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最終章
第五十二話 成す者と欲する者(5)
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「……」
しかしアランはその視線に応えなかった。
応える余裕が無かった。
ここまでは予定通り。
しかしこの後が問題であった。
この作戦に自分は反対した。
しかしあいつは言うことを聞かなかった。
なぜだ、そう尋ねてあいつが返した答えは、割と筋の通ったものであった。
だがそれでも自分は反対した。結局最後まで平行線だった。
いまここで止めようとしてもあいつはやるだろう。
そう思ったアランは、
「行け! ディーノ!」
親友の背を押した。
「応ッ!」
気勢と共に巨躯が溝の中から躍り出る。
そして影を纏ったその巨体は、さらなる気勢を眼前の敵に向かってぶつけた。
「ラルフ! いざ勝負!」
叫ぶディーノの手にはこれまでとは違うものが握られていた。
丸型とは違う、上下に長い長方形型の大盾。
これは平行線の中でアランと共に導き出した装備であった。
しかしアランは単騎突撃だけはどうしても許せなかった。
アランはその思いを、
「頼んだぞ!」
三人に託した。
「「「承知ッ!」」」
そしてディーノを追う様に飛び出したのはクラウスとバージル、それにケビン。
同時に兵士達が溝の中から身を乗り出し、援護の光弾を放つ。
光弾の群れがディーノ達と併走し、追い抜いていく。
光の通路の中をディーノ達が走っているかのように見えるほどの密度と量。
通路という表現はあながち間違いでは無かった。
光弾と嵐が混ざるようにぶつかり合う。
されど一匹の蛇も通さない。
ディーノは光弾が作り出したその道を真っ直ぐに走りながら、
「その首、いただく!」
光の道の先にいるラルフに向かって吼えた。
これにラルフは激昂した。
「無能ごときがッ!」
生意気に吼えるなッ! と。
その怒りを込めて赤玉を手の中に作り出す。
共感によってそのタイミングを知っていたディーノ達は玉が形成されるよりも速く、左に跳んだ。
赤玉の射線からディーノ達の影が大きく外れる。
そしてその影の足が地に着くと同時に、赤玉は弾けた。
生まれた槍が射線を示すかのように地面を削りながら奔る。
同時に生じた衝撃波が近くにあるものを、ディーノ達を薙ぎ払わんと迫る。
これに対し、ディーノは長方形型の大盾を構えていた。
長方形の底辺が地面に突き刺すように振り下ろされている。
そして盾で坂道を作るように手前側に傾けられている。
同時に槍斧の槍先を後方の地面に突き刺し、盾の支え棒としている。
棒はバージルのものと合わせて二本。
ディーノの隣に並んだバージルは同じように盾の支えとなりながら、盾の上に防御魔法を展開した。
バージルはこの仕事に、アランからの要請に二つ返事で答えていた。
「盾」の自分にふさわしい仕事、自分にしか出来ない仕事、そう思ったからだ。
そして二つの巨躯を支えるかのように、ディーノとバージルの背中にクラウスとケビンが貼り付く。
衝撃波に盾ごと押し潰されないようにふんばる。そのための人数、そのための槍斧。
話し合いの中でアランは言った。
どう考えてもこの攻撃を「受け止める」ことは不可能だと。
しかしディーノは気付いた。
アランが隠し事をしていることを。
そしてディーノはそれを指摘した。
「受け止める」ことは出来なくても、「受け流す」ことは不可能では無いと。お前がその剣でこれまでに何度も魅せたように。
これをアランは否定出来なかった。
そして生まれたのがこの盾であった。
丸型では駄目な理由は一つ。
衝撃波は全身を襲う。ゆえに丸型では足をすくわれやすいからだ。
踏ん張れなければどうにもならない。だから長方形でなくてはならなかった。
「「「「雄雄雄ッ!」」」」
そして四人は衝撃を受け止めながら吼えた。
バージルの防御魔法が消し飛び、金属板の表面を衝撃波が乗り撫でる。
「!」
瞬間、アランの背中に怖気が走った。
一瞬、盾がへこんだように見えたからだ。
しかし幸いなことに、その怖気が示すような未来は訪れなかった。
だからアランは思った。
この厚みの盾をもってしてもか、と。
設計の際、アランを最も悩ませたのは強度と重量の配分であった。
槍の直撃は絶対に耐えられない、それは分かっていた。槍を回避し、衝撃波だけをいなすしかない。
つまり重すぎてはならない。ディーノの機動力が著しく落ちることは許されなかった。
ゆえに鎚を振りながらアランは思った。
もっとラルフの攻撃を見ておけばよかったと。
衝撃波の威力が分からなければ設計のしようが無い。
アランは勘に頼るしかなかった。神に祈るしかなかった。
だからアランは初撃をやりすごせたという事実に対し、見えない何かに感謝の念を贈ると同時に、
「攻めろ! ディーノ!」
親友の背中を再び押した。
平行線の中でディーノは言った。
自分が、無能が先頭に立ってカルロに勝った魔法使いに挑む意味を。
数で押し潰せる戦いであるにもかかわらず、それでもあえて危険を冒す意味を。
ディーノはアランにはっきりと答えた。
これは自分がやらなければならないことなんだと。
ここで挑まなければ、結局無能では強い魔法使いには立ち向かえないのだという、悪い印象が世間に広まってしまうと。
そしてたとえ死ぬことになったとしても、その時は勇敢に挑んだという事実を上手く使えばいいと。
アランはその最後の言葉を振り払いながら、心の中で叫んだ。
(いいや、駄目だ! お前はこんなところでは死なせん!)
しかしアランはその視線に応えなかった。
応える余裕が無かった。
ここまでは予定通り。
しかしこの後が問題であった。
この作戦に自分は反対した。
しかしあいつは言うことを聞かなかった。
なぜだ、そう尋ねてあいつが返した答えは、割と筋の通ったものであった。
だがそれでも自分は反対した。結局最後まで平行線だった。
いまここで止めようとしてもあいつはやるだろう。
そう思ったアランは、
「行け! ディーノ!」
親友の背を押した。
「応ッ!」
気勢と共に巨躯が溝の中から躍り出る。
そして影を纏ったその巨体は、さらなる気勢を眼前の敵に向かってぶつけた。
「ラルフ! いざ勝負!」
叫ぶディーノの手にはこれまでとは違うものが握られていた。
丸型とは違う、上下に長い長方形型の大盾。
これは平行線の中でアランと共に導き出した装備であった。
しかしアランは単騎突撃だけはどうしても許せなかった。
アランはその思いを、
「頼んだぞ!」
三人に託した。
「「「承知ッ!」」」
そしてディーノを追う様に飛び出したのはクラウスとバージル、それにケビン。
同時に兵士達が溝の中から身を乗り出し、援護の光弾を放つ。
光弾の群れがディーノ達と併走し、追い抜いていく。
光の通路の中をディーノ達が走っているかのように見えるほどの密度と量。
通路という表現はあながち間違いでは無かった。
光弾と嵐が混ざるようにぶつかり合う。
されど一匹の蛇も通さない。
ディーノは光弾が作り出したその道を真っ直ぐに走りながら、
「その首、いただく!」
光の道の先にいるラルフに向かって吼えた。
これにラルフは激昂した。
「無能ごときがッ!」
生意気に吼えるなッ! と。
その怒りを込めて赤玉を手の中に作り出す。
共感によってそのタイミングを知っていたディーノ達は玉が形成されるよりも速く、左に跳んだ。
赤玉の射線からディーノ達の影が大きく外れる。
そしてその影の足が地に着くと同時に、赤玉は弾けた。
生まれた槍が射線を示すかのように地面を削りながら奔る。
同時に生じた衝撃波が近くにあるものを、ディーノ達を薙ぎ払わんと迫る。
これに対し、ディーノは長方形型の大盾を構えていた。
長方形の底辺が地面に突き刺すように振り下ろされている。
そして盾で坂道を作るように手前側に傾けられている。
同時に槍斧の槍先を後方の地面に突き刺し、盾の支え棒としている。
棒はバージルのものと合わせて二本。
ディーノの隣に並んだバージルは同じように盾の支えとなりながら、盾の上に防御魔法を展開した。
バージルはこの仕事に、アランからの要請に二つ返事で答えていた。
「盾」の自分にふさわしい仕事、自分にしか出来ない仕事、そう思ったからだ。
そして二つの巨躯を支えるかのように、ディーノとバージルの背中にクラウスとケビンが貼り付く。
衝撃波に盾ごと押し潰されないようにふんばる。そのための人数、そのための槍斧。
話し合いの中でアランは言った。
どう考えてもこの攻撃を「受け止める」ことは不可能だと。
しかしディーノは気付いた。
アランが隠し事をしていることを。
そしてディーノはそれを指摘した。
「受け止める」ことは出来なくても、「受け流す」ことは不可能では無いと。お前がその剣でこれまでに何度も魅せたように。
これをアランは否定出来なかった。
そして生まれたのがこの盾であった。
丸型では駄目な理由は一つ。
衝撃波は全身を襲う。ゆえに丸型では足をすくわれやすいからだ。
踏ん張れなければどうにもならない。だから長方形でなくてはならなかった。
「「「「雄雄雄ッ!」」」」
そして四人は衝撃を受け止めながら吼えた。
バージルの防御魔法が消し飛び、金属板の表面を衝撃波が乗り撫でる。
「!」
瞬間、アランの背中に怖気が走った。
一瞬、盾がへこんだように見えたからだ。
しかし幸いなことに、その怖気が示すような未来は訪れなかった。
だからアランは思った。
この厚みの盾をもってしてもか、と。
設計の際、アランを最も悩ませたのは強度と重量の配分であった。
槍の直撃は絶対に耐えられない、それは分かっていた。槍を回避し、衝撃波だけをいなすしかない。
つまり重すぎてはならない。ディーノの機動力が著しく落ちることは許されなかった。
ゆえに鎚を振りながらアランは思った。
もっとラルフの攻撃を見ておけばよかったと。
衝撃波の威力が分からなければ設計のしようが無い。
アランは勘に頼るしかなかった。神に祈るしかなかった。
だからアランは初撃をやりすごせたという事実に対し、見えない何かに感謝の念を贈ると同時に、
「攻めろ! ディーノ!」
親友の背中を再び押した。
平行線の中でディーノは言った。
自分が、無能が先頭に立ってカルロに勝った魔法使いに挑む意味を。
数で押し潰せる戦いであるにもかかわらず、それでもあえて危険を冒す意味を。
ディーノはアランにはっきりと答えた。
これは自分がやらなければならないことなんだと。
ここで挑まなければ、結局無能では強い魔法使いには立ち向かえないのだという、悪い印象が世間に広まってしまうと。
そしてたとえ死ぬことになったとしても、その時は勇敢に挑んだという事実を上手く使えばいいと。
アランはその最後の言葉を振り払いながら、心の中で叫んだ。
(いいや、駄目だ! お前はこんなところでは死なせん!)
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