455 / 586
第七章 アランが父に代わって歴史の表舞台に立つ
第五十一話 勇将の下に弱卒なし(4)
しおりを挟む
だが、このクラウスの偽者は設計者の理想にはまだ遠い。
されど、設計者はまず初めに重要と判断した部分から手を入れていた。
それは何か。
ケビンの中のクラウスはそれを伝えようとしたが、ラルフは待ってはくれなかった。
またしても同じ攻撃が来る、それをケビンが感じ取ると、体の主導権は再びクラウスへ移った。
先と同じように発光した剣を大上段に構える。
しかし今度は二刀であった。
二刀でも出来る、と判断したからだ。
ケビンが集めた剣を捨てた理由は、必要無かったからではない。
まずは一刀での全力を試したかったのだ。それしか練習してなかったからだ。しかも練習といっても脳内での話。体を実際に動かすのは初めてだったからだ。
つまり、先も今回もぶっつけの本番のようなものである。
が、クラウスは先と同じ自信をもって二本の剣を、
「せぇやっ!」
交差させながら振り下ろした。
二つの三日月が×字形に重なって放たれる。
そしてそれは洪水とぶつかり合い、
「っ!」
ケビンの前で派手に弾けた。
ぶつかり合いの余波が振動となってケビンの肌を震わせる。
が、蛇も波も、一つたりとて来ることは無かった。
災害が過ぎ去り、静寂が訪れる。
またしても無傷。これで三度の洪水をしのいだことになる。
その結果に、ラルフは、
「……っ」
忌々しい、そう言いたげな表情を浮かべた。
そして静寂を最初に破ったのはクラウスであった。
クラウスはケビンに対し、こう言った。
(私はあなたの苦手なことを代わりにやるために作られたのだ)と。
そして声は続いた。
(特に三日月は私におまかせを)と。
クラウスと同じ声であるからか、その言葉はとても頼もしく感じられた。
ゆえに、ケビンの足は自然と動いていた。
次の攻撃の予備動作に入ったラルフに向かって踏み込む。
ケビンは既にラルフの弱点を、防御魔法をこちらから破壊すれば自爆させられることを虫の報告で知っていた。
しかし自分の光弾では不可能。射程の短い三日月を当てるしかない。
だから鋭く地を蹴る。狙いを読まれるよりも先に仕掛けるために。
が、双方の距離があと三度の踏み込みで射程内、というところまで縮まった瞬間、
「!」
ラルフは「二枚で」嵐を放った。
ケビンの狙いに気付いたラルフは三枚目の完成を待つ事無く、迎撃を放ったのだ。
先よりも規模が落ちているとはいえ、普通は死を覚悟するその濁流を前にケビンは、
(頼む!)
叫んだ。
直後、いや、ほぼ同時に体から自由が消え、腕が勝手に動いた。
放たれた三日月が濁流とぶつかり合う。
「疾ッ!」
そしてケビンが足を動かし、衝突点に飛び込む。
剣で露払いし、嵐を突破。
いける、そう思ったケビンは最後の踏み込みをしようと足に力を込めた。
が、直後、
「!?」
飛んで来たある虫の報告に、ケビンは目を見開いた。
いつの間にそんなことが出来るようになった?! そんな驚きと同時に、間違いであってほしいという願いを含んだ疑いの念も浮かんだが、ケビンは素早く回避行動に切り替えた。
報告に間違いが無いとすれば、避けなければ即死だからだ。
そして次の瞬間、ラルフは虫が間違っていないことを証明した。
放たれたのは嵐では無く、一個の球。
しかしそれは普通の光弾では無かった。
薄赤く、輝いていた。
以前述べたように、この世界の人間は全員が光、炎、雷、冷の魔法の素質を有している。炎魔法の熱で生み出した自由粒子と電気の力で体を動かし、余剰な熱は冷却魔法で変換、または体外に放出させている。
その中でも特に光魔法と炎魔法の習得は比較的簡単な部類だ。雷と冷却に関しては第四の存在が術者の手を少し改造しなくては難しい。
ラルフはガストンとの戦いの前に光と炎の関係を理解し、習得したのだ。
そうだ、ラルフは着実に魔王と同じ域に近付いている。感知を得たことでそれが速まった。元の魔力量が多いゆえに、気付きやすいのだ。
そしてラルフはリーザと共闘する過程で彼女から深く学んだ。
つまり、この球は、
「ぐ、うおぉっ?!」
ただの爆発魔法では無い。赤い槍ということだ。
されど、設計者はまず初めに重要と判断した部分から手を入れていた。
それは何か。
ケビンの中のクラウスはそれを伝えようとしたが、ラルフは待ってはくれなかった。
またしても同じ攻撃が来る、それをケビンが感じ取ると、体の主導権は再びクラウスへ移った。
先と同じように発光した剣を大上段に構える。
しかし今度は二刀であった。
二刀でも出来る、と判断したからだ。
ケビンが集めた剣を捨てた理由は、必要無かったからではない。
まずは一刀での全力を試したかったのだ。それしか練習してなかったからだ。しかも練習といっても脳内での話。体を実際に動かすのは初めてだったからだ。
つまり、先も今回もぶっつけの本番のようなものである。
が、クラウスは先と同じ自信をもって二本の剣を、
「せぇやっ!」
交差させながら振り下ろした。
二つの三日月が×字形に重なって放たれる。
そしてそれは洪水とぶつかり合い、
「っ!」
ケビンの前で派手に弾けた。
ぶつかり合いの余波が振動となってケビンの肌を震わせる。
が、蛇も波も、一つたりとて来ることは無かった。
災害が過ぎ去り、静寂が訪れる。
またしても無傷。これで三度の洪水をしのいだことになる。
その結果に、ラルフは、
「……っ」
忌々しい、そう言いたげな表情を浮かべた。
そして静寂を最初に破ったのはクラウスであった。
クラウスはケビンに対し、こう言った。
(私はあなたの苦手なことを代わりにやるために作られたのだ)と。
そして声は続いた。
(特に三日月は私におまかせを)と。
クラウスと同じ声であるからか、その言葉はとても頼もしく感じられた。
ゆえに、ケビンの足は自然と動いていた。
次の攻撃の予備動作に入ったラルフに向かって踏み込む。
ケビンは既にラルフの弱点を、防御魔法をこちらから破壊すれば自爆させられることを虫の報告で知っていた。
しかし自分の光弾では不可能。射程の短い三日月を当てるしかない。
だから鋭く地を蹴る。狙いを読まれるよりも先に仕掛けるために。
が、双方の距離があと三度の踏み込みで射程内、というところまで縮まった瞬間、
「!」
ラルフは「二枚で」嵐を放った。
ケビンの狙いに気付いたラルフは三枚目の完成を待つ事無く、迎撃を放ったのだ。
先よりも規模が落ちているとはいえ、普通は死を覚悟するその濁流を前にケビンは、
(頼む!)
叫んだ。
直後、いや、ほぼ同時に体から自由が消え、腕が勝手に動いた。
放たれた三日月が濁流とぶつかり合う。
「疾ッ!」
そしてケビンが足を動かし、衝突点に飛び込む。
剣で露払いし、嵐を突破。
いける、そう思ったケビンは最後の踏み込みをしようと足に力を込めた。
が、直後、
「!?」
飛んで来たある虫の報告に、ケビンは目を見開いた。
いつの間にそんなことが出来るようになった?! そんな驚きと同時に、間違いであってほしいという願いを含んだ疑いの念も浮かんだが、ケビンは素早く回避行動に切り替えた。
報告に間違いが無いとすれば、避けなければ即死だからだ。
そして次の瞬間、ラルフは虫が間違っていないことを証明した。
放たれたのは嵐では無く、一個の球。
しかしそれは普通の光弾では無かった。
薄赤く、輝いていた。
以前述べたように、この世界の人間は全員が光、炎、雷、冷の魔法の素質を有している。炎魔法の熱で生み出した自由粒子と電気の力で体を動かし、余剰な熱は冷却魔法で変換、または体外に放出させている。
その中でも特に光魔法と炎魔法の習得は比較的簡単な部類だ。雷と冷却に関しては第四の存在が術者の手を少し改造しなくては難しい。
ラルフはガストンとの戦いの前に光と炎の関係を理解し、習得したのだ。
そうだ、ラルフは着実に魔王と同じ域に近付いている。感知を得たことでそれが速まった。元の魔力量が多いゆえに、気付きやすいのだ。
そしてラルフはリーザと共闘する過程で彼女から深く学んだ。
つまり、この球は、
「ぐ、うおぉっ?!」
ただの爆発魔法では無い。赤い槍ということだ。
0
お気に入りに追加
88
あなたにおすすめの小説
夫を愛することはやめました。
杉本凪咲
恋愛
私はただ夫に好かれたかった。毎日多くの時間をかけて丹念に化粧を施し、豊富な教養も身につけた。しかし夫は私を愛することはなく、別の女性へと愛を向けた。夫と彼女の不倫現場を目撃した時、私は強いショックを受けて、自分が隣国の王女であった時の記憶が蘇る。それを知った夫は手のひらを返したように愛を囁くが、もう既に彼への愛は尽きていた。
【完結】王子は聖女と結婚するらしい。私が聖女であることは一生知らないままで
雪野原よる
恋愛
「聖女と結婚するんだ」──私の婚約者だった王子は、そう言って私を追い払った。でも、その「聖女」、私のことなのだけど。
※王国は滅びます。
何を間違った?【完結済】
maruko
恋愛
私は長年の婚約者に婚約破棄を言い渡す。
彼女とは1年前から連絡が途絶えてしまっていた。
今真実を聞いて⋯⋯。
愚かな私の後悔の話
※作者の妄想の産物です
他サイトでも投稿しております
別に構いませんよ、離縁するので。
杉本凪咲
恋愛
父親から告げられたのは「出ていけ」という冷たい言葉。
他の家族もそれに賛同しているようで、どうやら私は捨てられてしまうらしい。
まあいいですけどね。私はこっそりと笑顔を浮かべた。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた
杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。
なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。
婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。
勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。
「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」
その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺!
◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。
婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。
◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。
◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます!
10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる