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第七章 アランが父に代わって歴史の表舞台に立つ

第四十七話 炎の紋章を背に(6)

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   ◆◆◆

「で、そっちはどうだった?」

 昼過ぎ。繁忙期を過ぎた酒場で、遅めの昼食を取っていた男が対面に座っている男に尋ねた。
 相席している男、ブラッドはソーセージを一口かじった後、

「脈有りだ」

 と答えた。
 そしてブラッドは水でソーセージを胃に流し込んだ後、言葉を続けた。

「最近上手くいっていないみたいだから、慎重になってはいるがな」

 その言葉に興味が湧いた男は、さらに深く聞いてみることにした。

「お前の担当のそのリチャードってやつはどんな男なんだ?」

 男はブラッドの上司では無い。そんなことを報告する義務は無い。が、ブラッドはこの退屈で作業的な昼食に会話という華を添えてやることにした。

「噂どおりのやつさ」

 それは男も知っている。聞きたい事はそんなことでは無い。だから男はもう一度尋ねた。

「もっと具体的に頼む」

 これにブラッドは少し考えた後、

「一言で言えば使えるやつだよ」

 と次のソーセージを頬張りながら答えた。
 興味をそそるその言い回しに、

「というと?」

 男が食いつくと、ブラッドは答えた。

「まず第一に馬鹿じゃ無い。何をやるにも凶暴だが、丁寧な仕事をする」

 ブラッドは咀嚼しているソーセージを水で流し込んだ後、言葉を続けた。

「……だが、噂になってしまっていることから分かる通り、その仕事は残念ながら完璧じゃあ無い。しかしあの男はそれを、自分の失敗を受け入れられていない。自分が間違っていたと認められないのさ。そういう意味では愚か者かもな」

 ブラッドが述べたリチャードに対してのその評価に、男は頷きを返した後、

「凶悪で、そして自分に甘い、か。それは確かに使えるな」

 薄い笑みを浮かべながら、ブラッドの意見に同調した。

 悪事を行うということはそれ自体がリスクであり、欠点である。バレれば敵が増え、時に罰を受ける。
 そして自分に甘いものはその欠点を改善することが出来ない。そもそも、追い詰められているわけでも無いのに悪事を働ける人間は、心にブレーキが働かない人間であることが多いため、自分に甘くなりがちである。
 つまり一言で言えば、そういう人間は泥沼に引きずり込まれやすい、ということだ。悪事を働いたという過去を時に利用される。

 そして当然であるが、それはサイラスにも当てはまっている。悪事というものは時に呪いとなって永久たる足枷になることがある。
 ゆえに悪人というものは知れば知るほど愚かな存在であると思えるようになる。
 されど、悪はあなどってはならない。

   ◆◆◆

 一ヵ月後――

「……何だと?!」

 フレディからの報告に、サイラスは声を荒げた。
 しかしサイラスは直後に冷静さを取り戻した。
 心の片隅で予想出来ていた事態だったからだ。
 だからサイラスは尋ねた。

「……首謀者は、大義名分は何だ? ただの傀儡、御輿を担がれているだけだと思われるやつでもいい。教えてくれ」

 これにフレディは予想通りの答えを返した。

「ガストン将軍の妻です。一部地域では既に交戦状態になっているようです」

 だからサイラスは、

「……そうか」

 そう呟いた後、目頭を押さえた。
 過去が自分に牙を向いた、その事実がサイラスの心を乱し、傷つけていた。
 されどその痛みに構っている場合では無いことをサイラスはよく分かっていた。
 だからサイラスはもう一度尋ねた。

「……協力者はどんな連中だ? ガストンの一族だけで事を起こしたわけではあるまい」

 これにフレディは頷き、答えた。

「ガストン一族と縁のある者や、以前からの援助者がほとんどみたいなんですが……」

 しかしその答えははっきりとしないものであった。
 何か怪しい、が、その思いを確定させる証拠がまだ無いからだ。
 それを察したサイラスは口を開いた。

「その援助者を洗え。絶対にガストン一族とは無関係の人間が、場を混乱させることだけが狙いの人間が混じっているはずだ」

 その明確な指示にフレディは再び頷きを返し、部屋を出て行った。

 ブラッドが言った通り、反乱軍は分裂した。
 そしてそれは一度限りの使い捨てのカードの中でも、最強の一枚であった。
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