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最終章
第五十五話 逢魔の調べ(6)
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防御魔法が破れ、爆発の衝撃が影達の体を打っていたが、影達は意にも介していなかった。
その波を乱さんと、騎兵達が間を置かずに次々と攻め立てる。
突き、なぎ払い、振り上げ、様々な型が濁流のように、そして時に同時に襲い掛かる。
それらを必死に受ける。
肩の肉が削られ、骨にヒビが入りながらも、致命傷を避け続ける。
そしてその前列の負傷に対し後列が前へ入れ替わる。自発的に死線である前列に立つ。
もはや誰も死に対して弱い感情を抱いていない。
「雄雄ォッ!」
自然と影の誰かの口から雄たけびが漏れる。
その気勢ごとねじ伏せんと、騎兵がランスを振るう。
「!」
その一撃に前列右端の影の姿勢が崩れる。
騎兵の突進に対して後退を続けて被害を抑えている状態。少しでも遅れれば死は免れない。
だが、影は「誰か」とも声を上げなかった。
影はやはり達観していた。
何も言わなくても誰かが自発的に動く、助けてくれなくてもそれはしょうがない、足手まといになるくらいならば、そんな感情を抱いていた。
直後、そんな声無き思いに中心のキーラと左隣の影が応えた。
キーラが襟首を後ろから掴み、遅れないように引き込みながら、左の影が後ろに傾いた腰を片手で持ち上げて態勢を立て直させる。
しかしそこへ、離れたところから放たれた数発の光弾の横槍が入った。
別の影が防御魔法でそれを受ける。
瞬間、全員の心に緊張が走った。
これまでに無かった横槍が入った意味を理解したからだ。
それは徐々に攻撃が苛烈になっている事実と繋がった。
もう本当にこの場には我々しかいなかった。キーラの感知がその残酷な答えを示した。
しかしそれでも影達の波紋に乱れは無かった。
が、直後、
「「全隊、繚乱陣形!」」
アンナとレオンが同時に発したその号令を聞いた瞬間、キーラの心に初めて濃い影が差した。
その陣の内容を誰よりも早く読み取れたからだ。
繚乱陣形、それは繚乱の言葉通り、全ての騎兵が自由に入り乱れる動き方を指す。
それはかつてアンナがレオンに見せた、虫の群れのようなあの動き。
だからキーラは焦った。
ここにきてさらに交差攻撃が加わるのか、と。
その焦りはキーラ達の目の前で形になった。
騎兵達が隊列を解き、その動きから規則性を消す。
あるのはただ一つ、互いにぶつかるな、それだけ。
「挟まれます!」
前後から同時に来ると影が叫ぶ。
相対速度の減少による防御は使えない。左右のどちらかに逃げるしかない。
これにキーラは「右」を選択。
それを感じ取った右方の騎兵が回りこみを開始。
その動きに対してキーラは退路を変更。
それに別の騎兵が対応する。
キーラ達の退路が次々と消えていく。
「くっ!」
やむを得ない、そんな思いでキーラが貴重な爆発魔法を投擲。
影達が光弾でそれに続く。
しかし隊列に突破口が、穴が生じない。時間稼ぎにしかならない。
そして包囲はあっという間に縮まり――
「ぐぇっ!」「ぁがっ!」
遂に一番槍が入った。
なぎ払いがキーラの右隣にいる二人を吹き飛ばす。
「げっはっ!」
間髪入れずに左から振り上げ。
「うぇっ!?」
そして後ろから突き。
完全に一方的。
巣から池に落ちてしまった幼鳥にピラニアが群がるかのように。
食い散らかされるように影達の命が散っていく。
そして人数はキーラを含めて三人に。
もはや集合防御の意味が薄い。
ゆえに、影の二人は同時に声を上げた。
「隊長!」「お先に!」
強い戦士に後を託します、そんな思いを込めて。
「「ぅ雄雄っ!」」
そして二人はキーラから離れて突撃し、
「ぐっ!」「うっ!」
瞬く間にその命を散らした。
その二つのうちの一方をなぎ払った一騎が、そのままキーラに突撃する。
直後、
「!」
騎兵は驚いた。
キーラが自ら突進してきたからだ。
キーラにとって実力差の離れた仲間の存在は枷でもあった。
集合防御の要を担っていたゆえに、その実力が封じられていた。
そして遂にその封印が解かれたキーラは、その力を見せ始めた。
その波を乱さんと、騎兵達が間を置かずに次々と攻め立てる。
突き、なぎ払い、振り上げ、様々な型が濁流のように、そして時に同時に襲い掛かる。
それらを必死に受ける。
肩の肉が削られ、骨にヒビが入りながらも、致命傷を避け続ける。
そしてその前列の負傷に対し後列が前へ入れ替わる。自発的に死線である前列に立つ。
もはや誰も死に対して弱い感情を抱いていない。
「雄雄ォッ!」
自然と影の誰かの口から雄たけびが漏れる。
その気勢ごとねじ伏せんと、騎兵がランスを振るう。
「!」
その一撃に前列右端の影の姿勢が崩れる。
騎兵の突進に対して後退を続けて被害を抑えている状態。少しでも遅れれば死は免れない。
だが、影は「誰か」とも声を上げなかった。
影はやはり達観していた。
何も言わなくても誰かが自発的に動く、助けてくれなくてもそれはしょうがない、足手まといになるくらいならば、そんな感情を抱いていた。
直後、そんな声無き思いに中心のキーラと左隣の影が応えた。
キーラが襟首を後ろから掴み、遅れないように引き込みながら、左の影が後ろに傾いた腰を片手で持ち上げて態勢を立て直させる。
しかしそこへ、離れたところから放たれた数発の光弾の横槍が入った。
別の影が防御魔法でそれを受ける。
瞬間、全員の心に緊張が走った。
これまでに無かった横槍が入った意味を理解したからだ。
それは徐々に攻撃が苛烈になっている事実と繋がった。
もう本当にこの場には我々しかいなかった。キーラの感知がその残酷な答えを示した。
しかしそれでも影達の波紋に乱れは無かった。
が、直後、
「「全隊、繚乱陣形!」」
アンナとレオンが同時に発したその号令を聞いた瞬間、キーラの心に初めて濃い影が差した。
その陣の内容を誰よりも早く読み取れたからだ。
繚乱陣形、それは繚乱の言葉通り、全ての騎兵が自由に入り乱れる動き方を指す。
それはかつてアンナがレオンに見せた、虫の群れのようなあの動き。
だからキーラは焦った。
ここにきてさらに交差攻撃が加わるのか、と。
その焦りはキーラ達の目の前で形になった。
騎兵達が隊列を解き、その動きから規則性を消す。
あるのはただ一つ、互いにぶつかるな、それだけ。
「挟まれます!」
前後から同時に来ると影が叫ぶ。
相対速度の減少による防御は使えない。左右のどちらかに逃げるしかない。
これにキーラは「右」を選択。
それを感じ取った右方の騎兵が回りこみを開始。
その動きに対してキーラは退路を変更。
それに別の騎兵が対応する。
キーラ達の退路が次々と消えていく。
「くっ!」
やむを得ない、そんな思いでキーラが貴重な爆発魔法を投擲。
影達が光弾でそれに続く。
しかし隊列に突破口が、穴が生じない。時間稼ぎにしかならない。
そして包囲はあっという間に縮まり――
「ぐぇっ!」「ぁがっ!」
遂に一番槍が入った。
なぎ払いがキーラの右隣にいる二人を吹き飛ばす。
「げっはっ!」
間髪入れずに左から振り上げ。
「うぇっ!?」
そして後ろから突き。
完全に一方的。
巣から池に落ちてしまった幼鳥にピラニアが群がるかのように。
食い散らかされるように影達の命が散っていく。
そして人数はキーラを含めて三人に。
もはや集合防御の意味が薄い。
ゆえに、影の二人は同時に声を上げた。
「隊長!」「お先に!」
強い戦士に後を託します、そんな思いを込めて。
「「ぅ雄雄っ!」」
そして二人はキーラから離れて突撃し、
「ぐっ!」「うっ!」
瞬く間にその命を散らした。
その二つのうちの一方をなぎ払った一騎が、そのままキーラに突撃する。
直後、
「!」
騎兵は驚いた。
キーラが自ら突進してきたからだ。
キーラにとって実力差の離れた仲間の存在は枷でもあった。
集合防御の要を担っていたゆえに、その実力が封じられていた。
そして遂にその封印が解かれたキーラは、その力を見せ始めた。
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