483 / 586
最終章
第五十三話 己が鏡と共に(12)
しおりを挟む◆◆◆
夜――
「そっちはどうだった?」
ルイスは雲水に尋ねた。
これに雲水は、
「お前もこっちの会話を聞いていたんだから言うまでも無いだろう」
という前置きの後、答えるまでも無い答えを返した。
「特に問題は無かった。お前の調整とやらは随分深いところまでいじれるようだな」
が、直後、雲水は「だが、」と言葉を続けた。
「試しに写してみて思ったんだが……あの女、かなり弱くなっているのでは?」
これにルイスは「ああ」と頷きを返し、口を開いた。
「その通りだ。魔力だけでなく思考速度などの精神面も以前より弱い。単純に良い素体が見つからなかったからそうなってしまった」
瞬間、雲水は、
「それは半分嘘だな」
と、ルイスの言葉を看破し、真実を述べた。
「元から強く作る予定は無かった、だろう?」
これにもルイスは「ああ」と即答し、薄い笑みと共に口を開いた。
「やはり君相手に隠し事は難しいようだな」
そしてルイスは自ら真実の続きを述べた。
「その通りだ。今回の調整はかなり大掛かりなものだ。そして私は常に完璧な仕事が出来るなどと自惚れてはいない。以前のシャロンのような強者にもしも反抗されたら、対処のしようが無くなる可能性があるからな。だから『最初は』弱くつくることにした」
いまのシャロンは『試作品のようなもの』であった。
そしてルイスは「それだけではない」と言葉を続けた。
「一騎当千、そんなものを私は求めていない。そういう時代を終わらせようと思っているのだからな」
まるでシャロンが自分の私物であるかのような言い方だな、雲水はそう思ったがそれは言葉にはしなかった。
だから雲水はもう一つの不安要素について尋ねることにした。
「……サイラスはどうする? シャロンに悪影響が出る可能性があることは否定できまい」
そして雲水はその前提の上でもっとも重要なことをルイスに尋ねた。
「そんな彼女を今のまま『代表』にすえて大丈夫なのか?」
これにルイスは「問題無い」と答え、その理由を述べた。
「不安要素は確かにある。だがそれは誰でも同じことだろう。私を含めて、完璧なやつはいない。ならば矢面に立たせるのはやはりシャロンが適任だ。彼女にはこの地域の求心力があるだけで無く、同時に恐怖の象徴でもあるのだからな」
しかし直後、ルイスは一つ付け加えた。
「あくまでも、『今は』問題無いというだけだがね」
それを聞いた雲水は「やはりな」というような表情で口を開いた。
「ならばこっちの独断で監視をつけてもかまわないな?」
これにルイスは頷きと共に即答した。
「ああ、もちろんだ。もとから君にそれを頼むつもりだったからね」
だからルイスは頼りになる雲水の到着を待ったのだ。
しかし、ルイスは念のため釘を刺すことにした。
「……言うまでも無いことだが、彼女にばれないようにやってくれよ?」
雲水は小さな笑みと共に答えた。
「安心しろ。近くでの監視は俺だけが担当するつもりだ」
それを聞いたルイスは「それは頼もしいことだ」と、同じ笑みを返した。
ルイスは一つ話していないことがあった。
例えこの計画が、シャロンが失敗したとしても問題無い、ルイスはそう考えていた。
なぜならば重要なのは人では無く、武器だからだ。
既に賽は投げられた。ルイスはそう思っていた。
既に設計図は和の国にあり、生産も始まっている。世界を変える武器が各地にばらまかれ始めている。
だから我々が失敗したとしても問題無い。どこかの誰かがその武器を手に我等の仕事を引き継いでくれるのだから。ルイスはそう考えていた。
そして「賽を投げた」とあるように、これからの戦いの結末までルイスは描いていない。
最後に立っているものが、勝者がなにものであろうとも問題無い。ルイスはそう考えていた。
第五十四話 魔王上陸 に続く
0
お気に入りに追加
88
あなたにおすすめの小説
何を間違った?【完結済】
maruko
恋愛
私は長年の婚約者に婚約破棄を言い渡す。
彼女とは1年前から連絡が途絶えてしまっていた。
今真実を聞いて⋯⋯。
愚かな私の後悔の話
※作者の妄想の産物です
他サイトでも投稿しております
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
夫から国外追放を言い渡されました
杉本凪咲
恋愛
夫は冷淡に私を国外追放に処した。
どうやら、私が使用人をいじめたことが原因らしい。
抵抗虚しく兵士によって連れていかれてしまう私。
そんな私に、被害者である使用人は笑いかけていた……
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
【完結】王子は聖女と結婚するらしい。私が聖女であることは一生知らないままで
雪野原よる
恋愛
「聖女と結婚するんだ」──私の婚約者だった王子は、そう言って私を追い払った。でも、その「聖女」、私のことなのだけど。
※王国は滅びます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる