Chivalry - 異国のサムライ達 -

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)

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最終章

第五十五話 逢魔の調べ(12)

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 だが、不運はキーラにも迫っていた。
 キーラはそれが分かっていたゆえに可能な限り次の爆発魔法を練成しようとした。
 が、キーラの心には雑念が纏わりついていた。
 聞いたことがあった。この大陸には非常に強力な爆発魔法の使い手が男女一人ずつ、二人いたと。
 そのうちの男のほうはこちら側に来たラルフだと予想している。
 しかし女のほうは聞いていた風貌と合わない。若く見える。
 つまりこれは三人目?
 そう考えるならば、これはあくまで「技」であるということになる。生まれ持っての身体的素質に依存しないただの技術だということだ。
 それはこの女が隠している事実とも辻褄が合う。
 しかしならば、なぜだ。
 なぜ魔王様はその技術を私に伝授してくれなかったのだ。習得は難しくとも、伝える時間は確実にあった。
 そしてこの推察から導き出せる答えは一つしかない。

(私は魔王様に――)

 その先をキーラはあえて言葉にしなかった。
 しかしそれでも強い苛立ちが湧き上がった。
 そしてその煮えたぎるような感情は、目の前に迫った己の不運と結びついた。
 それは巨大な光の壁。
 馬の速度をもって迫るその突進を、キーラは横に回避しながら爆発魔法を撃ち込んだ。
 爆音と共に舞い上がった砂煙が光の壁と馬体を包み込む。
 が、直後、その騎兵はなにごとも無かったように同じ勢いのまま、砂煙の中から飛び出した。
 そしてその騎手と意識の線を交えた瞬間、キーラは己の苛立ちをそいつにぶつけた。

「しつこいぞ貴様!」

 まったく違う言語であったが、感情の色からその意味を察したバージルは答えた。

「悪いが、馬は俺も得意なんでな!」

 このやり取りと同時にアンナとレオンに繋がっていたキーラの意識の線が完全に切れた。
 そしてそれを感じ取ったレオンは再び自隊を繚乱陣形に。
 場が再び乱れ、馬と光弾が往来する。
 しかしキーラは『まるでそんなことどうでもいいかのように』、意識の線をバージルに集中させた。
 バージルとキーラの影が何度も交錯する。
 傍目にはバージルが押しているように見えた。
 両者から発せられる心の声からもそのように感じられた。
 バージルの盾が巨大であり、隙が少ないのもあるが、やはりキーラが多勢に無勢の状況であることが大きい。
 キーラはすれ違い様に背後からバージルの馬に一撃を入れようとしているが、その隙を騎馬隊が埋めている。
 バージルとキーラが交錯する瞬間に合わせて、バージルの背後に割り込むように突進している。
 そして援護したその騎馬の隙を別の騎馬が埋める。誰にも背後の隙が生じぬように、途切れなくその交錯が続く。
 キーラはそれら騎馬隊の援護攻撃をやりすごしながら、バージルへの一撃の隙をうかがっていた。『誰の感知にもそのように感じられた』。
 のだが、

「!」

 ある突進をキーラが回避した瞬間、避けられたバージルはその表情を変えた。
 直前まで強く繋がっていたキーラの意識の線が切れたからだ。
 同時に自分から離れるように走り始めた。
 何を目指して――それをバージルが探ろうとした瞬間、

「「!」」

 キーラのつま先が示す先にいる、レオンとアンナが同じ表情を浮かべた。
 キーラの線が自分たちに結びついたからだ。
 同時にレオンは感じ取った。
 キーラがこの瞬間を待っていたことを。バージルとの位置関係が真反対になる時を。
 キーラは二人のことをあきらめていなかったのだ。キーラは再び同じ手を使ったのだ。二人のことを一時的に忘れたのだ。
 だからレオンは後悔した。
 なぜ、もっと遠くに離れなかったのかと。
 火力のあるアンナがいつでも援護出来るようにと、中距離を維持してしまったことを。

(いや、待て……?)

 レオンは気付いた。
 そもそもその考え方がおかしい。
 まずはアンナのための馬を確保すべきだったのだ。機動力の低い二人乗りを維持しているほうがおかしい。
 レオンがそれに気付いた直後、声が響いた。

(ようやく気付いたか!)

 勝ち誇ったかのようなキーラの声。
 その声と同時に、キーラは種明かしをした。
 キーラは気付いていた。レオンの能力がまだ未熟であることを。
 共感を用いた連携は出来るが、虫はまだ使えないことを。
 言い換えれば、それは虫を使った攻撃に対して無防備であること。
 ゆえに、キーラは虫をレオンの頭に送り込んでその判断を狂わせたのだ。
 先の一合の際にそれは仕込まれていた。
 虫を多少使えるアンナが真後ろにいたゆえにそれは賭けであった。
 しかしアンナの虫に対しての警戒力、自衛能力を見る限り、それは悪く無い賭けであった。
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