510 / 586
最終章
第五十五話 逢魔の調べ(8)
しおりを挟む
入り乱れる場の中に突如生まれたその秩序ある集団に向かってキーラが駆ける。
「はぁっ!」
その足を止めんと、正面から押し迫った騎兵がランスを繰り出す。
これに対しキーラが選んだ道は「下」。
両足を前に出しながら寝そべるように体勢を後ろに倒し、馬体の下を滑り抜ける。
馬の足運びまで計算出来ているキーラにとっては曲芸でも何でも無い。これが一番楽そうだったから、ただそれだけのこと。
すれ違い様の電撃魔法というお返しも当然忘れない。
馬体が倒れる音が背後から響き渡り、キーラの瞳に正面と斜め前の左右から迫る三騎の姿が映る。
キーラはその到達順を即座に計算し、
(まずは右――)
初手の振り上げを横移動で回避し、
(続いて左――)
次手のなぎ払いを屈んでやり過ごし、
(最後に正面)
三手目の突きを輝く手で受け流しながら、横転でその衝撃をいなした。
即座に体勢を立て直して地を蹴り直す。
「せぇいっ!」「雄ォッ!」「でぇやッ!」
休む間も無く騎兵達が濁流のようにキーラに襲い掛かる。
しかし当たらない。
蝶のごとく、ひらりひらりと避けられる。
その掴みどころの無い動きに対し、騎兵の一人が心の声を上げた。
一人ずつでは駄目だ、と。
これに別の誰かが呼応し、声を上げた。
もっと密度のある大きな攻撃で無くてはこいつには通じない、と。
その声に多くの者が頷きを返し、直後に形となった。
まるで磁石が引き合うかの如く、四、五人の集団がキーラの周辺で次々と形成され始める。
そしてその集団群はそれぞれ密着した横一列の形を作り、
「「「ハイラッ!」」」
押しつぶさんと、キーラに迫った。
これに対し、キーラは迂回などの回避行動を取らなかった。
対処法はもう決まっていた。
ゆえに、キーラは進路を塞ぐ集団に向かって自ら突撃し、
「「「!」」」
完成した赤い弾をその集団の足元に向かって投げた。
急停止が間に合わぬゆえに、集団の選択は同時跳躍。
弾けて生じた衝撃波に押し上げられるかのように馬体が浮き上がる。
その下にキーラはするりと潜り込んだ。
爆発の衝撃を出来るだけやりすごすための四つんばいの低姿勢で。
まるで本物の豹のように。
そして電撃の網を馬の足にからませながら通り抜けたキーラは即座に立ち上がった。
集団が転倒する音が耳に入ると同時に、後方に炎を放射しながら走り出す。
キーラの瞳にははっきりと映っていた。
包囲の外周をなぞるように回りながら指示を出しているレオンの姿が。
しかし間に合うか、そんな言葉がキーラの心に浮かんでいた。
ゆえの、時間稼ぎのための炎。
士気の高いこの連中はこの程度では完全には止まらない。火達磨になりながらでも突撃してくるだろう。
だがそれでも数秒稼げればいい、キーラはそう願っていたのだが、
「っ!」
その願いは叶いそうに無かった。
キーラは感じ取った。
同じ攻撃で、いや、より強烈な赤色でこちらの炎を押し返しながら迫ってくる騎兵の存在を。
その者はその身には不釣合いな長剣を同じ色で染めた直後、
「鋭ぃっや!」
カルロの娘の名に恥じぬ赤い大蛇を、キーラの背に向けて放った。
「はぁっ!」
その足を止めんと、正面から押し迫った騎兵がランスを繰り出す。
これに対しキーラが選んだ道は「下」。
両足を前に出しながら寝そべるように体勢を後ろに倒し、馬体の下を滑り抜ける。
馬の足運びまで計算出来ているキーラにとっては曲芸でも何でも無い。これが一番楽そうだったから、ただそれだけのこと。
すれ違い様の電撃魔法というお返しも当然忘れない。
馬体が倒れる音が背後から響き渡り、キーラの瞳に正面と斜め前の左右から迫る三騎の姿が映る。
キーラはその到達順を即座に計算し、
(まずは右――)
初手の振り上げを横移動で回避し、
(続いて左――)
次手のなぎ払いを屈んでやり過ごし、
(最後に正面)
三手目の突きを輝く手で受け流しながら、横転でその衝撃をいなした。
即座に体勢を立て直して地を蹴り直す。
「せぇいっ!」「雄ォッ!」「でぇやッ!」
休む間も無く騎兵達が濁流のようにキーラに襲い掛かる。
しかし当たらない。
蝶のごとく、ひらりひらりと避けられる。
その掴みどころの無い動きに対し、騎兵の一人が心の声を上げた。
一人ずつでは駄目だ、と。
これに別の誰かが呼応し、声を上げた。
もっと密度のある大きな攻撃で無くてはこいつには通じない、と。
その声に多くの者が頷きを返し、直後に形となった。
まるで磁石が引き合うかの如く、四、五人の集団がキーラの周辺で次々と形成され始める。
そしてその集団群はそれぞれ密着した横一列の形を作り、
「「「ハイラッ!」」」
押しつぶさんと、キーラに迫った。
これに対し、キーラは迂回などの回避行動を取らなかった。
対処法はもう決まっていた。
ゆえに、キーラは進路を塞ぐ集団に向かって自ら突撃し、
「「「!」」」
完成した赤い弾をその集団の足元に向かって投げた。
急停止が間に合わぬゆえに、集団の選択は同時跳躍。
弾けて生じた衝撃波に押し上げられるかのように馬体が浮き上がる。
その下にキーラはするりと潜り込んだ。
爆発の衝撃を出来るだけやりすごすための四つんばいの低姿勢で。
まるで本物の豹のように。
そして電撃の網を馬の足にからませながら通り抜けたキーラは即座に立ち上がった。
集団が転倒する音が耳に入ると同時に、後方に炎を放射しながら走り出す。
キーラの瞳にははっきりと映っていた。
包囲の外周をなぞるように回りながら指示を出しているレオンの姿が。
しかし間に合うか、そんな言葉がキーラの心に浮かんでいた。
ゆえの、時間稼ぎのための炎。
士気の高いこの連中はこの程度では完全には止まらない。火達磨になりながらでも突撃してくるだろう。
だがそれでも数秒稼げればいい、キーラはそう願っていたのだが、
「っ!」
その願いは叶いそうに無かった。
キーラは感じ取った。
同じ攻撃で、いや、より強烈な赤色でこちらの炎を押し返しながら迫ってくる騎兵の存在を。
その者はその身には不釣合いな長剣を同じ色で染めた直後、
「鋭ぃっや!」
カルロの娘の名に恥じぬ赤い大蛇を、キーラの背に向けて放った。
0
お気に入りに追加
88
あなたにおすすめの小説
夫を愛することはやめました。
杉本凪咲
恋愛
私はただ夫に好かれたかった。毎日多くの時間をかけて丹念に化粧を施し、豊富な教養も身につけた。しかし夫は私を愛することはなく、別の女性へと愛を向けた。夫と彼女の不倫現場を目撃した時、私は強いショックを受けて、自分が隣国の王女であった時の記憶が蘇る。それを知った夫は手のひらを返したように愛を囁くが、もう既に彼への愛は尽きていた。
【完結】王子は聖女と結婚するらしい。私が聖女であることは一生知らないままで
雪野原よる
恋愛
「聖女と結婚するんだ」──私の婚約者だった王子は、そう言って私を追い払った。でも、その「聖女」、私のことなのだけど。
※王国は滅びます。
〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。
だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。
十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。
ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。
元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。
そして更に二年、とうとうその日が来た……
別に構いませんよ、離縁するので。
杉本凪咲
恋愛
父親から告げられたのは「出ていけ」という冷たい言葉。
他の家族もそれに賛同しているようで、どうやら私は捨てられてしまうらしい。
まあいいですけどね。私はこっそりと笑顔を浮かべた。
何を間違った?【完結済】
maruko
恋愛
私は長年の婚約者に婚約破棄を言い渡す。
彼女とは1年前から連絡が途絶えてしまっていた。
今真実を聞いて⋯⋯。
愚かな私の後悔の話
※作者の妄想の産物です
他サイトでも投稿しております
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる