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最終章

第五十五話 逢魔の調べ(14)

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 これにアンナが(私も!)と続こうとしたが、ケビンはその考えを諌めた。
 我々が抜かれる可能性は十分にある、だからレオン将軍の傍を離れないでくれ、と。

「……」

 そう言われては従うしか無かった。

「ォ雄ッ!」

 一番槍になると思われる先頭のバージルの気勢が響く。
 これに対し、キーラが選んだのは下がりながらの円運動。
 その理由は回避のためだけでは無かった。
 迫るバージルとケビンの位置関係を自分から見て一直線上に並べるためだ。
 そうすればケビンの射線にバージルが重なるため攻撃できなくなる。
 のだが、その狙いを読んだバージルは即座に対応した。

「!?」

 直後、キーラの瞳に映っているバージルの背が突然伸びた。そのように見えた。
 足元に転がっている低い障害物を跳び越そうとしているかのような、小さな跳躍。
 しかしそうでは無かった。
 バージルは飛び越そうとしているのでは無く、「通そうとしている」のを感じ取ったキーラは即座に地を蹴った。
 キーラの影が後方に流れ始めると同時に、それはバージルの真下を通り抜けて二人の間に割り込んだ。
 ケビンが放った、地面を這うように奔る三日月。
 その光り輝く刃は直後にキーラの目の前で地面に食い込み、小さな嵐となった。

「ぐっ!」

 輝く右手と不器用になった左手でそれを受けるキーラ。
 深い傷は避けられてもやはり手数が足りない。子蛇による無数の噛み痕がその身に刻まれる。
 対し、得意の盾で受けたバージルは無傷。
 自らを巻き込ませる、強固な防御魔法を有する彼だからこそ出来る攻め。
 そして直後、バージルは残った子蛇を一掃するかのように、

「せぇやっ!」

 地面に降り立つと同時に、槍斧を袈裟に一閃した。
 キーラから見て左上から右下へ振り下ろされる刃。
 これにキーラは左下を回避先として選択。
 バージルの刃がキーラの右肩をかすめる。
 そしてその重い刃の感触が消えたのとほぼ同時に、光る二刀を構えたケビンがバージルの背後から飛び出してきた。

「疾っ!」

 気勢と共に踏み込みの勢いを乗せて二刀を突き出す。
 その諸手突きをキーラは左右の手刀で二本とも叩き払い、反撃に網を放つ。
 しかしそれが広がるよりも速く、ケビンは二刀を振り乱して切り刻んだ。
 ならば、と、キーラが攻撃を炎に切り替えようとする。
 だがそれを感じ取ったバージルが待ったをかけた。
 袈裟に振り下ろした槍斧をわざと地面にぶつけて止め、刃を切り返してキーラに目掛けて振り上げる。
 それを感じ取ったキーラが後方に地を蹴りながら、赤く光り始めた手の照準をバージルに合わせる。

「!」

 しかし直後、キーラはその手の色を赤から白に変えた。
 同時に衝撃への覚悟も固めた。
 バージルが踏み込みながら槍斧を握っていない片方の手で盾を叩きつけてくる、それを読み取ったからだ。
 だが迎え撃つために展開したキーラの守りは、バージルのものと比べると盾というよりは傘と言うべき貧弱なものであった。

「!? がっは!」

 そして直後、体に走った予想以上の衝撃と痛みに、キーラは嗚咽を漏らした。
 しかしキーラは瞬時に思考を痛みから切り離した。
 緩慢な世界で吹き飛びながら策を練る。
 だが、良い手は浮かばなかった。
 ゆえに、

(これは……!)

 これは厳しい、そんな言葉が浮かびかけたが理性はそれを完全に言葉にはしなかった。
 しかしキーラの本能は何度もそう告げていた。
 突ける弱点はあることにはある。
 あのバージルとかいう男の魔力量はそれほどでも無い。
 だからあの強力な盾を長時間展開しない。定期的に解除して息継ぎが必要なのだ。
 初手に見せた嵐との組み合わせが最強手のはず。しかしそれだけを続けないのは出来ないからだ。
 だがそれを分かっているケビンが上手く立ち回ってその隙を埋めている。
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