Chivalry - 異国のサムライ達 -

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)

文字の大きさ
上 下
439 / 586
第七章 アランが父に代わって歴史の表舞台に立つ

第四十九話 懐かしき地獄(8)

しおりを挟む
   ◆◆◆

 そして戦いはクリスが感じ取った通りに進んだ。
 開幕の挟撃はやはり伏兵の妨害によって上手くいかなかった。
 ゆえにガストン軍はカルロの街への突撃に切り替えた。
 その際、ガストン軍の総大将は右翼の部隊と合流した。左翼側の部隊はその時点で壊滅寸前になっていたからだ。左翼側の伏兵部隊を指揮しているのはカイルであった。
 そしてガストン軍は被害を出しながらもクリス達を振り切り、カルロの街に向かって突撃した。
 しかしそこまでだった。
 クリスが予想した通り、ガストン達は最後の壁を、防衛部隊を突破することは出来なかった。
 ガストン達の足はそこで止まり、追いついて来たクリス達とアンナ達に挟撃される形になった。
 そして戦いは終わった。ガストン軍はクリスの降伏勧告を受け入れた。

   ◆◆◆

 その後、クリスは降伏した総大将を呼び出した。
 遠目からでは分からなかったが、総大将は意外に若い男であった。
 二十代前半に見える顔つき。
 こんな若者があのような死闘の指揮をしていたのかとクリスは思ったが、その答えはすぐに予想がついた。
 だからクリスは尋ねた。

「話の前に、まずは名前を聞かせてもらえるか?」

 これに若者は口を開いた。

「ガストンで構いません。我が一族はその名を継いでいますので。生まれた日に授けられた名前も別にありますが、そちらは身内でしか使いません」

 それを聞いたクリスは「やはりな」と思った。
 心を読むまでも無かった。世襲制にはままあることだからだ。
 そしてクリスは早速本題に入った。

「……さて、貴殿を呼びつけたのは君達の今後の処遇について話し合うためだけでは無い。一つ聞きたいことがあったからだ」

 これにガストンは「私に答えられることであればなんなりと」と、丁寧な返事をしたが、それが本心からのものでは無いことをクリスは感じ取った。
 しかしそれは今はどうでもよかった。
 だからクリスは尋ねた。

「……どうしてもっと早く降伏を受け入れなかった?」
「……」

 ガストンはすぐには答えなかった。
 しかし彼の心は正直であり、それを読み取ったクリスは口を開いた。

「……最初に我々とぶつかった際に勝ち目はほぼ無いと分かっただろう? なのになぜ、あんな分の悪い賭けに出た? どうして突撃なんて手を選んだ?」
「……」

 ガストンはやはり答えなかった。
 されどやはり、彼の心は正直であった。
 クリスは感じ取った。彼の心には炎の一族に対しての不信感だけで無く、恨みのようなものが混じっていることを。
 だからクリスは尋ねた。

「そんなに我々のことが信用出来ないか? 無謀な勝負に命を賭けるほどに? なぜ?」

 その質問に対し、ガストンはようやく重い口を開いた。

「……『炎の一族』の一人であるあなたからそのようなことを聞かれるとは、少々驚きました。……これは悪趣味な遊びですか? 本心からの質問とは思えないのですが」

 その答えはクリスにとって予想外のものであった。
 だからクリスは尋ねた。

「どういうことだ?」と。

 そしてガストンは答えた。
 その答えを聞き、感じ取ったクリスは思った。
 なんと厄介な問題なのかと。
 だからクリスは誰かに相談すべきだと思った。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

Re:征服者〜1000年後の世界で豚公子に転生した元皇帝が再び大陸を支配する〜

鴉真似≪アマネ≫
ファンタジー
 大陸統一。誰もが無理だと、諦めていたことである。  その偉業を、たった1代で成し遂げた1人の男がいた。  幾多の悲しみを背負い、夥しい屍を踏み越えた最も偉大な男。  大統帝アレクサンダリア1世。  そんな彼の最後はあっけないものだった。 『余の治世はこれにて幕を閉じる……これより、新時代の幕開けだ』 『クラウディアよ……余は立派にやれたかだろうか』 『これで全てが終わる……長かった』  だが、彼は新たな肉体を得て、再びこの世へ舞い戻ることとなる。  嫌われ者の少年、豚公子と罵られる少年レオンハルトへと転生する。  舞台は1000年後。時期は人生最大の敗北喫した直後。 『ざまあ見ろ!』 『この豚が!』 『学園の恥! いや、皇国の恥!』  大陸を統べた男は再び、乱れた世界に牙を剝く。  これはかつて大陸を手中に収めた男が紡ぐ、新たな神話である。 ※個人的には7話辺りから面白くなるかと思います。 ※題名が回収されるのは3章後半になります。

処理中です...