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最終章
第五十三話 己が鏡と共に(6)
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◆◆◆
夜――
シャロンが寝静まった後、サイラスはルイスの部屋を訪ねた。
聞きたい事があった。
しかし先に聞かれた。
「お望みのものは手に入りそうか?」と。
これにサイラスは正直に答えた。
「わからない」と。
その「わからない」は、ルイスに対しての答えだけでは無かった。
シャロンのこともわからない。
ルイスのこともよく知らない。
ここで何が起きているのかもわからない。
そんなわからないことだらけの中で自分が何が出来るのか、いや、何をしたいのかすらもわからない。
そんなサイラスの思いを感じ取ったルイスは一つ一つ答えてやることにした。
「記憶の中のシャロンと違うのは当然だ。そうなってしまうものなのさ」
これは真実が半分、残りは嘘であった。
そしてルイスは真実の部分について語り始めた。
「話していて気付いただろう。彼女は人の一生を遥かに超える長い記憶を持っている。それは赤の他人から受け継いだものでは無く、彼女自身が経験したものだ」
どうすればそんなことが出来る、サイラスが尋ねるよりも早く、ルイスは答えた。
「やり方は単純。他人の体を乗っ取るのさ」
瞬間、「ああ、だからか」とサイラスは思った。
魂の記憶に出てくるシャロンはいつも「後ろめたさ」を抱いていたからだ。
それは他人の人生を奪うという行為から生まれていたのだろう。
同時に、二人はそれなりの関係だったのだろう。
だから自分は慕われているのだ。
そしてサイラスがそこまで気付くのを見計らっていたルイスは直後に回答を再開した。
「……彼女はその長い経験から生まれる力をもってこの地を守ってきた。彼女はこの辺りの住民から慕われると同時に恐れられており、畏怖の念をこめて『死霊使い』と呼ばれている」
ルイスはそこでシャロンについての紹介を終えることにした。
そしてルイスは話を次に移した。
「だが、乗っ取りは誰でもいいわけでは無い。相性がある。つまり、調査と厳選が必要だということだ」
それはシャロンと自分の関係についての話であった。
「昔のシャロンはそれがよく分かっていなかった。だからシャロンは徐々におかしくなり、ついにはただの狂人と化してしまった。そんな時に、私は彼女と出会った」
どのようにしておかしくなったのか、それは第四の存在の抵抗によるものであった。
意識を勝手にいじられる、などは抵抗としては可愛いものであった。
第四の存在は気に食わない独裁者を潰すために対抗勢力を、異なる人格を次々と作り出して戦わせたのだ。
そして彼女は尋常では無い数の多重人格者になってしまった。
操縦権の奪い合いは激しく、その行動は外からでは狂人にしか見えないほどであった。
そんな時にルイスは彼女と出会った。
そして――
「そして同情した私は彼女を救ってやる事にした。その技術が私にはあった」
そして、ルイスは己について答えた。
「その関係は今でも続いている。つまり、私は彼女専属の技術者のようなものだ」
それはルイスを表現する答えとしてはあまりにも浅いものであった。
だがルイスはそれ以上自分については語ろうとはせず、話を次に移そうとした。
しかしそれより先にサイラスが口を開いた。
「少し待ってくれ。お前が言っていることはつまり……人間の頭の中をいじくりまわし、都合の良いように改造しているということか? そんなことが……」
サイラスは言葉を続けようとしたが、ルイスは割り込んだ。
「『そんなことが本当に出来るのか?』 答えはイエスとしか言えない。なんなら、お前で実践してみせてもいい。ちょっとした身体能力の強化や、思考を少し速くするための整理くらいなら簡単に出来る。初回だから御代は無しにしてやってもいいぞ?」
ルイスはふざけた笑みを見せながらそう言った。
冗談混じりの言葉であったが、真実であることをサイラスは感じ取った。
しかしサイラスには、
「……」
沈黙しか返せなかった。
その理由を感知したルイスはそれを言葉にした。
「……怖いか? まあそうだろうな。それが正常な反応だ。寝ている間に脳をいじくられる可能性もあるわけだからな」
それは、これまでにルイスが乗っ取りの際に何度も使ってきた手であった。
だが、なぜルイスは同じ技術を持つシャロンと一緒にいて平気でいられるのか、その理由も続けて述べた。
「安心しろ。そんなことをするつもりは無いし、する理由も無い。それでも不安ならば、防御するための技術を教えてやろう」
「……」
サイラスの心はまだ晴れない。
警戒の色が滲んでいる。
だからルイスは言葉を重ねた。
「……私のことが信用出来ないのであれば、明日にでもシャロンに頼むといい。ついでに電撃魔法についても教えてくれるだろう。電撃魔法は魂と相性が良いからな。そしてそれは彼女の得意分野の一つだ」
この話題にサイラスは食い付いた。
「電撃が魂と相性がいい? そうなのか?」
サイラスがそう思う理由は一つであった。
魂を電撃魔法で攻撃しようとしたときにすりぬけたからだ。
そしてその思いを感じ取ったルイスは、サイラスがまだまだ無知であることを知った。
少し意外であった。だから困った。
「……どこから説明したものか」
どう説明すれば分かりやすく、そして理解されるか、ルイスはそれを考えた。
夜――
シャロンが寝静まった後、サイラスはルイスの部屋を訪ねた。
聞きたい事があった。
しかし先に聞かれた。
「お望みのものは手に入りそうか?」と。
これにサイラスは正直に答えた。
「わからない」と。
その「わからない」は、ルイスに対しての答えだけでは無かった。
シャロンのこともわからない。
ルイスのこともよく知らない。
ここで何が起きているのかもわからない。
そんなわからないことだらけの中で自分が何が出来るのか、いや、何をしたいのかすらもわからない。
そんなサイラスの思いを感じ取ったルイスは一つ一つ答えてやることにした。
「記憶の中のシャロンと違うのは当然だ。そうなってしまうものなのさ」
これは真実が半分、残りは嘘であった。
そしてルイスは真実の部分について語り始めた。
「話していて気付いただろう。彼女は人の一生を遥かに超える長い記憶を持っている。それは赤の他人から受け継いだものでは無く、彼女自身が経験したものだ」
どうすればそんなことが出来る、サイラスが尋ねるよりも早く、ルイスは答えた。
「やり方は単純。他人の体を乗っ取るのさ」
瞬間、「ああ、だからか」とサイラスは思った。
魂の記憶に出てくるシャロンはいつも「後ろめたさ」を抱いていたからだ。
それは他人の人生を奪うという行為から生まれていたのだろう。
同時に、二人はそれなりの関係だったのだろう。
だから自分は慕われているのだ。
そしてサイラスがそこまで気付くのを見計らっていたルイスは直後に回答を再開した。
「……彼女はその長い経験から生まれる力をもってこの地を守ってきた。彼女はこの辺りの住民から慕われると同時に恐れられており、畏怖の念をこめて『死霊使い』と呼ばれている」
ルイスはそこでシャロンについての紹介を終えることにした。
そしてルイスは話を次に移した。
「だが、乗っ取りは誰でもいいわけでは無い。相性がある。つまり、調査と厳選が必要だということだ」
それはシャロンと自分の関係についての話であった。
「昔のシャロンはそれがよく分かっていなかった。だからシャロンは徐々におかしくなり、ついにはただの狂人と化してしまった。そんな時に、私は彼女と出会った」
どのようにしておかしくなったのか、それは第四の存在の抵抗によるものであった。
意識を勝手にいじられる、などは抵抗としては可愛いものであった。
第四の存在は気に食わない独裁者を潰すために対抗勢力を、異なる人格を次々と作り出して戦わせたのだ。
そして彼女は尋常では無い数の多重人格者になってしまった。
操縦権の奪い合いは激しく、その行動は外からでは狂人にしか見えないほどであった。
そんな時にルイスは彼女と出会った。
そして――
「そして同情した私は彼女を救ってやる事にした。その技術が私にはあった」
そして、ルイスは己について答えた。
「その関係は今でも続いている。つまり、私は彼女専属の技術者のようなものだ」
それはルイスを表現する答えとしてはあまりにも浅いものであった。
だがルイスはそれ以上自分については語ろうとはせず、話を次に移そうとした。
しかしそれより先にサイラスが口を開いた。
「少し待ってくれ。お前が言っていることはつまり……人間の頭の中をいじくりまわし、都合の良いように改造しているということか? そんなことが……」
サイラスは言葉を続けようとしたが、ルイスは割り込んだ。
「『そんなことが本当に出来るのか?』 答えはイエスとしか言えない。なんなら、お前で実践してみせてもいい。ちょっとした身体能力の強化や、思考を少し速くするための整理くらいなら簡単に出来る。初回だから御代は無しにしてやってもいいぞ?」
ルイスはふざけた笑みを見せながらそう言った。
冗談混じりの言葉であったが、真実であることをサイラスは感じ取った。
しかしサイラスには、
「……」
沈黙しか返せなかった。
その理由を感知したルイスはそれを言葉にした。
「……怖いか? まあそうだろうな。それが正常な反応だ。寝ている間に脳をいじくられる可能性もあるわけだからな」
それは、これまでにルイスが乗っ取りの際に何度も使ってきた手であった。
だが、なぜルイスは同じ技術を持つシャロンと一緒にいて平気でいられるのか、その理由も続けて述べた。
「安心しろ。そんなことをするつもりは無いし、する理由も無い。それでも不安ならば、防御するための技術を教えてやろう」
「……」
サイラスの心はまだ晴れない。
警戒の色が滲んでいる。
だからルイスは言葉を重ねた。
「……私のことが信用出来ないのであれば、明日にでもシャロンに頼むといい。ついでに電撃魔法についても教えてくれるだろう。電撃魔法は魂と相性が良いからな。そしてそれは彼女の得意分野の一つだ」
この話題にサイラスは食い付いた。
「電撃が魂と相性がいい? そうなのか?」
サイラスがそう思う理由は一つであった。
魂を電撃魔法で攻撃しようとしたときにすりぬけたからだ。
そしてその思いを感じ取ったルイスは、サイラスがまだまだ無知であることを知った。
少し意外であった。だから困った。
「……どこから説明したものか」
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