
(なんの!)
槍が使えずとも、そんな心の叫びを響かせながら騎兵は防御魔法を展開した。
しかしキーラはここまで読んでいた。
右手の槍が使えないのであれば空いた左手でなんとかするしかない。そして出来る事といえばそれくらいしか無いからだ。
だからバネを作っておいた。その盾を貫くために。
そしてキーラは直後にそのバネの力を解放しながら腰を鋭く捻り、輝く蹴りを繰り出した。
「――ッ!」
しかし最初に悲鳴を上げたのは顔を横から蹴られた馬。
こうしないと乗り手と衝突してしまうからだ。
騎手の狙いは相打ち覚悟の体当たり。しかしキーラはそうでは無い。
反動で衝突軌道から己を逸らしながら、もう片方の足を騎手の横顔に叩き込む。
空中二段回し蹴り、とでも呼ぶべきかのような曲芸蹴り。
「ぐぇっ!」
顔がひしゃげるが騎手の頭の中に響き、自然と悲鳴が漏れる。
そして馬は転倒し、挟み撃ちを仕掛けるはずだった相棒と衝突した。
だが、その轟音の中に、
「っ!」
複数の光弾の炸裂音と、声にならなかったキーラの悲鳴が混ざった。
受身狩りを狙っていたのはこの二騎だけでは無い。周りの全騎がそうだ。
ゆえの、当然とも言うべき、あってしかるべき援護射撃。
いや、もう援護では無くかたき討ちと呼ぶべきか。
四方八方からキーラという一点の目標へ目掛けて飛び交う。
そこへさらにケビンの三日月が、嵐が加わる。
「うぅっ!」
生傷をさらに重ねるキーラ。
その痛みがキーラの心に一つの影を落とした。
死のイメージ。絶望の影。
その影が引き金となった。
「!」
瞬間、キーラは思い出した。封印していたある技を。
それは電撃魔法を使った切り札。
電撃魔法を使う敵はこの場にはいない。そういう意味では隠す意味が薄い。
これを封印していた理由は違う。これは本当の最終手段。追い詰められた時にのみ許される技。
まだ成功率が低く、上手くいったとしても体に大きな負荷を強いる諸刃の奥義。リックが使う最終奥義と同じ類のもの。
ゆえの封印。使いどころを誤らないための枷。
その枷が外れた今、追い詰められている今、使わない理由は無かった。
「雄雄ォッ!」
これが最後の手、賭けであることを知らしめるように雄叫ぶと同時に、キーラはそれを発動した。
キーラの両手から糸が伸びる。
それはこれまでと変わらない網であるように見えたが、
「「「?!」」」
場にいるキーラ以外の全員が息を呑んだ。
その糸が伸びた先、それはキーラ自身であったからだ。
蔓が木にからまるように、キーラの体に糸が纏わり付く。
そうだ。これはかつてシャロンが見せたものと同じ技。
この技をキーラは魔王との訓練の中で知った。
正確には覗き見えた。
人形の技を教わる際に、魔王の心にそのイメージが浮かび上がったのだ。
しかしそれは一瞬。
つまり魔王は隠したのだ。教えたく無かったのだ。
なぜか――その答えは既に推察出来ているが、それは今はどうでもいいことであった。
問題はこの技の錬度が低いこと。
当たり前である。その一瞬の映像だけを頼りに模索し、試行錯誤の末にようやく形になった技なのだから。
ゆえに自然と手に汗が滲む。
キーラはその汗を振り払うように、
「行くぞ!」
叫びながら足を前に出した。
そしてその問題は再び迫っている。
ゆえにキーラは頭を地面にぶつける勢いで背を反らした。
同時に両腕を伸ばして逆立ちするように手の平を地面に叩きつける。
後方転回受身の動き。
しかしキーラの狙いは受身だけでは無かった。
もう視界に入っている問題、斜め後ろ左右から挟み撃ちを仕掛けてきている、受身狩り狙いの二頭の騎兵に対処するための初動。
複数からの同時攻撃を回避する方法はいくつかある。
自ら一方の敵に突撃して刹那の一対一を作るのがその一つ。
キーラはそのために地につけた両手を眩く爆発させ、その反動で飛んだ。
逆立ちからの曲芸のような跳躍。
ゆえに迎撃の型は自然と蹴り。
反らした上半身を戻しつつ、両足を曲げてバネを作る。
「!」
そしてそれを見た騎兵は焦りの波紋を水面に立たせた。
ランスで迎え討てないからだ。
右手に持って馬の横顔に添えるように地に水平に構えている。
対し、女は自身の左側を通り抜けようとしている。持ち替えも何も間に合わない。
が、
(なんの!)
槍が使えずとも、そんな心の叫びを響かせながら騎兵は防御魔法を展開した。
しかしキーラはここまで読んでいた。
右手の槍が使えないのであれば空いた左手でなんとかするしかない。そして出来る事といえばそれくらいしか無いからだ。
だからバネを作っておいた。その盾を貫くために。
そしてキーラは直後にそのバネの力を解放しながら腰を鋭く捻り、輝く蹴りを繰り出した。
「――ッ!」
しかし最初に悲鳴を上げたのは顔を横から蹴られた馬。
こうしないと乗り手と衝突してしまうからだ。
騎手の狙いは相打ち覚悟の体当たり。しかしキーラはそうでは無い。
反動で衝突軌道から己を逸らしながら、もう片方の足を騎手の横顔に叩き込む。
空中二段回し蹴り、とでも呼ぶべきかのような曲芸蹴り。
「ぐぇっ!」
顔がひしゃげるが騎手の頭の中に響き、自然と悲鳴が漏れる。
そして馬は転倒し、挟み撃ちを仕掛けるはずだった相棒と衝突した。
だが、その轟音の中に、
「っ!」
複数の光弾の炸裂音と、声にならなかったキーラの悲鳴が混ざった。
受身狩りを狙っていたのはこの二騎だけでは無い。周りの全騎がそうだ。
ゆえの、当然とも言うべき、あってしかるべき援護射撃。
いや、もう援護では無くかたき討ちと呼ぶべきか。
四方八方からキーラという一点の目標へ目掛けて飛び交う。
そこへさらにケビンの三日月が、嵐が加わる。
「うぅっ!」
生傷をさらに重ねるキーラ。
その痛みがキーラの心に一つの影を落とした。
死のイメージ。絶望の影。
その影が引き金となった。
「!」
瞬間、キーラは思い出した。封印していたある技を。
それは電撃魔法を使った切り札。
電撃魔法を使う敵はこの場にはいない。そういう意味では隠す意味が薄い。
これを封印していた理由は違う。これは本当の最終手段。追い詰められた時にのみ許される技。
まだ成功率が低く、上手くいったとしても体に大きな負荷を強いる諸刃の奥義。リックが使う最終奥義と同じ類のもの。
ゆえの封印。使いどころを誤らないための枷。
その枷が外れた今、追い詰められている今、使わない理由は無かった。
「雄雄ォッ!」
これが最後の手、賭けであることを知らしめるように雄叫ぶと同時に、キーラはそれを発動した。
キーラの両手から糸が伸びる。
それはこれまでと変わらない網であるように見えたが、
「「「?!」」」
場にいるキーラ以外の全員が息を呑んだ。
その糸が伸びた先、それはキーラ自身であったからだ。
蔓が木にからまるように、キーラの体に糸が纏わり付く。
そうだ。これはかつてシャロンが見せたものと同じ技。
この技をキーラは魔王との訓練の中で知った。
正確には覗き見えた。
人形の技を教わる際に、魔王の心にそのイメージが浮かび上がったのだ。
しかしそれは一瞬。
つまり魔王は隠したのだ。教えたく無かったのだ。
なぜか――その答えは既に推察出来ているが、それは今はどうでもいいことであった。
問題はこの技の錬度が低いこと。
当たり前である。その一瞬の映像だけを頼りに模索し、試行錯誤の末にようやく形になった技なのだから。
ゆえに自然と手に汗が滲む。
キーラはその汗を振り払うように、
「行くぞ!」
叫びながら足を前に出した。
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