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第七章 アランが父に代わって歴史の表舞台に立つ

第四十八話 人馬一体(6)

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   ◆◆◆

 深夜――

「というわけで、またしばらく外回りだ」

 ディーノは商人達を訪ねる仕事がまだ続くことをサラに伝えた。

「そうですか」

 サラの淡白な返事が室内に響く。
 が、ディーノは感じ取った。
 サラの心がざわついているのを。
 その原因と思われる事を、ディーノは声に出した。

「……親父さんのことが気になるか?」

 これに、サラは正直に「はい」と答えた。
 ここはリチャードの屋敷。
 されどその主は不在。
 リチャードは軍に連行されたまま、帰ってきていなかった。

「……」

 ディーノはアランとの話を思い出し、どう言うべきかを考えた。
 幸いなことにその思考を遮る雑音は無かった。
 人の気配は以前よりも薄くなっていた。
 リチャードが連行された後、使用人の多くが辞めたからだ。
 その事がサラの心を重くしていた。
 だからディーノは言葉を選ぼうとした。

「ええと、親父さんの容疑は反乱だから……その場合は、その……」

 が、出来なかった。
 しかし、ディーノのその心配りを察したサラは、そんな気遣いは不要とばかりに口を開いた。

「最悪の場合、財産は没収。家は取り潰し、そのはずです」

 答えを知られているのでは、もはやディーノには成す術が無かった。
 だからディーノは正直に、

「ああ、その通りだ」

 と答えた。
 直後、サラは本当に聞きたかった事をディーノに尋ねた。

「もし、この家に住めなくなったら、私はどうしたら……」

 サラの心配事、それはリチャードの事では無く、自分の未来の事であった。
 そしてそれを聞いたディーノは不謹慎にも心が軽くなった。
 なんだ、そんなことか、と。
 それに対しての答えはとうの昔に決まっていた。
 だからディーノは即座にそれを声にした。

「心配するな。その時は俺に付いて来ればいい」と。

 その台詞は、年頃の女性からすれば伴侶になれと言っているのと同義であった。
 ゆえに、

「……」

 サラは言葉を詰まらせた。
 対し、サラが突然口を閉ざした理由が分からなかったディーノは、

「……どうした?」

 自分は何か変なことを言ってしまったのかと思い、尋ね返した。
 それがサラには耐えられないほどに可笑しかった。

「……ふふっ」

 自然と笑みがこぼれる。
 その笑顔に、ディーノはうろたえるしか無かった。
 だから、もう一度尋ねた。

「……俺、何か変なこと言ったか?」

 これに、サラは笑みをそのままに答えた。

「だって、ディーノ様ったら、突然そんな事を言うんですもの……」

 その後、二人はとても甘い夜を過ごした。
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