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第七章 アランが父に代わって歴史の表舞台に立つ

第五十一話 勇将の下に弱卒なし(4)

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 だが、このクラウスの偽者は設計者の理想にはまだ遠い。
 されど、設計者はまず初めに重要と判断した部分から手を入れていた。
 それは何か。
 ケビンの中のクラウスはそれを伝えようとしたが、ラルフは待ってはくれなかった。
 またしても同じ攻撃が来る、それをケビンが感じ取ると、体の主導権は再びクラウスへ移った。
 先と同じように発光した剣を大上段に構える。
 しかし今度は二刀であった。
 二刀でも出来る、と判断したからだ。
 ケビンが集めた剣を捨てた理由は、必要無かったからではない。
 まずは一刀での全力を試したかったのだ。それしか練習してなかったからだ。しかも練習といっても脳内での話。体を実際に動かすのは初めてだったからだ。
 つまり、先も今回もぶっつけの本番のようなものである。
 が、クラウスは先と同じ自信をもって二本の剣を、

「せぇやっ!」

 交差させながら振り下ろした。
 二つの三日月が×字形に重なって放たれる。
 そしてそれは洪水とぶつかり合い、

「っ!」

 ケビンの前で派手に弾けた。
 ぶつかり合いの余波が振動となってケビンの肌を震わせる。
 が、蛇も波も、一つたりとて来ることは無かった。
 災害が過ぎ去り、静寂が訪れる。
 またしても無傷。これで三度の洪水をしのいだことになる。
 その結果に、ラルフは、

「……っ」

 忌々しい、そう言いたげな表情を浮かべた。
 そして静寂を最初に破ったのはクラウスであった。
 クラウスはケビンに対し、こう言った。

(私はあなたの苦手なことを代わりにやるために作られたのだ)と。

 そして声は続いた。

(特に三日月は私におまかせを)と。

 クラウスと同じ声であるからか、その言葉はとても頼もしく感じられた。
 ゆえに、ケビンの足は自然と動いていた。
 次の攻撃の予備動作に入ったラルフに向かって踏み込む。
 ケビンは既にラルフの弱点を、防御魔法をこちらから破壊すれば自爆させられることを虫の報告で知っていた。
 しかし自分の光弾では不可能。射程の短い三日月を当てるしかない。
 だから鋭く地を蹴る。狙いを読まれるよりも先に仕掛けるために。
 が、双方の距離があと三度の踏み込みで射程内、というところまで縮まった瞬間、

「!」

 ラルフは「二枚で」嵐を放った。
 ケビンの狙いに気付いたラルフは三枚目の完成を待つ事無く、迎撃を放ったのだ。
 先よりも規模が落ちているとはいえ、普通は死を覚悟するその濁流を前にケビンは、

(頼む!)

 叫んだ。
 直後、いや、ほぼ同時に体から自由が消え、腕が勝手に動いた。
 放たれた三日月が濁流とぶつかり合う。

「疾ッ!」

 そしてケビンが足を動かし、衝突点に飛び込む。
 剣で露払いし、嵐を突破。
 いける、そう思ったケビンは最後の踏み込みをしようと足に力を込めた。
 が、直後、

「!?」

 飛んで来たある虫の報告に、ケビンは目を見開いた。
 いつの間にそんなことが出来るようになった?! そんな驚きと同時に、間違いであってほしいという願いを含んだ疑いの念も浮かんだが、ケビンは素早く回避行動に切り替えた。
 報告に間違いが無いとすれば、避けなければ即死だからだ。
 そして次の瞬間、ラルフは虫が間違っていないことを証明した。
 放たれたのは嵐では無く、一個の球。
 しかしそれは普通の光弾では無かった。
 薄赤く、輝いていた。

 以前述べたように、この世界の人間は全員が光、炎、雷、冷の魔法の素質を有している。炎魔法の熱で生み出した自由粒子と電気の力で体を動かし、余剰な熱は冷却魔法で変換、または体外に放出させている。
 その中でも特に光魔法と炎魔法の習得は比較的簡単な部類だ。雷と冷却に関しては第四の存在が術者の手を少し改造しなくては難しい。
 ラルフはガストンとの戦いの前に光と炎の関係を理解し、習得したのだ。
 そうだ、ラルフは着実に魔王と同じ域に近付いている。感知を得たことでそれが速まった。元の魔力量が多いゆえに、気付きやすいのだ。
 そしてラルフはリーザと共闘する過程で彼女から深く学んだ。

 つまり、この球は、

「ぐ、うおぉっ?!」

 ただの爆発魔法では無い。赤い槍ということだ。
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