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第七章 アランが父に代わって歴史の表舞台に立つ

第四十七話 炎の紋章を背に(13)

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   ◆◆◆

 正午――

 予定時刻を大幅に過ぎてしまったが、雲水との話し合いを終えたアランはようやく出発しようとしていた。
 外では兵士達が整列して待機している。
 時間を食ってしまった、そんな思いからアランの足は自然と速まっていたが、

「どうした、クラウス?」

 門の前で立ち塞がるように待っていた忠実な家臣の姿に、アランはその足を止めた。
 クラウスはアランに向かってひざまずきながら口を開いた。

「アラン様、勝手を承知でお願い申し上げます。私に千の兵を預けては頂けないでしょうか?」

 その真意をアランはすぐに感じ取った。

「それはつまり……」

 アランはそれを言葉にしようとしたが、クラウスが自ら述べた。

「はい。私はクリス様と共にこの地に残るつもりでございます」

 その理由もクラウスは自ら答えた。

「私がアラン様の兵を率いてここに残れば、どのような結果に終わろうとも、クリス将軍の臣下達との関係が悪化することはございますまい」

 この進言にアランは胸が熱くなるのを感じた。
 どうしてお前はいつもそうなのだ。あの過去がお前をそうさせるのか。
 アランの心に、そんな思いや言葉が駆け抜けたが、

「分かった、最後尾の部隊をお前に預ける。頼んだぞ」

 アランは至極単純な言葉だけを返した。
 しかしその言葉だけでクラウスにとっては十分だった。
 思いが言葉にしっかりと乗せられていた。クラウスはそれをはっきりと感じ取れていた。
 だからクラウスもまた同じように、

「お任せを」

 単純な言葉を返した。
 クラウスはそう言い終えると同時に道を譲り、アランは門をくぐった。
 外では感じ取った通り、兵士達がずらりと並んでいた。
 先頭に立つ隊長達の視線がアランに突き刺さる。
 その中のうちの二人、アンナとディーノはようやく姿を見せた総大将に向かって声を上げた。

「お兄様」「アラン」

 アランはその声に頷きを返し、叫んだ。

「出陣するぞ!」

 その声が響き渡った直後、合図を担当する部隊長の一人が叫んだ。
 まるであの時のフリッツのように。

「アラン将軍の御出陣! 御出陣!」

 それはまるで、あの一場面が現実に再現されたかのようであった。

   ◆◆◆

 そしてアラン達は南進した。
 二週間ほどかけて首都の東を山沿いに通り過ぎる。
 目的地は南端、海沿いに並ぶ街。
 ガストン軍達も既に動き始めていることをアランは感じ取っていた。
 ガストン軍は首都側と南側の二手に分かれて進軍している。
 兵数は首都側の方が多い。
 そしてその動きから、平原の守りが無力化してしまったことは明らかであった。
 レオン将軍がどうなったのか、どうしているのかはアランの感知を持ってしても不明であった。
 が、

「アラン様、レオン将軍の妻を名乗る者が面会を求めています。どうしますか?」

 事の真相を知る者が訪れたことを、兵士はアランに伝えた。
 だが、アランはとうにその者の接近を感じ取っていた。
 だから返事はもう決まっていた。

「話を聞こう。ここに通してくれ。ついでに一時間休憩だ。兵達に足を休めるよう伝えてくれ」
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