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最終章
第五十三話 己が鏡と共に(9)
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◆◆◆
同時刻――
「……」
アランと同じベッドの中で、リリィは夢を見ていた。
大勢の人間が話し合っている夢だ。
しかし姿は見えない。ただ白い背景の中で声だけが聞こえる。
何を言っているのかは分からない。ただの雑音のようであった。
だからリリィはすぐにその声から興味を失いかけたのだが、
「……?」
直後、白いだけの背景の中に、何かが浮かび上がり始めた。
目をこらすと、それは赤ん坊のようであった。
まだへその緒がついている。
そしてその像がはっきりとなった瞬間、ただの雑音であった声が理解出来るものに変わった。
「この女の子はどうする?」
聞いたことの無い男性の声。
リリィは「女の子」という言葉が自分を指しているものかと一瞬思ったが、それが間違いであることが直後に判明した。
「アランという成功に基づいてもいい。カルロのようにも出来る」
これに別の誰かが声を上げた。
「次は魔法使いが優遇されない時代になる気がする」
これに男は聞き返した。
「じゃあこの設計図はどうする? 破棄するか?」
これに新たな声が答えた。
「いいえ。結局のところ、この子の一生がどうなるか、次の時代がどうなるかなんてことは、はっきりとは分からない。だから鍵付きで残しておきましょう」
これに男は一石を投じた。
「だが、彼はもっと産ませる気のようだぞ。彼の本能はそう言っている。少し冒険してもいいのではないか?」
その石が産み出した波紋は、さらなる波紋を産み出すかのように思えたが、
「待って! 聞かれてる!」
誰かが放った警告の声がその波紋を消した。
静寂が訪れると同時に、何かが遠ざかるような感覚がリリィの身を包む。
赤ん坊の像が白い背景に吸い込まれるように消える。
そして背景も黒く染まり、リリィの意識も同じ色の中に沈んだ。
彼らもまた同じなのだ。試行錯誤を繰り返しているのだ。
美しい成功もあれば、悲しい失敗もある。
されど、それはなんのために。
何のための成功、何のための犠牲。
それは、全てはこの種の繁栄のため。
さらなる高みに昇るために。
だから様々な可能性を模索する。
一つのことに特化したものは裏を突く手で簡単に滅んでしまうのだから。
目指すは真の万能。
それは摂理を超えた本物の神の域。
そんなものはただの幻想かもしれない。存在しないかもしれない。
されど彼らにはこの道を歩み続けるしか無いのだ。
他のもの達も同じことを考えているからだ。
この競争に再挑戦は無い。
時に、少し置いて行かれるだけで全てが決してしまう、そんな戦いなのだから。
同時刻――
「……」
アランと同じベッドの中で、リリィは夢を見ていた。
大勢の人間が話し合っている夢だ。
しかし姿は見えない。ただ白い背景の中で声だけが聞こえる。
何を言っているのかは分からない。ただの雑音のようであった。
だからリリィはすぐにその声から興味を失いかけたのだが、
「……?」
直後、白いだけの背景の中に、何かが浮かび上がり始めた。
目をこらすと、それは赤ん坊のようであった。
まだへその緒がついている。
そしてその像がはっきりとなった瞬間、ただの雑音であった声が理解出来るものに変わった。
「この女の子はどうする?」
聞いたことの無い男性の声。
リリィは「女の子」という言葉が自分を指しているものかと一瞬思ったが、それが間違いであることが直後に判明した。
「アランという成功に基づいてもいい。カルロのようにも出来る」
これに別の誰かが声を上げた。
「次は魔法使いが優遇されない時代になる気がする」
これに男は聞き返した。
「じゃあこの設計図はどうする? 破棄するか?」
これに新たな声が答えた。
「いいえ。結局のところ、この子の一生がどうなるか、次の時代がどうなるかなんてことは、はっきりとは分からない。だから鍵付きで残しておきましょう」
これに男は一石を投じた。
「だが、彼はもっと産ませる気のようだぞ。彼の本能はそう言っている。少し冒険してもいいのではないか?」
その石が産み出した波紋は、さらなる波紋を産み出すかのように思えたが、
「待って! 聞かれてる!」
誰かが放った警告の声がその波紋を消した。
静寂が訪れると同時に、何かが遠ざかるような感覚がリリィの身を包む。
赤ん坊の像が白い背景に吸い込まれるように消える。
そして背景も黒く染まり、リリィの意識も同じ色の中に沈んだ。
彼らもまた同じなのだ。試行錯誤を繰り返しているのだ。
美しい成功もあれば、悲しい失敗もある。
されど、それはなんのために。
何のための成功、何のための犠牲。
それは、全てはこの種の繁栄のため。
さらなる高みに昇るために。
だから様々な可能性を模索する。
一つのことに特化したものは裏を突く手で簡単に滅んでしまうのだから。
目指すは真の万能。
それは摂理を超えた本物の神の域。
そんなものはただの幻想かもしれない。存在しないかもしれない。
されど彼らにはこの道を歩み続けるしか無いのだ。
他のもの達も同じことを考えているからだ。
この競争に再挑戦は無い。
時に、少し置いて行かれるだけで全てが決してしまう、そんな戦いなのだから。
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