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最終章
第五十四話 魔王上陸(17)
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「!」
その動きにカイルは身を強張らせた。
投げた網の下に潜り込むように、自分に糸をからませるように突進してきたからだ。
己が感電する心配は無い、その理由まで感じ取ったゆえにカイルは焦りを抱いた。
網か、それとも本体か、どちらを迎撃する? そんな悩みが一瞬浮かんだが、
(両方!)
どちらとも止めるか避けるしか無い、そう即決したカイルは後退と同時に散弾と鎖を放った。
乱反射し、網のようになった鎖がキーラを迎え撃つ。
直後、カイルの心にキーラの声が響いた。
それはもう通じないことを先ほど見せたはずだ、と。
その答えをキーラは感電しない理由と共に再び見せた。
糸を放っていないほうの手から、左手から炎を前方に向けて噴射。
鎖が炎に押し返され、舞い上がる熱波が糸を浮かせ直す。
だから通じない。感電もしない。
「っ!」
そして迫ってきたその赤い蛇と糸を、カイルは咄嗟に冷気の盾で受け止めた。
互いの炎魔法と冷却魔法がせめぎ合う。
そこから生じた光の粒子の中に飛び込むかのようにキーラが迫り、
「破っ!」
そのせめぎ合いという膠着を己が放った糸ごと切り裂くように、キーラは輝く右爪を繰り出した。
バターを切るかのように、ずぶりと爪が光る盾に食い込む。
それを予想していたカイルは即座に盾を放棄。
鏡合わせとなる自身の左手刀でキーラの右爪を払い、炎の蛇口である左手を冷却魔法を込めた右手で蓋をする。
冷たいカイルの右手とキーラの赤い左手が重なる。
瞬間、二人は同時にもう片方の手の形と動きを変えた。
カイルは親指だけで握っていた鎖を振り直すために。
そしてキーラは再び網を放つために。
それはカイルにとって考えるまでも無いことであった。
己が圧倒的に不利、鎖は絶対に間に合わないことは。
だからカイルは後転するかのように鋭く後ろに倒れこんだ。
「ぐっ!」
地に背が触れたと同時にカイルの体に電流が走る。
しかしカイルは痛みだけでは無く、倒れながら突き出した両足でキーラを蹴り返したのを感じていた。
その手ごたえは確かであった。ゆえにカイルは気付いた。
これでは時間稼ぎにもなっていないと。
自分が立ち上がる余裕すら得られていないと。
既に相手が右爪を振り下ろそうとしているのが見える。
鎖を引き戻して相手に絡めるのは間に合わない。
精々、防御魔法を展開することくらいしか出来ない。
だからカイルは右に意識を向けた。
そこには槍斧を投げようとしているバージルの姿があった。
ゆえに瞬間、三人の意識が交錯した。
キーラは心の中で笑みを浮かべていた。
いくらその槍が重いとはいえ左手で受け流す余裕はある、と。
それに対しカイルは叫んだ。
構うな、俺ごとやる勢いで投げろ、と。
しかしバージルはその叫びに頷くことは出来なかった。
確かに、今から投げても無意味であるように思えたからだ。
だからバージルは「二人の意見を組み合わせる」ことにした。
「!?」
そしてその思考を読んだキーラは焦りと共に右爪を振り下ろした。
鎖を添えた輝く両手の平でカイルがその一撃を受け止める。
「っ!」
直後、カイルの体に再び紫電が走った。
これでは数秒も持たない。
だからカイルはバージルがやろうとしていることに賭けた。
既に投擲動作に入っていたバージルはその動作のまま前方斜め下、地面に向かって槍斧を突き出した。
輝く鋭利な先端が石畳の道路に突き刺さる。
瞬間、バージルはその槍先から閃光魔法を地中に向かって放つイメージで魔力を爆発させた。
光が地面の中で暴れ回り、石畳の隙間から漏れ出す。
そして石畳が浮き上がり始めたのを感じ取ったバージルは、
「せぇやっ!」
突き上げるように槍斧を振り上げた。
まるで破れた白い傘をかぶせたかのような歪な光を纏った斧頭が、同じ歪な白い弧を描きながら石畳を巻き上げ、吹き飛ばす。
放たれた石畳が石の散弾となってキーラに迫る。
「くっ!」
片手の防御魔法だけでは危険、両手を使えば目の前にいるカイルから反撃される、そう判断したキーラは好機を潰されたことに対する怒りと共に地を蹴った。
だが、バージルの方も明るい感情は抱いていなかった。
なぜなら、散弾の範囲が思ったよりも広く、勢いあるものになってしまったからだ。
ゆえに当然、カイルだけで無く、
「ぐぅっ?!」「きゃあぁっ!?」
周辺にいる味方も、奥にいる市民も巻き込んだ。
その悲鳴に対し、バージルは、
「すまない!」
謝罪の声を返しながらカイルのもとに駆け寄った。
「いいや、助かった!」
カイルが感謝の言葉を返す。
その声からバージルは感じ取った。
声色に痛みが滲んでいるのを。
バージルは直後にその突き刺さるような感覚の出所を感知で読み取った。
発生源は肩。
キーラの電撃のせいでろくに動けなかったカイルは石畳の直撃をそこに受けたのだ。
その動きにカイルは身を強張らせた。
投げた網の下に潜り込むように、自分に糸をからませるように突進してきたからだ。
己が感電する心配は無い、その理由まで感じ取ったゆえにカイルは焦りを抱いた。
網か、それとも本体か、どちらを迎撃する? そんな悩みが一瞬浮かんだが、
(両方!)
どちらとも止めるか避けるしか無い、そう即決したカイルは後退と同時に散弾と鎖を放った。
乱反射し、網のようになった鎖がキーラを迎え撃つ。
直後、カイルの心にキーラの声が響いた。
それはもう通じないことを先ほど見せたはずだ、と。
その答えをキーラは感電しない理由と共に再び見せた。
糸を放っていないほうの手から、左手から炎を前方に向けて噴射。
鎖が炎に押し返され、舞い上がる熱波が糸を浮かせ直す。
だから通じない。感電もしない。
「っ!」
そして迫ってきたその赤い蛇と糸を、カイルは咄嗟に冷気の盾で受け止めた。
互いの炎魔法と冷却魔法がせめぎ合う。
そこから生じた光の粒子の中に飛び込むかのようにキーラが迫り、
「破っ!」
そのせめぎ合いという膠着を己が放った糸ごと切り裂くように、キーラは輝く右爪を繰り出した。
バターを切るかのように、ずぶりと爪が光る盾に食い込む。
それを予想していたカイルは即座に盾を放棄。
鏡合わせとなる自身の左手刀でキーラの右爪を払い、炎の蛇口である左手を冷却魔法を込めた右手で蓋をする。
冷たいカイルの右手とキーラの赤い左手が重なる。
瞬間、二人は同時にもう片方の手の形と動きを変えた。
カイルは親指だけで握っていた鎖を振り直すために。
そしてキーラは再び網を放つために。
それはカイルにとって考えるまでも無いことであった。
己が圧倒的に不利、鎖は絶対に間に合わないことは。
だからカイルは後転するかのように鋭く後ろに倒れこんだ。
「ぐっ!」
地に背が触れたと同時にカイルの体に電流が走る。
しかしカイルは痛みだけでは無く、倒れながら突き出した両足でキーラを蹴り返したのを感じていた。
その手ごたえは確かであった。ゆえにカイルは気付いた。
これでは時間稼ぎにもなっていないと。
自分が立ち上がる余裕すら得られていないと。
既に相手が右爪を振り下ろそうとしているのが見える。
鎖を引き戻して相手に絡めるのは間に合わない。
精々、防御魔法を展開することくらいしか出来ない。
だからカイルは右に意識を向けた。
そこには槍斧を投げようとしているバージルの姿があった。
ゆえに瞬間、三人の意識が交錯した。
キーラは心の中で笑みを浮かべていた。
いくらその槍が重いとはいえ左手で受け流す余裕はある、と。
それに対しカイルは叫んだ。
構うな、俺ごとやる勢いで投げろ、と。
しかしバージルはその叫びに頷くことは出来なかった。
確かに、今から投げても無意味であるように思えたからだ。
だからバージルは「二人の意見を組み合わせる」ことにした。
「!?」
そしてその思考を読んだキーラは焦りと共に右爪を振り下ろした。
鎖を添えた輝く両手の平でカイルがその一撃を受け止める。
「っ!」
直後、カイルの体に再び紫電が走った。
これでは数秒も持たない。
だからカイルはバージルがやろうとしていることに賭けた。
既に投擲動作に入っていたバージルはその動作のまま前方斜め下、地面に向かって槍斧を突き出した。
輝く鋭利な先端が石畳の道路に突き刺さる。
瞬間、バージルはその槍先から閃光魔法を地中に向かって放つイメージで魔力を爆発させた。
光が地面の中で暴れ回り、石畳の隙間から漏れ出す。
そして石畳が浮き上がり始めたのを感じ取ったバージルは、
「せぇやっ!」
突き上げるように槍斧を振り上げた。
まるで破れた白い傘をかぶせたかのような歪な光を纏った斧頭が、同じ歪な白い弧を描きながら石畳を巻き上げ、吹き飛ばす。
放たれた石畳が石の散弾となってキーラに迫る。
「くっ!」
片手の防御魔法だけでは危険、両手を使えば目の前にいるカイルから反撃される、そう判断したキーラは好機を潰されたことに対する怒りと共に地を蹴った。
だが、バージルの方も明るい感情は抱いていなかった。
なぜなら、散弾の範囲が思ったよりも広く、勢いあるものになってしまったからだ。
ゆえに当然、カイルだけで無く、
「ぐぅっ?!」「きゃあぁっ!?」
周辺にいる味方も、奥にいる市民も巻き込んだ。
その悲鳴に対し、バージルは、
「すまない!」
謝罪の声を返しながらカイルのもとに駆け寄った。
「いいや、助かった!」
カイルが感謝の言葉を返す。
その声からバージルは感じ取った。
声色に痛みが滲んでいるのを。
バージルは直後にその突き刺さるような感覚の出所を感知で読み取った。
発生源は肩。
キーラの電撃のせいでろくに動けなかったカイルは石畳の直撃をそこに受けたのだ。
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