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第六章 アランの力は遂に一つの頂点に

第四十六話 暴風が如く(16)

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「!」

 その心の声に目を見開いたのはルイス。
 そしてルイスは叫んだ。

「避けろ、リック!」

 それは受けてはならないと。
 だが、出来ないことはルイス自身分かっていた。
 偉大なる者はリックの着地の隙を狙っているからだ。
 それでもルイスはその警告と共に、リックの頭に情報を送り込んだ。
 そして直後、偉大なる者はその情報通りのことを始めた。
 偉大なる者の全身から力が抜ける。
 まるでリックの「夢想の境地」のように。
 だが、明らかに違うところがあった。
 体の中の魔力の流れが止まったのだ。
 そして次の瞬間、リックの心に偉大なる者の声が響いた。

“神技――”

「武神流」とは、リック達の祖先に当たる武の民が、崇める神から授かった智慧、という意味を込めて生み出した名称である。
 すなわち所詮、「流れ」の技、人間が神の智慧を借りて編み出した「流派」に過ぎないのだ。
 だが、一部の技はそうでは無い。
 神をその身に宿したかのような、爆発的な力を発揮する技、そのようなものは「武神流」では無く、敬意を込めて「神技」と呼ばれていた。現代で最終奥義と呼ばれているものもこれに当たる。

 そして今、偉大なる者は現代では失われたその神技の一つを、

“――臥竜明星!”

 リックに向かって放った。
 瞬間、リックは感じ取った。
 偉大なる者の魔力を生み出す臓器が、一際眩しく輝いたのを。
 そして生み出された力が足に、腕に、全身を駆け巡ったのを。
 自分の足はまだ地に着いていない。回避不能。
 ならば受け流すしか無い。
 しかしこの圧倒的な一撃をどうやって?

「!」

 瞬間、武の神はリックに光明を注いだ。
 リックの脳裏にある形が、構えが浮かび上がる。
 それは、受け流しに適した強度と弾力を備えた形であった。
 リックは自然とそれと同じ構えを取った。
 片羽の構えのように片足を折り曲げ、足裏を相手に向ける。
 そしてその足のすねを守るように、輝く両手を配置。
 体は出来るだけ小さく、そして丸く。
 相手の狙いを一つに、前にかざした両手の平に絞らせるために。
 もう片方の足は下に。
 地面に降りた時にふんばるために、軸足として使うためだ。
 この時、リックは迷った。
 この片足も防御に使うべきではないか、と。
 されど、その迷いを払う時間は無かった。

「っ!」

 足裏から展開した防御魔法が破られた音と共に、前にかざした両手に衝撃が走る。
 三枚分の防御魔法を突破した衝撃がすねに、そして膝に伝わる。
 しかしその勢いは片膝のバネで殺せるものでは無かった。両足でも無理だったと、断言出来るものであった。
 そして直後、リックの体は、

「う、おおぉ?!」

 斜め後方に派手に吹き飛んだ。
 地面に激しく叩き付けられた後、二転、三転。

「リック!」

 ルイスが叫ぶ。

「……」

 が、返事は無かった。

 臥竜明星、それは二つの技を組み合わせたものであった。
 心臓部以外への魔力の供給を一時的に止める「臥竜」と、いわゆる最終奥義にあたる「明星」である。
 つまり、力を溜めて爆発させる、という技である。
 その出力は正に神技と呼ぶにふさわしいものだが、当然内臓にかかる負担が大きい上に、発動前にほぼ無防備になる時間が存在するという使いにくい技である。
 さらにこの技は必中の機にしか使えない。なぜなら、同じ相手に二度通用する代物では無いからだ。
 一度見て知ってしまえばこの技の対策は簡単だ。発動前の無防備な時間に光弾を撃ち込むだけでいい。大きく距離を取って溜めた力の多くを移動に使わせる、でもいい。

 だから偉大なる者はリックの着地が大きく遅れるこの機を狙った。
 そしてそれは成功し、戦いの勝敗は決まった。

   ◆◆◆

「はあ、はあ」

 同時刻、カイルはまだ街に、戦場にいた。
 雲水とバージルの撤退と治療を援護するためだ。

「どうしたっ?! 来いっ!」

 前方にいる敵に向かって気勢を叩き付ける。
 普段静かなカイルにしては珍しい行為。

「……」

 が、相手の反応は薄い。
 挑発に乗る意味が無いからだ。
 彼らの目的が陽動だからだ。無理をする必要が、危険を冒す必要性が薄いからだ。
 対し、カイルはそんな相手の事情など知らない。
 それ以前に、カイルにはもう余裕がまったく無かった。
 少しでも強がらないと自分の中にある何かが切れてしまいそうになっていた。

「はあ、はあ」

 そしてカイルは肩で息をしながら、ある事を思い出していた。
 少し前に、この場を馬で駆け抜けていった男のことを。
 まるで嵐のような男だった。邪魔するものは全てなぎ払っていった。
 しかしそのおかげで敵の陣形に穴が空いた。今では押し返してる状況だ。
 あの男の名は聞いたことがある。確か――

「!」

 直後、カイルの思考はそこで切れた。
 前方にいる影達が再び動き始めたからだ。
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