上 下
495 / 586
最終章

第五十四話 魔王上陸(12)

しおりを挟む
「っ!」

 兵士の体に電流が流れた直後、影の背中とキーラの背中がぶつかり合う。
 二人はその反動を利用してそれぞれ別方向に離脱。
 逃げる二つの影に光弾と矢が屋根上から降り注ぐ。
 しかしその射撃はすぐに停止。
 屋根上にいる別の影達がその狙撃部隊に攻撃を仕掛けたからだ。
 そしてようやく余裕を得たキーラは虫からの報告に意識を向けた。
 背後から自分を襲った光弾の正体、それは「跳弾」だった。
 だが、たとえ軌道が変則的でもキーラほどの感知能力者ならば誰が撃ったのかはすぐに把握出来る。一人ひとりの意識が「誰」に向いているのかを常に警戒しているからだ。
 しかしそれは普通の攻撃では無かった。
 まるで命令を受けた機械による攻撃のようであった。
 そしてそれは正解であった。
 雲水やアランから教えを受けるうちに、カイルは思ったのだ。
 敵は虫を迎撃されにくい位置に漂わせながら、こちらの思考を盗んでくる。ならば結局、「考えること自体」が弱点になるのではないかと。
 この弱点を補うにはどうすればいいかをカイルは考えた。
 それは三つ思いついた。
 まずは相手が対応出来ないほどに思考を短くするというもの。
 リックなどがこれにあたる。
 しかしこの習得にはかなりの練度を要するように思えた。
 だからカイルは保留とし、次を考えた。
 そして二番目に思いついたのは思考の複雑化だ。解読に時間を使わせるという考え方だ。
 シャロンの混沌がこれにあたる。
 これは真似するには悪くない手のように思えた。
 だが、カイルはもっと単純な手を思いついた。
 それが「自身の機械化」であった。
 しかしただ機械になっただけでは意味が無い。
 誰かを狙って撃つ、そう考えるだけで対象者に察知されるからだ。
 されど、対象を認識しなければ照準が定まらない。
 完全に何も意識せずに撃つということは、目を閉じ、耳も塞ぎ、何も考えず弾を発射するということである。当たるわけが無い。これが戦法として成り立つのは嵐のような超広範囲攻撃だけである。
 しかし、カイルには「跳弾」があった。
「狙う」という仕事を他の「何か」にやってもらえばいい、そうすれば自分の思考を減らせる、そう思ったのだ。
 当然その「何か」は人間では無い。それではすぐに見破られる。
 キーラはその答えを経験から看破し、他の仲間に聞こえるように叫んだ。

(虫か!)と。

 キーラは自身の推察が正解であることを確かめるために、自身の計算能力のほとんどをその捜索に当てた。
 そしてそれは間も無く見つかった。
 それは誰かが光弾を撃つたびに起きていた。
 周囲に漂っている虫の群れがその軌道を計算し、共有しているのだ。
 そしてそれぞれが「この時にこの軌道で撃てば当たる」という演算結果を射手に対して送信している。
 当然、射手は誰に当たるのかなんて知らない。どの光弾を跳弾の壁として利用するのかすらだ。
 だから射手に注目していても読めないのだ。命令に従って、何が起きるか分からない方向に撃っているだけなのだ。
 そしてキーラの叫びはカイル達にも聞こえていた。
 ゆえにカイル達の攻撃は直後に激化した。隠す意味が失われたからだ。
 先の一発は「狙撃」、ここからは「連射」だと、誰かの心の声が響いた。
 そして場は一変した。

「!」

 とんでもない数の光弾が場を飛び交う。
 しかも全てが何かに跳ね返り、誰かを狙う。
 ゆえにキーラは思った。

(面倒な!)と。

 命令を出している虫を潰すには数が多すぎるからだ。
 このような大規模な虫の展開はカイルだけでは出来ない。カイルの工場はアランのような高い生産力を有していない。
 だからカイルは仲間と協力している。感知能力を有する者達を集め、虫を使えるように訓練し、そして跳弾を習得させた。
 この一連の、カイルの考え方は「狼牙の陣」と似ていた。
 突出した専用技術を持つ個人よりも、技術を共有した連携の取れる集団のほうがはるかに強いとカイルは考えたのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】側妃は愛されるのをやめました

なか
恋愛
「君ではなく、彼女を正妃とする」  私は、貴方のためにこの国へと貢献してきた自負がある。  なのに……彼は。 「だが僕は、ラテシアを見捨てはしない。これから君には側妃になってもらうよ」  私のため。  そんな建前で……側妃へと下げる宣言をするのだ。    このような侮辱、恥を受けてなお……正妃を求めて抗議するか?  否。  そのような恥を晒す気は無い。 「承知いたしました。セリム陛下……私は側妃を受け入れます」  側妃を受けいれた私は、呼吸を挟まずに言葉を続ける。  今しがた決めた、たった一つの決意を込めて。 「ですが陛下。私はもう貴方を支える気はありません」  これから私は、『捨てられた妃』という汚名でなく、彼を『捨てた妃』となるために。  華々しく、私の人生を謳歌しよう。  全ては、廃妃となるために。    ◇◇◇  設定はゆるめです。  読んでくださると嬉しいです!

転生幼女の怠惰なため息

(◉ɷ◉ )〈ぬこ〉
ファンタジー
ひとり残業中のアラフォー、清水 紗代(しみず さよ)。異世界の神のゴタゴタに巻き込まれ、アッという間に死亡…( ºωº )チーン… 紗世を幼い頃から見守ってきた座敷わらしズがガチギレ⁉💢 座敷わらしズが異世界の神を脅し…ε=o(´ロ`||)ゴホゴホッ説得して異世界での幼女生活スタートっ!! もう何番煎じかわからない異世界幼女転生のご都合主義なお話です。 全くの初心者となりますので、よろしくお願いします。 作者は極度のとうふメンタルとなっております…

侯爵夫人は子育て要員でした。

シンさん
ファンタジー
継母にいじめられる伯爵令嬢ルーナは、初恋のトーマ・ラッセンにプロポーズされて結婚した。 楽しい暮らしがまっていると思ったのに、結婚した理由は愛人の妊娠と出産を私でごまかすため。 初恋も一瞬でさめたわ。 まぁ、伯爵邸にいるよりましだし、そのうち離縁すればすむ事だからいいけどね。 離縁するために子育てを頑張る夫人と、その夫との恋愛ストーリー。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない

猪本夜
ファンタジー
2024/2/29……3巻刊行記念 番外編SS更新しました 2023/4/26……2巻刊行記念 番外編SS更新しました ※1巻 & 2巻 & 3巻 販売中です! 殺されたら、前世の記憶を持ったまま末っ子公爵令嬢の赤ちゃんに異世界転生したミリディアナ(愛称ミリィ)は、兄たちの末っ子妹への溺愛が止まらず、すくすく成長していく。 前世で殺された悪夢を見ているうちに、現世でも命が狙われていることに気づいてしまう。 ミリィを狙う相手はどこにいるのか。現世では死を回避できるのか。 兄が増えたり、誘拐されたり、両親に愛されたり、恋愛したり、ストーカーしたり、学園に通ったり、求婚されたり、兄の恋愛に絡んだりしつつ、多種多様な兄たちに甘えながら大人になっていくお話。 幼少期から惚れっぽく恋愛に積極的で人とはズレた恋愛観を持つミリィに兄たちは動揺し、知らぬうちに恋心の相手を兄たちに潰されているのも気づかず今日もミリィはのほほんと兄に甘えるのだ。 今では当たり前のものがない時代、前世の知識を駆使し兄に頼んでいろんなものを開発中。 甘えたいブラコン妹と甘やかしたいシスコン兄たちの日常。 基本はミリィ(主人公)視点、主人公以外の視点は記載しております。 【完結:211話は本編の最終話、続編は9話が最終話、番外編は3話が最終話です。最後までお読みいただき、ありがとうございました!】 ※書籍化に伴い、現在本編と続編は全て取り下げとなっておりますので、ご了承くださいませ。

異世界でスローライフを満喫する為に

美鈴
ファンタジー
ホットランキング一位本当にありがとうございます! 【※毎日18時更新中】 タイトル通り異世界に行った主人公が異世界でスローライフを満喫…。出来たらいいなというお話です! ※カクヨム様にも投稿しております ※イラストはAIアートイラストを使用

異世界無知な私が転生~目指すはスローライフ~

丹葉 菟ニ
ファンタジー
倉山美穂 39歳10ヶ月 働けるうちにあったか猫をタップリ着込んで、働いて稼いで老後は ゆっくりスローライフだと夢見るおばさん。 いつもと変わらない日常、隣のブリっ子後輩を適当にあしらいながらも仕事しろと注意してたら突然地震! 悲鳴と逃げ惑う人達の中で咄嗟に 机の下で丸くなる。 対処としては間違って無かった筈なのにぜか飛ばされる感覚に襲われたら静かになってた。 ・・・顔は綺麗だけど。なんかやだ、面倒臭い奴 出てきた。 もう少しマシな奴いませんかね? あっ、出てきた。 男前ですね・・・落ち着いてください。 あっ、やっぱり神様なのね。 転生に当たって便利能力くれるならそれでお願いします。 ノベラを知らないおばさんが 異世界に行くお話です。 不定期更新 誤字脱字 理解不能 読みにくい 等あるかと思いますが、お付き合いして下さる方大歓迎です。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

処理中です...