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第六章 アランの力は遂に一つの頂点に
第四十六話 暴風が如く(6)
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ルイスが迎撃の矢を放つ。
シャロンはそれを速度を落とさずに叩き払った。
が、直後、
「!?」
シャロンの足がぴたりと止まり、
「うぅっ?!」
嗚咽と共にその場に膝を着いた。
凄まじい頭痛と吐き気。
その原因は精神攻撃。
平衡感覚を完全に破壊された。
それだけでは無い。自分の頭の中で何かが暴れまわっている。
これは――
(混、沌?)
直後、「そうだ」というルイスの声が響いたような気がした。
シャロンはその幻聴のような声に、尋ねた。
(な、ぜ? どうや、って?)
間違い無く今の矢によるものだろうが、混沌の気配は、精神攻撃の気配は感じられなかった。
これに再び幻聴のような音が響いた。
「単純だ。ナチャに教えてもらっただけだ」と。
何を、と聞き返すまでも無かった。
擬態だ。
ルイスは魂を擬態させ、矢の中に仕込んだのだ。
そして女の頭の中に入った後は簡単だった。
シャロンに技術を教えたのはルイス。当然ルイスも混沌そのものを使った精神攻撃が出来る。
それでも、ただの混沌であれば、使い手であるシャロンはある程度自衛出来た。
ゆえにルイスは一工夫加えた。
ルイスが放った精神攻撃、混沌はただ暴れまわるだけの代物では無かった。
ルイスはシャロンの頭の中がどうなっているのかを知っている。設計図を持っている。
だからルイスは重要な箇所を、急所を最初に攻めさせた。
最初に攻めさせたのは食堂。補給線を真っ先に断つ。
次に制御系。体の制御を司る器官。その重要な経路を切る。これで動きが止まる。
最後の目標が影の司令塔である混沌そのものだ。
設計図を持っているからそんな攻撃が出来た。対シャロン用の専用兵器を作ることが出来たのだ。
そして結果どうなったか。
「……っ!」
抗えども、身動きは取れない。制御系は支配されている。
完全制圧にはなっていない。シャロンの混沌の抵抗は弱弱しいが、『シャロンの人格が壊滅しないように』調整されている。
矢の中に含まれていた魂の量は多く無い。シャロンの混沌であれば押し返すことが出来るだろう。
だがそれは時間がかかる。
それが分かっているゆえに、ルイスは膝を着いたままのシャロンに悠然と歩み寄り、
「『ひとまずは』終わりだ、シャロン」
肉の身にしか出来ない、最後の仕事にかかった。
「ふっ!」
気勢と共に放たれたルイスの右拳が顎を跳ね上げる。
大きくのけ反るシャロンの上半身。
痛々しいほどに背骨が後ろに曲がり、胸の双丘が天井に向かって突き出される。
そしてルイスは眼下にあらわになったその女性の象徴の谷間に狙いを絞り、
「破ッ!」
左拳を打ち込んだ。
拳骨が深くめりこみ、骨を砕いた感触が伝わる。
「……」
そしてルイスは左拳をシャロンの胸に埋め込んだ姿勢のまま、暫し硬直した。
左拳に規則正しい鼓動を感じるからだ。
その鼓動は徐々に弱くなっていった。
そして、
「……よし」
完全に止まったのを確認したルイスは拳を骨で傷つけないように、ゆっくりと引き抜いた。
シャロンはそれを速度を落とさずに叩き払った。
が、直後、
「!?」
シャロンの足がぴたりと止まり、
「うぅっ?!」
嗚咽と共にその場に膝を着いた。
凄まじい頭痛と吐き気。
その原因は精神攻撃。
平衡感覚を完全に破壊された。
それだけでは無い。自分の頭の中で何かが暴れまわっている。
これは――
(混、沌?)
直後、「そうだ」というルイスの声が響いたような気がした。
シャロンはその幻聴のような声に、尋ねた。
(な、ぜ? どうや、って?)
間違い無く今の矢によるものだろうが、混沌の気配は、精神攻撃の気配は感じられなかった。
これに再び幻聴のような音が響いた。
「単純だ。ナチャに教えてもらっただけだ」と。
何を、と聞き返すまでも無かった。
擬態だ。
ルイスは魂を擬態させ、矢の中に仕込んだのだ。
そして女の頭の中に入った後は簡単だった。
シャロンに技術を教えたのはルイス。当然ルイスも混沌そのものを使った精神攻撃が出来る。
それでも、ただの混沌であれば、使い手であるシャロンはある程度自衛出来た。
ゆえにルイスは一工夫加えた。
ルイスが放った精神攻撃、混沌はただ暴れまわるだけの代物では無かった。
ルイスはシャロンの頭の中がどうなっているのかを知っている。設計図を持っている。
だからルイスは重要な箇所を、急所を最初に攻めさせた。
最初に攻めさせたのは食堂。補給線を真っ先に断つ。
次に制御系。体の制御を司る器官。その重要な経路を切る。これで動きが止まる。
最後の目標が影の司令塔である混沌そのものだ。
設計図を持っているからそんな攻撃が出来た。対シャロン用の専用兵器を作ることが出来たのだ。
そして結果どうなったか。
「……っ!」
抗えども、身動きは取れない。制御系は支配されている。
完全制圧にはなっていない。シャロンの混沌の抵抗は弱弱しいが、『シャロンの人格が壊滅しないように』調整されている。
矢の中に含まれていた魂の量は多く無い。シャロンの混沌であれば押し返すことが出来るだろう。
だがそれは時間がかかる。
それが分かっているゆえに、ルイスは膝を着いたままのシャロンに悠然と歩み寄り、
「『ひとまずは』終わりだ、シャロン」
肉の身にしか出来ない、最後の仕事にかかった。
「ふっ!」
気勢と共に放たれたルイスの右拳が顎を跳ね上げる。
大きくのけ反るシャロンの上半身。
痛々しいほどに背骨が後ろに曲がり、胸の双丘が天井に向かって突き出される。
そしてルイスは眼下にあらわになったその女性の象徴の谷間に狙いを絞り、
「破ッ!」
左拳を打ち込んだ。
拳骨が深くめりこみ、骨を砕いた感触が伝わる。
「……」
そしてルイスは左拳をシャロンの胸に埋め込んだ姿勢のまま、暫し硬直した。
左拳に規則正しい鼓動を感じるからだ。
その鼓動は徐々に弱くなっていった。
そして、
「……よし」
完全に止まったのを確認したルイスは拳を骨で傷つけないように、ゆっくりと引き抜いた。
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