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第七章 アランが父に代わって歴史の表舞台に立つ

第五十一話 勇将の下に弱卒なし(7)

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 ケビンの心に静寂が訪れる。
 しかし耳には対照的に轟音が響き続けている。耳鳴りがやまないほどに。
 ケビンはその元凶に向かって、地獄の一丁目へと踏み込んだ。
 前方で数珠が弾け、轟音と共に新たな嵐が生まれる。
 ケビンはその暴力に向かって二刀を構えようとしたが、

「!」

 体は勝手に動いた。
 ケビンの体は何度もクラウスが行った動作をなぞり、三日月を放った。
 二つの嵐がぶつかり合い、食い合うように消える。
 その様を、ケビンは安堵と共に眺めた。
 口を閉じただけで仕事はちゃんとしてくれる、人格が消えただけであり、こちらの望みに対して機械的に従ってくれる、その事実は勇気となってケビンの足を前に進ませた。
 ケビンの瞳の中にあるラルフの像が少し大きくなり、次の攻撃動作に入る。
 その動きに合わせてケビンが三日月を放つ。
 轟音と共にぶつかり合う嵐。
 それは先と同じように見えたが、

「っ!」

 今度は三日月が打ち負けた。
 相殺地点が爆心地に近くなったからだ。
 されどケビンは焦らず、二刀を構えて来たる蛇に備えた。
 が、

(っ!?)

 蛇よりも先に襲い掛かってきた衝撃波に、ケビンの姿勢は崩れた。
 そうだ。これが針との違い。利点。相手の動きを止める事が出来るのだ。

「ぐっ!」

 そして防御魔法が破れた音と共に、ケビンの体は蛇の群れに包まれた。
 その体に多くの噛み痕が刻まれる。
 しかしケビンは成す術無く身を噛ませたわけでは無かった。
 噛まれながらもその場にしゃがみこみ、体を小さくして被弾面積を減らしたのだ。
 そしてこれは正解であった。
 伏せた方がなお良かった――そんな事に気付く余裕があるほどに。
 嵐が過ぎ去ると同時に立ち上がりながら「一刀」で一閃。
 赤い槍と三日月がぶつかりあい、砕ける。
 しかしまだ脅威は終わらず。
 散らばった爆炎と光の破片の中から、新たな赤玉が飛び出す。
 ラルフはリーザと違って爆発魔法の練成を片手で出来ている。
 ゆえに赤い槍の連続投擲や、嵐と組み合わせた連射が可能なのだ。
 しかし、ケビンはこれを読んでいた。
 ラルフの動きに合わせて放たれていた二刀目の三日月がこれを迎え撃つ。
 爆炎と共に砕け、光の化粧をした赤い華となる。

「っ!」

 されどこの結果にケビンは良くない表情を浮かべた。
 衝撃波に押されたからでは無い。
 次に仕掛けて来る手への対処法が咄嗟に思いつかなかったからだ。
 そしてそれはもう見えていた。
 舞い散る赤い華を飛び越えるように姿を現したのは少し大きな光弾。
 放物線の軌道で、こちらに向かって落ちてきている。
 落下地点に踏みとどまっていてはいけない、それが分かっていたゆえにケビンは走り出そうとしたが、

「うっ!」

 片手で放たれ続ける爆発魔法がそれを許さない。
 衝撃に足がもつれる。
 それでもケビンは転がるようにしてその場から離れた。
 その直後、ケビンは後ろで光弾が爆発魔法に巻き込まれたのを、轟音と共に感じ取った。
 生まれた蛇の群れが地に伏せたケビンの体を薄く撫でる。
 ケビンはその痛みを振り払うように立ち上がり、二刀を振るった。
 しかしその刃の目標は上。
 落ちてきている「二つの」光弾を二枚の三日月が切り裂く。
 溢れた嵐が空を彩る白い花火となって広がる。
 直後、今度は地上で新たな花火が咲いた。

「ぅああっ!」

 赤い衝撃にケビンの体が吹き飛ぶ。
 上に注力すれば正面がおろそかになる、至極当然の結果。
 しかしラルフが放った爆発魔法が三日月の迎撃狙いであったことが、爆発位置がラルフ側に近く設定されていたことが幸いした。
 だからまだ生きている。
 しかしその事実は安堵を生まなかった。
 ケビンの心は一つの言葉に支配されていた。

(接近しないと!)
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