458 / 586
第七章 アランが父に代わって歴史の表舞台に立つ
第五十一話 勇将の下に弱卒なし(7)
しおりを挟む
ケビンの心に静寂が訪れる。
しかし耳には対照的に轟音が響き続けている。耳鳴りがやまないほどに。
ケビンはその元凶に向かって、地獄の一丁目へと踏み込んだ。
前方で数珠が弾け、轟音と共に新たな嵐が生まれる。
ケビンはその暴力に向かって二刀を構えようとしたが、
「!」
体は勝手に動いた。
ケビンの体は何度もクラウスが行った動作をなぞり、三日月を放った。
二つの嵐がぶつかり合い、食い合うように消える。
その様を、ケビンは安堵と共に眺めた。
口を閉じただけで仕事はちゃんとしてくれる、人格が消えただけであり、こちらの望みに対して機械的に従ってくれる、その事実は勇気となってケビンの足を前に進ませた。
ケビンの瞳の中にあるラルフの像が少し大きくなり、次の攻撃動作に入る。
その動きに合わせてケビンが三日月を放つ。
轟音と共にぶつかり合う嵐。
それは先と同じように見えたが、
「っ!」
今度は三日月が打ち負けた。
相殺地点が爆心地に近くなったからだ。
されどケビンは焦らず、二刀を構えて来たる蛇に備えた。
が、
(っ!?)
蛇よりも先に襲い掛かってきた衝撃波に、ケビンの姿勢は崩れた。
そうだ。これが針との違い。利点。相手の動きを止める事が出来るのだ。
「ぐっ!」
そして防御魔法が破れた音と共に、ケビンの体は蛇の群れに包まれた。
その体に多くの噛み痕が刻まれる。
しかしケビンは成す術無く身を噛ませたわけでは無かった。
噛まれながらもその場にしゃがみこみ、体を小さくして被弾面積を減らしたのだ。
そしてこれは正解であった。
伏せた方がなお良かった――そんな事に気付く余裕があるほどに。
嵐が過ぎ去ると同時に立ち上がりながら「一刀」で一閃。
赤い槍と三日月がぶつかりあい、砕ける。
しかしまだ脅威は終わらず。
散らばった爆炎と光の破片の中から、新たな赤玉が飛び出す。
ラルフはリーザと違って爆発魔法の練成を片手で出来ている。
ゆえに赤い槍の連続投擲や、嵐と組み合わせた連射が可能なのだ。
しかし、ケビンはこれを読んでいた。
ラルフの動きに合わせて放たれていた二刀目の三日月がこれを迎え撃つ。
爆炎と共に砕け、光の化粧をした赤い華となる。
「っ!」
されどこの結果にケビンは良くない表情を浮かべた。
衝撃波に押されたからでは無い。
次に仕掛けて来る手への対処法が咄嗟に思いつかなかったからだ。
そしてそれはもう見えていた。
舞い散る赤い華を飛び越えるように姿を現したのは少し大きな光弾。
放物線の軌道で、こちらに向かって落ちてきている。
落下地点に踏みとどまっていてはいけない、それが分かっていたゆえにケビンは走り出そうとしたが、
「うっ!」
片手で放たれ続ける爆発魔法がそれを許さない。
衝撃に足がもつれる。
それでもケビンは転がるようにしてその場から離れた。
その直後、ケビンは後ろで光弾が爆発魔法に巻き込まれたのを、轟音と共に感じ取った。
生まれた蛇の群れが地に伏せたケビンの体を薄く撫でる。
ケビンはその痛みを振り払うように立ち上がり、二刀を振るった。
しかしその刃の目標は上。
落ちてきている「二つの」光弾を二枚の三日月が切り裂く。
溢れた嵐が空を彩る白い花火となって広がる。
直後、今度は地上で新たな花火が咲いた。
「ぅああっ!」
赤い衝撃にケビンの体が吹き飛ぶ。
上に注力すれば正面がおろそかになる、至極当然の結果。
しかしラルフが放った爆発魔法が三日月の迎撃狙いであったことが、爆発位置がラルフ側に近く設定されていたことが幸いした。
だからまだ生きている。
しかしその事実は安堵を生まなかった。
ケビンの心は一つの言葉に支配されていた。
(接近しないと!)
しかし耳には対照的に轟音が響き続けている。耳鳴りがやまないほどに。
ケビンはその元凶に向かって、地獄の一丁目へと踏み込んだ。
前方で数珠が弾け、轟音と共に新たな嵐が生まれる。
ケビンはその暴力に向かって二刀を構えようとしたが、
「!」
体は勝手に動いた。
ケビンの体は何度もクラウスが行った動作をなぞり、三日月を放った。
二つの嵐がぶつかり合い、食い合うように消える。
その様を、ケビンは安堵と共に眺めた。
口を閉じただけで仕事はちゃんとしてくれる、人格が消えただけであり、こちらの望みに対して機械的に従ってくれる、その事実は勇気となってケビンの足を前に進ませた。
ケビンの瞳の中にあるラルフの像が少し大きくなり、次の攻撃動作に入る。
その動きに合わせてケビンが三日月を放つ。
轟音と共にぶつかり合う嵐。
それは先と同じように見えたが、
「っ!」
今度は三日月が打ち負けた。
相殺地点が爆心地に近くなったからだ。
されどケビンは焦らず、二刀を構えて来たる蛇に備えた。
が、
(っ!?)
蛇よりも先に襲い掛かってきた衝撃波に、ケビンの姿勢は崩れた。
そうだ。これが針との違い。利点。相手の動きを止める事が出来るのだ。
「ぐっ!」
そして防御魔法が破れた音と共に、ケビンの体は蛇の群れに包まれた。
その体に多くの噛み痕が刻まれる。
しかしケビンは成す術無く身を噛ませたわけでは無かった。
噛まれながらもその場にしゃがみこみ、体を小さくして被弾面積を減らしたのだ。
そしてこれは正解であった。
伏せた方がなお良かった――そんな事に気付く余裕があるほどに。
嵐が過ぎ去ると同時に立ち上がりながら「一刀」で一閃。
赤い槍と三日月がぶつかりあい、砕ける。
しかしまだ脅威は終わらず。
散らばった爆炎と光の破片の中から、新たな赤玉が飛び出す。
ラルフはリーザと違って爆発魔法の練成を片手で出来ている。
ゆえに赤い槍の連続投擲や、嵐と組み合わせた連射が可能なのだ。
しかし、ケビンはこれを読んでいた。
ラルフの動きに合わせて放たれていた二刀目の三日月がこれを迎え撃つ。
爆炎と共に砕け、光の化粧をした赤い華となる。
「っ!」
されどこの結果にケビンは良くない表情を浮かべた。
衝撃波に押されたからでは無い。
次に仕掛けて来る手への対処法が咄嗟に思いつかなかったからだ。
そしてそれはもう見えていた。
舞い散る赤い華を飛び越えるように姿を現したのは少し大きな光弾。
放物線の軌道で、こちらに向かって落ちてきている。
落下地点に踏みとどまっていてはいけない、それが分かっていたゆえにケビンは走り出そうとしたが、
「うっ!」
片手で放たれ続ける爆発魔法がそれを許さない。
衝撃に足がもつれる。
それでもケビンは転がるようにしてその場から離れた。
その直後、ケビンは後ろで光弾が爆発魔法に巻き込まれたのを、轟音と共に感じ取った。
生まれた蛇の群れが地に伏せたケビンの体を薄く撫でる。
ケビンはその痛みを振り払うように立ち上がり、二刀を振るった。
しかしその刃の目標は上。
落ちてきている「二つの」光弾を二枚の三日月が切り裂く。
溢れた嵐が空を彩る白い花火となって広がる。
直後、今度は地上で新たな花火が咲いた。
「ぅああっ!」
赤い衝撃にケビンの体が吹き飛ぶ。
上に注力すれば正面がおろそかになる、至極当然の結果。
しかしラルフが放った爆発魔法が三日月の迎撃狙いであったことが、爆発位置がラルフ側に近く設定されていたことが幸いした。
だからまだ生きている。
しかしその事実は安堵を生まなかった。
ケビンの心は一つの言葉に支配されていた。
(接近しないと!)
0
お気に入りに追加
88
あなたにおすすめの小説
夫を愛することはやめました。
杉本凪咲
恋愛
私はただ夫に好かれたかった。毎日多くの時間をかけて丹念に化粧を施し、豊富な教養も身につけた。しかし夫は私を愛することはなく、別の女性へと愛を向けた。夫と彼女の不倫現場を目撃した時、私は強いショックを受けて、自分が隣国の王女であった時の記憶が蘇る。それを知った夫は手のひらを返したように愛を囁くが、もう既に彼への愛は尽きていた。
【完結】王子は聖女と結婚するらしい。私が聖女であることは一生知らないままで
雪野原よる
恋愛
「聖女と結婚するんだ」──私の婚約者だった王子は、そう言って私を追い払った。でも、その「聖女」、私のことなのだけど。
※王国は滅びます。
別に構いませんよ、離縁するので。
杉本凪咲
恋愛
父親から告げられたのは「出ていけ」という冷たい言葉。
他の家族もそれに賛同しているようで、どうやら私は捨てられてしまうらしい。
まあいいですけどね。私はこっそりと笑顔を浮かべた。
何を間違った?【完結済】
maruko
恋愛
私は長年の婚約者に婚約破棄を言い渡す。
彼女とは1年前から連絡が途絶えてしまっていた。
今真実を聞いて⋯⋯。
愚かな私の後悔の話
※作者の妄想の産物です
他サイトでも投稿しております
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる