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最終章
第五十四話 魔王上陸(12)
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「っ!」
兵士の体に電流が流れた直後、影の背中とキーラの背中がぶつかり合う。
二人はその反動を利用してそれぞれ別方向に離脱。
逃げる二つの影に光弾と矢が屋根上から降り注ぐ。
しかしその射撃はすぐに停止。
屋根上にいる別の影達がその狙撃部隊に攻撃を仕掛けたからだ。
そしてようやく余裕を得たキーラは虫からの報告に意識を向けた。
背後から自分を襲った光弾の正体、それは「跳弾」だった。
だが、たとえ軌道が変則的でもキーラほどの感知能力者ならば誰が撃ったのかはすぐに把握出来る。一人ひとりの意識が「誰」に向いているのかを常に警戒しているからだ。
しかしそれは普通の攻撃では無かった。
まるで命令を受けた機械による攻撃のようであった。
そしてそれは正解であった。
雲水やアランから教えを受けるうちに、カイルは思ったのだ。
敵は虫を迎撃されにくい位置に漂わせながら、こちらの思考を盗んでくる。ならば結局、「考えること自体」が弱点になるのではないかと。
この弱点を補うにはどうすればいいかをカイルは考えた。
それは三つ思いついた。
まずは相手が対応出来ないほどに思考を短くするというもの。
リックなどがこれにあたる。
しかしこの習得にはかなりの練度を要するように思えた。
だからカイルは保留とし、次を考えた。
そして二番目に思いついたのは思考の複雑化だ。解読に時間を使わせるという考え方だ。
シャロンの混沌がこれにあたる。
これは真似するには悪くない手のように思えた。
だが、カイルはもっと単純な手を思いついた。
それが「自身の機械化」であった。
しかしただ機械になっただけでは意味が無い。
誰かを狙って撃つ、そう考えるだけで対象者に察知されるからだ。
されど、対象を認識しなければ照準が定まらない。
完全に何も意識せずに撃つということは、目を閉じ、耳も塞ぎ、何も考えず弾を発射するということである。当たるわけが無い。これが戦法として成り立つのは嵐のような超広範囲攻撃だけである。
しかし、カイルには「跳弾」があった。
「狙う」という仕事を他の「何か」にやってもらえばいい、そうすれば自分の思考を減らせる、そう思ったのだ。
当然その「何か」は人間では無い。それではすぐに見破られる。
キーラはその答えを経験から看破し、他の仲間に聞こえるように叫んだ。
(虫か!)と。
キーラは自身の推察が正解であることを確かめるために、自身の計算能力のほとんどをその捜索に当てた。
そしてそれは間も無く見つかった。
それは誰かが光弾を撃つたびに起きていた。
周囲に漂っている虫の群れがその軌道を計算し、共有しているのだ。
そしてそれぞれが「この時にこの軌道で撃てば当たる」という演算結果を射手に対して送信している。
当然、射手は誰に当たるのかなんて知らない。どの光弾を跳弾の壁として利用するのかすらだ。
だから射手に注目していても読めないのだ。命令に従って、何が起きるか分からない方向に撃っているだけなのだ。
そしてキーラの叫びはカイル達にも聞こえていた。
ゆえにカイル達の攻撃は直後に激化した。隠す意味が失われたからだ。
先の一発は「狙撃」、ここからは「連射」だと、誰かの心の声が響いた。
そして場は一変した。
「!」
とんでもない数の光弾が場を飛び交う。
しかも全てが何かに跳ね返り、誰かを狙う。
ゆえにキーラは思った。
(面倒な!)と。
命令を出している虫を潰すには数が多すぎるからだ。
このような大規模な虫の展開はカイルだけでは出来ない。カイルの工場はアランのような高い生産力を有していない。
だからカイルは仲間と協力している。感知能力を有する者達を集め、虫を使えるように訓練し、そして跳弾を習得させた。
この一連の、カイルの考え方は「狼牙の陣」と似ていた。
突出した専用技術を持つ個人よりも、技術を共有した連携の取れる集団のほうがはるかに強いとカイルは考えたのだ。
兵士の体に電流が流れた直後、影の背中とキーラの背中がぶつかり合う。
二人はその反動を利用してそれぞれ別方向に離脱。
逃げる二つの影に光弾と矢が屋根上から降り注ぐ。
しかしその射撃はすぐに停止。
屋根上にいる別の影達がその狙撃部隊に攻撃を仕掛けたからだ。
そしてようやく余裕を得たキーラは虫からの報告に意識を向けた。
背後から自分を襲った光弾の正体、それは「跳弾」だった。
だが、たとえ軌道が変則的でもキーラほどの感知能力者ならば誰が撃ったのかはすぐに把握出来る。一人ひとりの意識が「誰」に向いているのかを常に警戒しているからだ。
しかしそれは普通の攻撃では無かった。
まるで命令を受けた機械による攻撃のようであった。
そしてそれは正解であった。
雲水やアランから教えを受けるうちに、カイルは思ったのだ。
敵は虫を迎撃されにくい位置に漂わせながら、こちらの思考を盗んでくる。ならば結局、「考えること自体」が弱点になるのではないかと。
この弱点を補うにはどうすればいいかをカイルは考えた。
それは三つ思いついた。
まずは相手が対応出来ないほどに思考を短くするというもの。
リックなどがこれにあたる。
しかしこの習得にはかなりの練度を要するように思えた。
だからカイルは保留とし、次を考えた。
そして二番目に思いついたのは思考の複雑化だ。解読に時間を使わせるという考え方だ。
シャロンの混沌がこれにあたる。
これは真似するには悪くない手のように思えた。
だが、カイルはもっと単純な手を思いついた。
それが「自身の機械化」であった。
しかしただ機械になっただけでは意味が無い。
誰かを狙って撃つ、そう考えるだけで対象者に察知されるからだ。
されど、対象を認識しなければ照準が定まらない。
完全に何も意識せずに撃つということは、目を閉じ、耳も塞ぎ、何も考えず弾を発射するということである。当たるわけが無い。これが戦法として成り立つのは嵐のような超広範囲攻撃だけである。
しかし、カイルには「跳弾」があった。
「狙う」という仕事を他の「何か」にやってもらえばいい、そうすれば自分の思考を減らせる、そう思ったのだ。
当然その「何か」は人間では無い。それではすぐに見破られる。
キーラはその答えを経験から看破し、他の仲間に聞こえるように叫んだ。
(虫か!)と。
キーラは自身の推察が正解であることを確かめるために、自身の計算能力のほとんどをその捜索に当てた。
そしてそれは間も無く見つかった。
それは誰かが光弾を撃つたびに起きていた。
周囲に漂っている虫の群れがその軌道を計算し、共有しているのだ。
そしてそれぞれが「この時にこの軌道で撃てば当たる」という演算結果を射手に対して送信している。
当然、射手は誰に当たるのかなんて知らない。どの光弾を跳弾の壁として利用するのかすらだ。
だから射手に注目していても読めないのだ。命令に従って、何が起きるか分からない方向に撃っているだけなのだ。
そしてキーラの叫びはカイル達にも聞こえていた。
ゆえにカイル達の攻撃は直後に激化した。隠す意味が失われたからだ。
先の一発は「狙撃」、ここからは「連射」だと、誰かの心の声が響いた。
そして場は一変した。
「!」
とんでもない数の光弾が場を飛び交う。
しかも全てが何かに跳ね返り、誰かを狙う。
ゆえにキーラは思った。
(面倒な!)と。
命令を出している虫を潰すには数が多すぎるからだ。
このような大規模な虫の展開はカイルだけでは出来ない。カイルの工場はアランのような高い生産力を有していない。
だからカイルは仲間と協力している。感知能力を有する者達を集め、虫を使えるように訓練し、そして跳弾を習得させた。
この一連の、カイルの考え方は「狼牙の陣」と似ていた。
突出した専用技術を持つ個人よりも、技術を共有した連携の取れる集団のほうがはるかに強いとカイルは考えたのだ。
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