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最終章
第五十四話 魔王上陸(16)
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カイルに絞っていた照準を外し、跳弾の射手と市民をなぎ払うように赤い大蛇を振るう。
「がぁあっ!」
そしてその蛇に飲まれた誰かの悲鳴が場に響いた瞬間、カイルは思わず前へ飛び出した。
あれはすぐに止めなくてはならない、そう思った。
そしてそれが出来るのは炎使いと相性の良い自分しかいない、そう思った。
かつてリーザと戦った時も似たような思いを抱いていたような気がする、そんな既視感と共にカイルは地を蹴った。
キーラの照準が再びカイルに戻り、蛇が襲い掛かる。
カイルの冷たい盾と灼熱の牙がせめぎ合い、光の粒子が舞い散る。
次の瞬間、カイルはその上さらに電撃魔法の網が覆いかぶせるように放たれたのを感じ取った。
その盾ごと包み込む、そんな意思も感じ取ったがカイルは足を止めることも、回避行動を取ることも無かった。
必要無いことが分かっていたからだ。
「でぇやっ!」
直後に斜め後ろから響いたのはバージルの声。
気勢と共に斜め上に放たれたのは三日月。
輝く巨大な刃が網を切り裂く。
同時にバージルはカイルの右隣に並び、防御魔法を展開するその右手に己が左手を添えた。
そして編み出されたるは巨大な防御魔法。
協力魔法によって作り出された冷気の壁がキーラに押し迫る。
「「ぅ雄雄っ!」」
止められるものならば止めて見せろ、そんな思いを二人は気勢に変えて放った。
これをキーラは、
(……ふっ)
嘲笑と共にその挑戦を受けた。
そしてキーラが繰り出したのは右手を槍のように尖らせた赤い貫手。
キーラは知っていたのだ。この冷たい壁の弱点を。
それを少し離れたところで感じ取ったケビンは、
「駄目だ!」
走る二人の背中に叫びを叩き付けた。
「「!」」
その叫び声に込められていた思いを読み取ったカイルとバージルが瞬時に左右に地を蹴る。
そして二人の足が離れたのと、キーラの赤い貫手が光る壁に突き刺さったのは同時だった。
この壁は触れたもの全てを瞬く間に凍らせる。
しかしその冷たさゆえに自由粒子の数は極端に少ない。光弾には強いが、重さを有する攻撃には見た目ほどの強度を有しない。
さらに巨大であるがゆえに通常の防御魔法のような切り替えが、自由粒子の数の調整が即座に出来ない。
キーラはそれを知っていた。
ゆえに炎を纏わせた貫手。
赤い閃光のような一撃が巨大な壁を穿ち、破る。
しかしそこに二人に影は既に無い。
ゆえにキーラも即座に地を蹴り直す。
目標はカイル。
二人の視線がからみつくように交錯する。
そしてカイルは感じ取った。キーラの心の声を。
お前は先ほど「自分はこいつと相性が良い」と思ったな、と。
その声にカイルは頷きを返さなかったが、キーラはかまわず続けた。
そしてその続きは心の声では無く、現実の叫びとしてカイルの耳に響いた。
「それはまったくもって『同感』だ!」と。
炎と冷気、それは互いの手を封じてしまう組み合わせ。
ゆえに双方にとって厄介な相手である。
だからキーラはその思いを心の叫びに変えた。
ならば早めに始末したいと思うのが、惹かれ合うのが道理であろう、と。
そう心の中で叫ぶと同時に、キーラは網を投げながら地を蹴りなおした。
「がぁあっ!」
そしてその蛇に飲まれた誰かの悲鳴が場に響いた瞬間、カイルは思わず前へ飛び出した。
あれはすぐに止めなくてはならない、そう思った。
そしてそれが出来るのは炎使いと相性の良い自分しかいない、そう思った。
かつてリーザと戦った時も似たような思いを抱いていたような気がする、そんな既視感と共にカイルは地を蹴った。
キーラの照準が再びカイルに戻り、蛇が襲い掛かる。
カイルの冷たい盾と灼熱の牙がせめぎ合い、光の粒子が舞い散る。
次の瞬間、カイルはその上さらに電撃魔法の網が覆いかぶせるように放たれたのを感じ取った。
その盾ごと包み込む、そんな意思も感じ取ったがカイルは足を止めることも、回避行動を取ることも無かった。
必要無いことが分かっていたからだ。
「でぇやっ!」
直後に斜め後ろから響いたのはバージルの声。
気勢と共に斜め上に放たれたのは三日月。
輝く巨大な刃が網を切り裂く。
同時にバージルはカイルの右隣に並び、防御魔法を展開するその右手に己が左手を添えた。
そして編み出されたるは巨大な防御魔法。
協力魔法によって作り出された冷気の壁がキーラに押し迫る。
「「ぅ雄雄っ!」」
止められるものならば止めて見せろ、そんな思いを二人は気勢に変えて放った。
これをキーラは、
(……ふっ)
嘲笑と共にその挑戦を受けた。
そしてキーラが繰り出したのは右手を槍のように尖らせた赤い貫手。
キーラは知っていたのだ。この冷たい壁の弱点を。
それを少し離れたところで感じ取ったケビンは、
「駄目だ!」
走る二人の背中に叫びを叩き付けた。
「「!」」
その叫び声に込められていた思いを読み取ったカイルとバージルが瞬時に左右に地を蹴る。
そして二人の足が離れたのと、キーラの赤い貫手が光る壁に突き刺さったのは同時だった。
この壁は触れたもの全てを瞬く間に凍らせる。
しかしその冷たさゆえに自由粒子の数は極端に少ない。光弾には強いが、重さを有する攻撃には見た目ほどの強度を有しない。
さらに巨大であるがゆえに通常の防御魔法のような切り替えが、自由粒子の数の調整が即座に出来ない。
キーラはそれを知っていた。
ゆえに炎を纏わせた貫手。
赤い閃光のような一撃が巨大な壁を穿ち、破る。
しかしそこに二人に影は既に無い。
ゆえにキーラも即座に地を蹴り直す。
目標はカイル。
二人の視線がからみつくように交錯する。
そしてカイルは感じ取った。キーラの心の声を。
お前は先ほど「自分はこいつと相性が良い」と思ったな、と。
その声にカイルは頷きを返さなかったが、キーラはかまわず続けた。
そしてその続きは心の声では無く、現実の叫びとしてカイルの耳に響いた。
「それはまったくもって『同感』だ!」と。
炎と冷気、それは互いの手を封じてしまう組み合わせ。
ゆえに双方にとって厄介な相手である。
だからキーラはその思いを心の叫びに変えた。
ならば早めに始末したいと思うのが、惹かれ合うのが道理であろう、と。
そう心の中で叫ぶと同時に、キーラは網を投げながら地を蹴りなおした。
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