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最終章
第五十四話 魔王上陸(15)
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そしてキーラはその隠されていた手を、たすきがけのように肩から腰へ、背の上を斜めに張り付いた鎖から感じ取った。
(つめた……っ!?)
痛い、と言えるほどの感覚。
凄まじい強度の冷却魔法であった。
この鎖に長時間接触してはならない、それを本能で理解したキーラはその本能のままに思考を巡らせた。
足が自然と跳躍の動作に入る。
しかしそれは理性によって却下された。
もうすでに鎖が冷気によって張り付いているからだ。そしてそれは既に凍結の段階に進み始めている。跳躍した程度では取れない。
では魔力を込めた手で引き剥がすか?
これも却下された。そんなことをしている間に防御魔法ごとがんじがらめにされてしまう。
ならば、と、本能は叫んだ。
ならば吹き飛ばせばいい、と。
その「条件」を満たせるものは彼女には一つしか無かった。
「!?」
そして「それ」を感じ取ったカイルもまた同じように驚きに目を見開いた。
彼女も同じだったからだ。
自分と同じように手を隠していたからだ。
さらにそちらのほうが得意技であったからだ。
キーラはそれを直後に見せ付けた。
「赤く焼け付くような」右手を真下に振り下ろし、地面に叩きつける。
すると瞬間、叩きつけられたその手から同じ色の花が咲き広がった。
そしてその赤い花びらはつぼみに戻るかのように上昇し始めた。
熱波が鎖を吹き飛ばし、キーラの身を包む。
アンナやリーザのそれと比べても見劣り無い出力。ゆえにそれは骨まで焼き尽くす残酷な抱擁に見えた。
が、
「!」
直後、そのつぼみから発せられた輝きの眩さにカイルは目を細めた。
そしてさらに驚いた。
その光の正体を知っていたからだ。
これは、
(冷却魔法!)
によって熱が奪われ、変換された時に生じる輝きだったからだ。
そして奪った熱によって変わったそれは熱と共に上昇し、つぼみをこじ開けた。
つぼみの先端から光の粒子が花粉のように散る。
しかしその芸術は直後に終わった。
キーラは防御魔法でつぼみを中からあおぐように振り回し、炎を振り払った。
されどその身にはまだ赤い小さな花びらが纏わり着いている。
キーラはその痛みに突き動かされるがまま、赤い左手をカイルに向かって突き出した。
そして放たれたのは先の花と同じ色をした炎の奔流。
これをカイルは冷却魔法混じりの防御魔法で受け止めながら感じ取った。
キーラがこれを封印していた理由は奇襲のためでは無いことを。
しばらく拠点として使う可能性があるこの街を燃やしたくなかったからだ。
しかしカイルという強敵を前にしてその枷はいつの間にか外れていた。
ゆえにその思いはキーラの中で自然と言葉になった。
この一帯が焼け野原になろうが、物資が燃え尽きようが、と。
そしてその続きは自然と叫びになった。
「もう知ったことかぁ!」と。
(つめた……っ!?)
痛い、と言えるほどの感覚。
凄まじい強度の冷却魔法であった。
この鎖に長時間接触してはならない、それを本能で理解したキーラはその本能のままに思考を巡らせた。
足が自然と跳躍の動作に入る。
しかしそれは理性によって却下された。
もうすでに鎖が冷気によって張り付いているからだ。そしてそれは既に凍結の段階に進み始めている。跳躍した程度では取れない。
では魔力を込めた手で引き剥がすか?
これも却下された。そんなことをしている間に防御魔法ごとがんじがらめにされてしまう。
ならば、と、本能は叫んだ。
ならば吹き飛ばせばいい、と。
その「条件」を満たせるものは彼女には一つしか無かった。
「!?」
そして「それ」を感じ取ったカイルもまた同じように驚きに目を見開いた。
彼女も同じだったからだ。
自分と同じように手を隠していたからだ。
さらにそちらのほうが得意技であったからだ。
キーラはそれを直後に見せ付けた。
「赤く焼け付くような」右手を真下に振り下ろし、地面に叩きつける。
すると瞬間、叩きつけられたその手から同じ色の花が咲き広がった。
そしてその赤い花びらはつぼみに戻るかのように上昇し始めた。
熱波が鎖を吹き飛ばし、キーラの身を包む。
アンナやリーザのそれと比べても見劣り無い出力。ゆえにそれは骨まで焼き尽くす残酷な抱擁に見えた。
が、
「!」
直後、そのつぼみから発せられた輝きの眩さにカイルは目を細めた。
そしてさらに驚いた。
その光の正体を知っていたからだ。
これは、
(冷却魔法!)
によって熱が奪われ、変換された時に生じる輝きだったからだ。
そして奪った熱によって変わったそれは熱と共に上昇し、つぼみをこじ開けた。
つぼみの先端から光の粒子が花粉のように散る。
しかしその芸術は直後に終わった。
キーラは防御魔法でつぼみを中からあおぐように振り回し、炎を振り払った。
されどその身にはまだ赤い小さな花びらが纏わり着いている。
キーラはその痛みに突き動かされるがまま、赤い左手をカイルに向かって突き出した。
そして放たれたのは先の花と同じ色をした炎の奔流。
これをカイルは冷却魔法混じりの防御魔法で受け止めながら感じ取った。
キーラがこれを封印していた理由は奇襲のためでは無いことを。
しばらく拠点として使う可能性があるこの街を燃やしたくなかったからだ。
しかしカイルという強敵を前にしてその枷はいつの間にか外れていた。
ゆえにその思いはキーラの中で自然と言葉になった。
この一帯が焼け野原になろうが、物資が燃え尽きようが、と。
そしてその続きは自然と叫びになった。
「もう知ったことかぁ!」と。
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