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最終章
第五十四話 魔王上陸(6)
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◆◆◆
そして季節は流れ――
吐息が白くなり始めた頃、その時はついに訪れた。
「「「……!」」」
海岸線にある堤防の上に並んだ兵士達は、それを前に全員息を呑んでいた。
驚くのも無理は無かった。
こんな光景は誰も見たことが無かった。
水平線を埋める勢いで並ぶ船の影。
その数、およそ五百隻。
一隻に百の兵が乗っていると計算すると、ざっと五万。
数だけならば互角だが、こちらは本土決戦を強いられているという弱点がある。民を守るように立ち回らねばならないのだ。
敵にそんな制限は無い。心のおもむくまま、本能のままに暴れまわるだろう。
そんなことは許せない、そんな思いを抱いた誰かが声を上げた。
「射手、構え!」
その声にただの弓兵と魔法使いは動かなかった。まだ遠すぎる。
最初に迎え撃つは投石器と、和の国から購入した機械弓。
「「「装填良し!」」」
「「「調整良し!」」」
機械特有の音と射手達の声が場に響き渡る。
そして射手達は上からの合図を心の声で求めた。
これに指揮官は答えた。
「私の声は待たなくていい! 各個の判断で撃て!」
その声に、引き金を握る誰かの手に力がこもった。
それを感じ取った隣の兵士は「まだ少し遠い。焦るな」とそれをいさめた。
しかしその声は誰の心にも届かなかった。
射手達の心は、みな同じ色に染まりつつあった。
そしてその色が濃くなるほどに、手の中に汗がにじんでいった。
◆◆◆
「始まったか」
そしてそれを感じ取ったアランはぽつりと漏らした。
総大将であるアランがいる本隊は海岸から後方に位置していた。
港町の中では無い。さらに少し後方にある平野だ。
港町にいれば危険になる可能性があるからだ。
アランは自身の予想が的中したのを既に感じ取っていた。
敵の遊撃部隊がアランから見て左右に接岸したのだ。
このままでは港町にいる兵士達が挟み討ちにされる。
しかしそれでも彼らには少し粘ってもらわねばならない。
市民達の避難がまだ完了していないからだ。
港町はこの日のために、この事態のために改造した。堤防は波を止めるためでは無く敵を止めるためにさらに高くなり、各所に櫓などの高所を取れる建造物が点在している。
しかしそれでもあの数に挟まれれば長くはもたないだろう。
だからアランは声を上げた。
「市民の避難をもっと急がせろ!」
そして季節は流れ――
吐息が白くなり始めた頃、その時はついに訪れた。
「「「……!」」」
海岸線にある堤防の上に並んだ兵士達は、それを前に全員息を呑んでいた。
驚くのも無理は無かった。
こんな光景は誰も見たことが無かった。
水平線を埋める勢いで並ぶ船の影。
その数、およそ五百隻。
一隻に百の兵が乗っていると計算すると、ざっと五万。
数だけならば互角だが、こちらは本土決戦を強いられているという弱点がある。民を守るように立ち回らねばならないのだ。
敵にそんな制限は無い。心のおもむくまま、本能のままに暴れまわるだろう。
そんなことは許せない、そんな思いを抱いた誰かが声を上げた。
「射手、構え!」
その声にただの弓兵と魔法使いは動かなかった。まだ遠すぎる。
最初に迎え撃つは投石器と、和の国から購入した機械弓。
「「「装填良し!」」」
「「「調整良し!」」」
機械特有の音と射手達の声が場に響き渡る。
そして射手達は上からの合図を心の声で求めた。
これに指揮官は答えた。
「私の声は待たなくていい! 各個の判断で撃て!」
その声に、引き金を握る誰かの手に力がこもった。
それを感じ取った隣の兵士は「まだ少し遠い。焦るな」とそれをいさめた。
しかしその声は誰の心にも届かなかった。
射手達の心は、みな同じ色に染まりつつあった。
そしてその色が濃くなるほどに、手の中に汗がにじんでいった。
◆◆◆
「始まったか」
そしてそれを感じ取ったアランはぽつりと漏らした。
総大将であるアランがいる本隊は海岸から後方に位置していた。
港町の中では無い。さらに少し後方にある平野だ。
港町にいれば危険になる可能性があるからだ。
アランは自身の予想が的中したのを既に感じ取っていた。
敵の遊撃部隊がアランから見て左右に接岸したのだ。
このままでは港町にいる兵士達が挟み討ちにされる。
しかしそれでも彼らには少し粘ってもらわねばならない。
市民達の避難がまだ完了していないからだ。
港町はこの日のために、この事態のために改造した。堤防は波を止めるためでは無く敵を止めるためにさらに高くなり、各所に櫓などの高所を取れる建造物が点在している。
しかしそれでもあの数に挟まれれば長くはもたないだろう。
だからアランは声を上げた。
「市民の避難をもっと急がせろ!」
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