404 / 586
第六章 アランの力は遂に一つの頂点に
第四十六話 暴風が如く(16)
しおりを挟む「!」
その心の声に目を見開いたのはルイス。
そしてルイスは叫んだ。
「避けろ、リック!」
それは受けてはならないと。
だが、出来ないことはルイス自身分かっていた。
偉大なる者はリックの着地の隙を狙っているからだ。
それでもルイスはその警告と共に、リックの頭に情報を送り込んだ。
そして直後、偉大なる者はその情報通りのことを始めた。
偉大なる者の全身から力が抜ける。
まるでリックの「夢想の境地」のように。
だが、明らかに違うところがあった。
体の中の魔力の流れが止まったのだ。
そして次の瞬間、リックの心に偉大なる者の声が響いた。
“神技――”
「武神流」とは、リック達の祖先に当たる武の民が、崇める神から授かった智慧、という意味を込めて生み出した名称である。
すなわち所詮、「流れ」の技、人間が神の智慧を借りて編み出した「流派」に過ぎないのだ。
だが、一部の技はそうでは無い。
神をその身に宿したかのような、爆発的な力を発揮する技、そのようなものは「武神流」では無く、敬意を込めて「神技」と呼ばれていた。現代で最終奥義と呼ばれているものもこれに当たる。
そして今、偉大なる者は現代では失われたその神技の一つを、
“――臥竜明星!”
リックに向かって放った。
瞬間、リックは感じ取った。
偉大なる者の魔力を生み出す臓器が、一際眩しく輝いたのを。
そして生み出された力が足に、腕に、全身を駆け巡ったのを。
自分の足はまだ地に着いていない。回避不能。
ならば受け流すしか無い。
しかしこの圧倒的な一撃をどうやって?
「!」
瞬間、武の神はリックに光明を注いだ。
リックの脳裏にある形が、構えが浮かび上がる。
それは、受け流しに適した強度と弾力を備えた形であった。
リックは自然とそれと同じ構えを取った。
片羽の構えのように片足を折り曲げ、足裏を相手に向ける。
そしてその足のすねを守るように、輝く両手を配置。
体は出来るだけ小さく、そして丸く。
相手の狙いを一つに、前にかざした両手の平に絞らせるために。
もう片方の足は下に。
地面に降りた時にふんばるために、軸足として使うためだ。
この時、リックは迷った。
この片足も防御に使うべきではないか、と。
されど、その迷いを払う時間は無かった。
「っ!」
足裏から展開した防御魔法が破られた音と共に、前にかざした両手に衝撃が走る。
三枚分の防御魔法を突破した衝撃がすねに、そして膝に伝わる。
しかしその勢いは片膝のバネで殺せるものでは無かった。両足でも無理だったと、断言出来るものであった。
そして直後、リックの体は、
「う、おおぉ?!」
斜め後方に派手に吹き飛んだ。
地面に激しく叩き付けられた後、二転、三転。
「リック!」
ルイスが叫ぶ。
「……」
が、返事は無かった。
臥竜明星、それは二つの技を組み合わせたものであった。
心臓部以外への魔力の供給を一時的に止める「臥竜」と、いわゆる最終奥義にあたる「明星」である。
つまり、力を溜めて爆発させる、という技である。
その出力は正に神技と呼ぶにふさわしいものだが、当然内臓にかかる負担が大きい上に、発動前にほぼ無防備になる時間が存在するという使いにくい技である。
さらにこの技は必中の機にしか使えない。なぜなら、同じ相手に二度通用する代物では無いからだ。
一度見て知ってしまえばこの技の対策は簡単だ。発動前の無防備な時間に光弾を撃ち込むだけでいい。大きく距離を取って溜めた力の多くを移動に使わせる、でもいい。
だから偉大なる者はリックの着地が大きく遅れるこの機を狙った。
そしてそれは成功し、戦いの勝敗は決まった。
◆◆◆
「はあ、はあ」
同時刻、カイルはまだ街に、戦場にいた。
雲水とバージルの撤退と治療を援護するためだ。
「どうしたっ?! 来いっ!」
前方にいる敵に向かって気勢を叩き付ける。
普段静かなカイルにしては珍しい行為。
「……」
が、相手の反応は薄い。
挑発に乗る意味が無いからだ。
彼らの目的が陽動だからだ。無理をする必要が、危険を冒す必要性が薄いからだ。
対し、カイルはそんな相手の事情など知らない。
それ以前に、カイルにはもう余裕がまったく無かった。
少しでも強がらないと自分の中にある何かが切れてしまいそうになっていた。
「はあ、はあ」
そしてカイルは肩で息をしながら、ある事を思い出していた。
少し前に、この場を馬で駆け抜けていった男のことを。
まるで嵐のような男だった。邪魔するものは全てなぎ払っていった。
しかしそのおかげで敵の陣形に穴が空いた。今では押し返してる状況だ。
あの男の名は聞いたことがある。確か――
「!」
直後、カイルの思考はそこで切れた。
前方にいる影達が再び動き始めたからだ。
0
お気に入りに追加
88
あなたにおすすめの小説
夫を愛することはやめました。
杉本凪咲
恋愛
私はただ夫に好かれたかった。毎日多くの時間をかけて丹念に化粧を施し、豊富な教養も身につけた。しかし夫は私を愛することはなく、別の女性へと愛を向けた。夫と彼女の不倫現場を目撃した時、私は強いショックを受けて、自分が隣国の王女であった時の記憶が蘇る。それを知った夫は手のひらを返したように愛を囁くが、もう既に彼への愛は尽きていた。
【完結】王子は聖女と結婚するらしい。私が聖女であることは一生知らないままで
雪野原よる
恋愛
「聖女と結婚するんだ」──私の婚約者だった王子は、そう言って私を追い払った。でも、その「聖女」、私のことなのだけど。
※王国は滅びます。
別に構いませんよ、離縁するので。
杉本凪咲
恋愛
父親から告げられたのは「出ていけ」という冷たい言葉。
他の家族もそれに賛同しているようで、どうやら私は捨てられてしまうらしい。
まあいいですけどね。私はこっそりと笑顔を浮かべた。
何を間違った?【完結済】
maruko
恋愛
私は長年の婚約者に婚約破棄を言い渡す。
彼女とは1年前から連絡が途絶えてしまっていた。
今真実を聞いて⋯⋯。
愚かな私の後悔の話
※作者の妄想の産物です
他サイトでも投稿しております
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる