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第六章 アランの力は遂に一つの頂点に
第四十六話 暴風が如く(19)
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だが、シャロンの戦意はまだ消えたわけでは無かった。
紙一重で命を拾い続けながら、シャロンはディーノを調べていた。
そして気付いたことが二つあった。
まず一つは、ディーノの虫達が顔の付近を重点的に守っていること。
それが意味するところ、その疑問は、闇の中に「時々」浮かび上がるディーノの白い両目と繋がった。
もう一つ気付いたことがその目に関すること。ディーノの両目は時々消えることがある。闇と同化するように。
最初はまばたきかと思った。
しかし違った。長すぎる時がある。明らかに影に覆われているときがある。
これらの事実から、導き出される答えは一つしか無かった。
目の部分だけは影が薄い、または覆われていない時間が存在するのだ。
なぜそうなっているのか、それを推察することは容易い。
この男は目から波を受け取っているのだ。言い換えれば、感知機能が目にしか存在しないということだ。
そして完全な闇に覆われる事があるということは、その感知は常時機能しているわけでは無いということ。
その点については虫を使っているのである程度補われているだろうが、あの虫達も主人に情報を渡す際は皮膚に貼り付くか、目が白い時間を利用するしか無いはずだ。
そしてこれらの予想が正解であるならば、
(懐にもぐりこめば――)
もしかしたら、至近距離であれば相手の考えを読むことが可能な時間を得ることが出来るのではないか、という考えにシャロンは至った。
これら一連のシャロンの推察、それは正解であった。
ディーノの感知は全方位では無い。思考の波を減衰させる膜で体を覆っているのだから当然であるが。ディーノは目を指向性のあるアンテナとして使っている。先にルイスがシャロンを見つけ出した時のように、範囲を狭めて強度を上げているのだ。
しかしこのアンテナはその割に精度は低い。両目が白く浮かんでいる間でも、薄い膜に覆われているからだ。
そしてシャロンは覚悟を決めた。
シャロンは虎穴に入らずんば、などという戦法が好きな人格では無い。しかし、
(やるしかっ!)
他に手は無かった。
予想が正解であるか否か、そのどちらにしろ、現実として光弾は通じないのだ。ならば接近戦しか無い。
そして仕掛けるのであれば当然、相手の感知が機能しなくなる時、すなわち、
(今!)
両目が闇に覆われたその瞬間、シャロンはディーノに向かって踏み込んだ。
迎撃の銀閃が地に水平に奔る。
しかし既にシャロンは地に伏せるように姿勢を低くしている。
ディーノの刃がシャロンの髪を撫でながら頭上を通り抜けていく。
瞬間、
(やはり!)
こちらの回避行動を読んだ迎撃では無い、やはり感知が機能していない、シャロンはそう確信した。
潜り込むシャロンの眼前に、白いディーノの両目が浮かび上がる。
シャロンはそれと目を合わせながら、立ち上がり、
「疾ッ!」
光る拳を繰り出した。
だが、直後に響いたのは盾から生じた金属音。
「っ!」
そして左拳から生じた痛みに、シャロンは思わず息を漏らした。
それがヒビが入ったことによるものだと認識するのに、時間は必要無かった。
この一撃、それは「素手」で金属板を殴った行為に等しかった。
何が起きたのか、そも、なぜ光魔法を手に纏って平気なのか。
疑問に思った方は多いだろう。なぜ、リック達が靴を壊さずに光魔法による加速を行えるのか。
それを説明するために、まず光弾の仕組みについて話そう。
光弾の構造、それはまさしくシャボン玉である。自由な光粒子が膜で包まれているのだ。
その膜は言うまでも無く、ディーノの身を包んでいるものと同じものである。
この膜はいわゆる絶縁体である。光粒子だけでなく、電子に対しての抵抗値が高い。熱伝導率も低く、炎にも強い。
しかし強度はそれほど高くなく、衝撃で簡単に破れる。しかしこの性質が飛び道具として上手く噛み合っている。着弾と同時に破れることで、中に入っている粒子が敵に流れ込む仕組みになっているのだ、
そしてディーノの思考を読めないことから分かるように、様々な波を吸収、分散、減衰する構造になっている。
しかしこの構造には個人差がある。
盾の一族の光弾が飛ばないのはこの差によるものだ。彼らの膜は綿のようだったり、凹凸だったりで、空気と触れる面積が多い形状になってしまっている。すなわち空気抵抗が高くなってしまっているのだ。
実は和の国の者達も多くが同じ問題を抱えている。ゆえに彼らは三日月という飛び道具を安定して放つために刀を生み出した。優秀な機械弓を有しているのも同じ理由である。
では、魔法使い達はどのようにしてその光弾を生み出しているのか。
実はこの説明もシャボン玉の例えで出来てしまうのだ。
膜は液体と似たような性質を持っており、微弱な粘り気を有している。石鹸水に近い。
光弾を発射する直前、魔法使いの手はこの膜に覆われる。
そして手の平から放出された光魔法が内側から膜を押し広げ、膨らまし、球体となる。水の中で生じた気泡が水面で泡となるように。
この際、手が傷つかない理由は単純。この時放射される光魔法は自由粒子では無いからだ。核に捕らわれた状態で放射される。
また、この時放射されるものは光魔法だけでは無い。酸素と、炎魔法も同時に放射される。
そして炎魔法は球体の中で酸素と結合し、熱を発生させる。この熱エネルギーによって光粒子は核の束縛から離れ、自由化するのだ。これは電子にも似たような現象が存在し、我々の世界では熱電子放出と呼ばれている。少し踏み込んだ話をすれば、光魔法の結合規則は我々の世界で言うところの金属結合と同じなのである。
カルロはかつてアランに混ぜ物が間違いであるかのように述べた。しかし実はそれこそが間違いなのだ。混ぜ物でなくてはならないのだ。重要なのは配分である。
そしてここまでの説明で気付いた方は多いだろう。この世界の人間は「全員が」光魔法、電撃魔法、炎魔法、冷却魔法の素質を有している。これに関してはただ一人の例外も無い。人類の基本機能として共通化されている。
かつて、リックとクラウスは魔法使いと無能力者の違いを、エネルギーを外部に放出できるかどうかと考えたが、これは表現が少し間違っている。ほぼ正解であるが。
正しくは、発達している機能が違うだけである。ラルフなどは光魔法、カルロなどは炎魔法の放出に長け、そしてディーノなどの無能力者達は膜の扱いに長けている、ただそれだけなのだ。
ゆえに無能力者達は魔法使いよりも魔法に対しての抵抗力が高い。死亡率が高いのは単純に最前に立たされるからだ。ディーノのように分厚い膜を全身に纏える人間が希有であるというのも理由の一つだが。
そして「魔法を放出できる無能力者」も存在する。おかしな表現になってしまっているが、要はラルフとディーノを足したような存在だ。進化の果てに到達したかのような、そんな出鱈目な人間がこの世界には存在するのだ。
以上を踏まえて、今のシャロンとディーノの戦いはどういうものであると言えるか。
その答えをシャロンは理解しつつあったが、
「!」
それが言葉になるよりも早く、ディーノの反撃がシャロンを襲った。
紙一重で命を拾い続けながら、シャロンはディーノを調べていた。
そして気付いたことが二つあった。
まず一つは、ディーノの虫達が顔の付近を重点的に守っていること。
それが意味するところ、その疑問は、闇の中に「時々」浮かび上がるディーノの白い両目と繋がった。
もう一つ気付いたことがその目に関すること。ディーノの両目は時々消えることがある。闇と同化するように。
最初はまばたきかと思った。
しかし違った。長すぎる時がある。明らかに影に覆われているときがある。
これらの事実から、導き出される答えは一つしか無かった。
目の部分だけは影が薄い、または覆われていない時間が存在するのだ。
なぜそうなっているのか、それを推察することは容易い。
この男は目から波を受け取っているのだ。言い換えれば、感知機能が目にしか存在しないということだ。
そして完全な闇に覆われる事があるということは、その感知は常時機能しているわけでは無いということ。
その点については虫を使っているのである程度補われているだろうが、あの虫達も主人に情報を渡す際は皮膚に貼り付くか、目が白い時間を利用するしか無いはずだ。
そしてこれらの予想が正解であるならば、
(懐にもぐりこめば――)
もしかしたら、至近距離であれば相手の考えを読むことが可能な時間を得ることが出来るのではないか、という考えにシャロンは至った。
これら一連のシャロンの推察、それは正解であった。
ディーノの感知は全方位では無い。思考の波を減衰させる膜で体を覆っているのだから当然であるが。ディーノは目を指向性のあるアンテナとして使っている。先にルイスがシャロンを見つけ出した時のように、範囲を狭めて強度を上げているのだ。
しかしこのアンテナはその割に精度は低い。両目が白く浮かんでいる間でも、薄い膜に覆われているからだ。
そしてシャロンは覚悟を決めた。
シャロンは虎穴に入らずんば、などという戦法が好きな人格では無い。しかし、
(やるしかっ!)
他に手は無かった。
予想が正解であるか否か、そのどちらにしろ、現実として光弾は通じないのだ。ならば接近戦しか無い。
そして仕掛けるのであれば当然、相手の感知が機能しなくなる時、すなわち、
(今!)
両目が闇に覆われたその瞬間、シャロンはディーノに向かって踏み込んだ。
迎撃の銀閃が地に水平に奔る。
しかし既にシャロンは地に伏せるように姿勢を低くしている。
ディーノの刃がシャロンの髪を撫でながら頭上を通り抜けていく。
瞬間、
(やはり!)
こちらの回避行動を読んだ迎撃では無い、やはり感知が機能していない、シャロンはそう確信した。
潜り込むシャロンの眼前に、白いディーノの両目が浮かび上がる。
シャロンはそれと目を合わせながら、立ち上がり、
「疾ッ!」
光る拳を繰り出した。
だが、直後に響いたのは盾から生じた金属音。
「っ!」
そして左拳から生じた痛みに、シャロンは思わず息を漏らした。
それがヒビが入ったことによるものだと認識するのに、時間は必要無かった。
この一撃、それは「素手」で金属板を殴った行為に等しかった。
何が起きたのか、そも、なぜ光魔法を手に纏って平気なのか。
疑問に思った方は多いだろう。なぜ、リック達が靴を壊さずに光魔法による加速を行えるのか。
それを説明するために、まず光弾の仕組みについて話そう。
光弾の構造、それはまさしくシャボン玉である。自由な光粒子が膜で包まれているのだ。
その膜は言うまでも無く、ディーノの身を包んでいるものと同じものである。
この膜はいわゆる絶縁体である。光粒子だけでなく、電子に対しての抵抗値が高い。熱伝導率も低く、炎にも強い。
しかし強度はそれほど高くなく、衝撃で簡単に破れる。しかしこの性質が飛び道具として上手く噛み合っている。着弾と同時に破れることで、中に入っている粒子が敵に流れ込む仕組みになっているのだ、
そしてディーノの思考を読めないことから分かるように、様々な波を吸収、分散、減衰する構造になっている。
しかしこの構造には個人差がある。
盾の一族の光弾が飛ばないのはこの差によるものだ。彼らの膜は綿のようだったり、凹凸だったりで、空気と触れる面積が多い形状になってしまっている。すなわち空気抵抗が高くなってしまっているのだ。
実は和の国の者達も多くが同じ問題を抱えている。ゆえに彼らは三日月という飛び道具を安定して放つために刀を生み出した。優秀な機械弓を有しているのも同じ理由である。
では、魔法使い達はどのようにしてその光弾を生み出しているのか。
実はこの説明もシャボン玉の例えで出来てしまうのだ。
膜は液体と似たような性質を持っており、微弱な粘り気を有している。石鹸水に近い。
光弾を発射する直前、魔法使いの手はこの膜に覆われる。
そして手の平から放出された光魔法が内側から膜を押し広げ、膨らまし、球体となる。水の中で生じた気泡が水面で泡となるように。
この際、手が傷つかない理由は単純。この時放射される光魔法は自由粒子では無いからだ。核に捕らわれた状態で放射される。
また、この時放射されるものは光魔法だけでは無い。酸素と、炎魔法も同時に放射される。
そして炎魔法は球体の中で酸素と結合し、熱を発生させる。この熱エネルギーによって光粒子は核の束縛から離れ、自由化するのだ。これは電子にも似たような現象が存在し、我々の世界では熱電子放出と呼ばれている。少し踏み込んだ話をすれば、光魔法の結合規則は我々の世界で言うところの金属結合と同じなのである。
カルロはかつてアランに混ぜ物が間違いであるかのように述べた。しかし実はそれこそが間違いなのだ。混ぜ物でなくてはならないのだ。重要なのは配分である。
そしてここまでの説明で気付いた方は多いだろう。この世界の人間は「全員が」光魔法、電撃魔法、炎魔法、冷却魔法の素質を有している。これに関してはただ一人の例外も無い。人類の基本機能として共通化されている。
かつて、リックとクラウスは魔法使いと無能力者の違いを、エネルギーを外部に放出できるかどうかと考えたが、これは表現が少し間違っている。ほぼ正解であるが。
正しくは、発達している機能が違うだけである。ラルフなどは光魔法、カルロなどは炎魔法の放出に長け、そしてディーノなどの無能力者達は膜の扱いに長けている、ただそれだけなのだ。
ゆえに無能力者達は魔法使いよりも魔法に対しての抵抗力が高い。死亡率が高いのは単純に最前に立たされるからだ。ディーノのように分厚い膜を全身に纏える人間が希有であるというのも理由の一つだが。
そして「魔法を放出できる無能力者」も存在する。おかしな表現になってしまっているが、要はラルフとディーノを足したような存在だ。進化の果てに到達したかのような、そんな出鱈目な人間がこの世界には存在するのだ。
以上を踏まえて、今のシャロンとディーノの戦いはどういうものであると言えるか。
その答えをシャロンは理解しつつあったが、
「!」
それが言葉になるよりも早く、ディーノの反撃がシャロンを襲った。
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