388 / 586
第六章 アランの力は遂に一つの頂点に
第四十五話 伝説との邂逅(28)
しおりを挟む◆◆◆
その叫びが響いたのと同時に、アランの魂は再び目覚めた。
そして目覚めた場所は先のような白い空間では無く、よく知っている部屋だった。
そこはカルロの私室だった。
部屋の主は窓のそばに立ち、外を見つめていた。
片足が失われていない、力強かったあの頃の立ち姿で。
窓から覗く光景はあの白い空間のようであり、ただ眩しかった。
そしてアランはその背中に声をかけた。
「父上」
返事はすぐには返ってこなかった。
何を第一に言うべきか悩んでいる、それが共感して伝わってきた。
しばらくして、カルロは背を向けたまま口を開いた。
「こうなってから、ようやく理解出来ることもあるのだな」
何について、何を指してそう言っているのか、聞かずとも理解出来た。瞬時に共有された。
アランの炎が弱かったのは、制御が弱かったのはなぜか。
神経網に欠陥があったからだ。
訓練によって新たな神経が張り巡らされることはある。しかしアランのそれはあまりに未熟すぎた。通常の手段では一生かけても難しい、それほどまでに。
だからカルロは述べた。
「そうとは知らず、お前にはつらく当たってしまったな。すまなかった」
謝罪の言葉を。
そしてアランはこれに応えた。
「いえ……」
もう気にしていないと。
「「……」」
二人の意識が交錯し、沈黙に変わる。
アランは感じ取っていた。理解していた。
この父は生前の父とは少し違うことを。自分に都合の良いように、『調整』されていることを。
そしてそれはカルロ自身も分かっていた。
ゆえの沈黙。
思いは交錯すれども、声には出来ない。
しかしその沈黙は長くは続かなかった。
カルロがアランの方に向き直る。
そしてカルロは心地良い衣擦れの音と共に口を開いた。
「だが、これでもう、『問題は無くなった』な」
その言葉の意味をアランは理解していた。
だからアランは、頷きと共に「はい」という力強い声を返した。
すると直後、部屋のドアが開くと同時に、新たな声が響いた。
「失礼します」
入室者はフリッツ。
もう作り直されたのか、アランはそう思ったが声には出さなかった。
そしてその『新品』のフリッツは二人に向かって言葉を続けた。
「『全員の準備』が整いました」
アランは分かっていた。
この『全員』のうちの一人に自分が含まれていることを。
自分も『調整』されたことを。
混沌の一員として問題無く活動出来るように、そのための改造が加えられたことを。
今の自分が何をすべきなのかを、アランは分かっていた。
そしてそんなアランに向かって、フリッツは口を開いた。
「ご指示を」
これに、アランは父の方へ顔を向けながら答えた。
「行きましょう」
しかし、カルロは首を振りながら口を開いた。
「それでは駄目だアラン」
何が駄目なのか、それをフリッツが答えた。
「『我々』は『カルロの息子』としての言葉では無く、『将』としての『命令』を待っているのです」
その言葉に、アランの思考は止まった。
しかしその時間は一瞬。
すぐに、「ああ、そうか」と納得出来た。
この者達は『そのために作り直された』のだから。
この窮地を覆すために。
あの女に勝つために。
ならば使おう。
自分の武器として。兵士として。戦友として。
アランのその思いを全て込めて口を開き、
「では――」
叫んだ。
「出陣するぞ!」
その声が響いた瞬間、『城門』が勢い良く開いた。
いつの間にか、舞台はカルロの私室から城の入り口へと移っていた。
城壁に続く道に沿って、兵士達が並んでいる。
誰も彼も、かつてどこかで共に戦い、そして散っていった戦友達だ。
そしてフリッツはその者達全員の耳に入るように声を上げた。
「アラン将軍の御出陣、御出陣!」
その声に押されるように、アランは歩き始めた。
場に軍靴の音が規則正しく鳴り響き始める。
が、その音は突然止まった。
アランの前方にある男が立ち塞がるように姿を現したからだ。
それはナチャであった。
そしてナチャはアランのそばに歩み寄りながら、口を開いた。
「やあ」
軽く、そして敵意の無い挨拶であったが、
「……」
アランの返事は沈黙と警戒。
ナチャはアランの食堂に心から受け入れられたわけでは無い。ナチャはアランの中に勝手に入っている。
そんなことが出来る理由は、単純に強いからだ。
そしてナチャはアランの警戒心を気にせず、再び口を開いた。
「君に紹介したい人がいるんだ」
そう言って、ナチャは後ろに、アラン達が進もうとしていた白い空間の方に振り向いた。
そしてナチャは背を向けたまま言葉を続けた。
「どうしても君に会わせろって五月蝿くてね」
ナチャがそう言い終えると、まるで濃い霧の中から姿を現すかのように、白い空間の中から一人の屈強な男がアランの前に歩み出た。
「!」
瞬間、アランは感じ取った。
その男が何者なのか、を。
それはある記憶と瞬時に結び付いた。
昔、ルイスから借りた本に描かれていた、「偉大なる大魔道士」の挿絵と。
だからアランは驚いた。
(あの挿絵とはまったく違うじゃないか)、と。
それもそのはず。あれは現代の貴族、強い魔法使いのイメージに合わせて勝手に変更されたものなのだ。当時とは服装、髪型などの文化がまったく異なる。
男はアランのその感想に対し、薄い笑みを浮かべた後、口を開いた。
「俺のことを知っているのか。なら話は早い」
男は自身の力を、技を誇示するかのように右拳をアランの胸元に向かって突き出しながら口を開いた。
そして放たれた言葉はアランの心を震わせ、誰の叫びよりも響き渡った。
「力を貸そう」、と。
第四十六話 暴風が如く に続く
0
お気に入りに追加
88
あなたにおすすめの小説
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
【完結】側妃は愛されるのをやめました
なか
恋愛
「君ではなく、彼女を正妃とする」
私は、貴方のためにこの国へと貢献してきた自負がある。
なのに……彼は。
「だが僕は、ラテシアを見捨てはしない。これから君には側妃になってもらうよ」
私のため。
そんな建前で……側妃へと下げる宣言をするのだ。
このような侮辱、恥を受けてなお……正妃を求めて抗議するか?
否。
そのような恥を晒す気は無い。
「承知いたしました。セリム陛下……私は側妃を受け入れます」
側妃を受けいれた私は、呼吸を挟まずに言葉を続ける。
今しがた決めた、たった一つの決意を込めて。
「ですが陛下。私はもう貴方を支える気はありません」
これから私は、『捨てられた妃』という汚名でなく、彼を『捨てた妃』となるために。
華々しく、私の人生を謳歌しよう。
全ては、廃妃となるために。
◇◇◇
設定はゆるめです。
読んでくださると嬉しいです!
辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~
雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
他作品の詳細はこちら:
『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】
『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】
『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】
天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生
西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。
彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。
精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。
晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。
死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。
「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」
晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。
転生幼女は幸せを得る。
泡沫 ウィルベル
ファンタジー
私は死んだはずだった。だけど何故か赤ちゃんに!?
今度こそ、幸せになろうと誓ったはずなのに、求められてたのは魔法の素質がある跡取りの男の子だった。私は4歳で家を出され、森に捨てられた!?幸せなんてきっと無いんだ。そんな私に幸せをくれたのは王太子だった−−
5歳で前世の記憶が混入してきた --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--
ばふぉりん
ファンタジー
「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は
「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」
この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。
剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。
そんな中、この五歳児が得たスキルは
□□□□
もはや文字ですら無かった
~~~~~~~~~~~~~~~~~
本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。
本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。
チート転生~チートって本当にあるものですね~
水魔沙希
ファンタジー
死んでしまった片瀬彼方は、突然異世界に転生してしまう。しかも、赤ちゃん時代からやり直せと!?何げにステータスを見ていたら、何やら面白そうなユニークスキルがあった!!
そのスキルが、随分チートな事に気付くのは神の加護を得てからだった。
亀更新で気が向いたら、随時更新しようと思います。ご了承お願いいたします。
【完結】聖獣もふもふ建国記 ~国外追放されましたが、我が領地は国を興して繁栄しておりますので御礼申し上げますね~
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
婚約破棄、爵位剥奪、国外追放? 最高の褒美ですね。幸せになります!
――いま、何ておっしゃったの? よく聞こえませんでしたわ。
「ずいぶんと巫山戯たお言葉ですこと! ご自分の立場を弁えて発言なさった方がよろしくてよ」
すみません、本音と建て前を間違えましたわ。国王夫妻と我が家族が不在の夜会で、婚約者の第一王子は高らかに私を糾弾しました。両手に花ならぬ虫を這わせてご機嫌のようですが、下の緩い殿方は嫌われますわよ。
婚約破棄、爵位剥奪、国外追放。すべて揃いました。実家の公爵家の領地に戻った私を出迎えたのは、溺愛する家族が興す新しい国でした。領地改め国土を繁栄させながら、スローライフを楽しみますね。
最高のご褒美でしたわ、ありがとうございます。私、もふもふした聖獣達と幸せになります! ……余計な心配ですけれど、そちらの国は傾いていますね。しっかりなさいませ。
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
※2022/05/10 「HJ小説大賞2021後期『ノベルアップ+部門』」一次選考通過
※2022/02/14 エブリスタ、ファンタジー 1位
※2022/02/13 小説家になろう ハイファンタジー日間59位
※2022/02/12 完結
※2021/10/18 エブリスタ、ファンタジー 1位
※2021/10/19 アルファポリス、HOT 4位
※2021/10/21 小説家になろう ハイファンタジー日間 17位
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる