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第六章 アランの力は遂に一つの頂点に
第四十五話 伝説との邂逅(26)
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「!」
そしてそれを感じ取った女は目を見開た。
アランは理性と本能との接続を、神経網から完全に断ったのだ。
そしてそれだけでは無い。
本人の魂すら活動を止めたのだ。まるで剣の中で眠るように。
これに対し、女は、
(どうやって!?)
当然のように叫んだ。
どうやってそれで動く?! 当然の疑問を女はアランの心に叩き付けた。
だが、その問いはアランの水面に小さな波紋を描いただけに終わった。
そして直後、女が予想出来る通りの事が起きた。
アランの体から力が抜け、両腕がだらりと垂れ下がる。
刀はかろうじて握ったままだが、完全な無防備。立っているだけの人形だ。
「な……!?」
その様子に、思わず動揺する女。
分からないからだ。
なぜ、この状況でそんな事をするのか。
あきらめる人間だとは思えない。無策に走る馬鹿にも思えない。
その矛盾が、理解不能な部分が女をイラつかせた。
馬鹿にされているような感覚。
だから女は、
「ふざけるな!」
と、叫びながら地を蹴った。
踏み込みの勢いを乗せた袈裟斬りを放つ。
その光る刃はアランの体に易々と食い込むかのように思えた。そうとしか予測出来なかった。
が、
「!?」
返ってきたのは硬い手ごたえ。耳に届いたのは金属音。
そしてもう一つ。
(何ぃっ?!)
一筋の閃光。
身をそらした女の肌に赤い線が描かれる。
もしもの時のために、切り替え用の思考を回避に偏らせていたおかげで避けることが出来た。
閃光の正体は刀による突き。
そしてそれを放ったアランの型は、
(水鏡流……ッ!)
であるが、少し違う。
右腕は使われていない。だらんと垂れ下がっている。
それもそのはず。
いま、アランを動かしている者は、生前は隻腕だったからだ。
しかし、シャロンは知らない。何が起きているのかも理解出来ていない。
だから再び叫んだ。
(今、アランに水鏡流の構えを取らせているのは、誰だ?!)
この場にいる誰のものとも一致しない。
なんと、クラウスとも違う。
クラウスと相性が良く、改造を免れたわけでは無い。
この隻腕の者が戦いやすいように、アランの体を動かしやすいように、『再調整』されたからだ。
そして、その調整は今も続いている。
だから、
「?!」
女はさらに驚かされる。
突然、アランが刀を両手持ちに切り替えたからだ。
アランは隻腕では無い。両手を使うほうが有利だからだ。
そして当然、折れた右足を軸足として使い続けることも理に適っていない。
だからアランの中にいる何者かは、姿勢を変えた。
胴体を右に向けた半身の構えを左向きにする。
体重をかける足を、後ろに置く足を右足から左足に、鍔寄りの握り手を左手から右手に。
それらの動作の際、女は感じ取った。
水鏡流の構えを取っている「誰か」の気配が、波が変わったのを。
さらに、両手に一つずつ、大きな虫が取り付いた。
この三つは連絡を取り合っている。
しかも、それぞれ別人だ。
そして、この三人は間違いなくアランの中から出てきた。
だから女は戸惑う。
(なんだ、これは!)
と。
しかし答えは当然返って来ない。
それでも、女は言葉を続けた。
(私は一体誰と――いや、何と戦っている?!)、と。
そしてそれを感じ取った女は目を見開た。
アランは理性と本能との接続を、神経網から完全に断ったのだ。
そしてそれだけでは無い。
本人の魂すら活動を止めたのだ。まるで剣の中で眠るように。
これに対し、女は、
(どうやって!?)
当然のように叫んだ。
どうやってそれで動く?! 当然の疑問を女はアランの心に叩き付けた。
だが、その問いはアランの水面に小さな波紋を描いただけに終わった。
そして直後、女が予想出来る通りの事が起きた。
アランの体から力が抜け、両腕がだらりと垂れ下がる。
刀はかろうじて握ったままだが、完全な無防備。立っているだけの人形だ。
「な……!?」
その様子に、思わず動揺する女。
分からないからだ。
なぜ、この状況でそんな事をするのか。
あきらめる人間だとは思えない。無策に走る馬鹿にも思えない。
その矛盾が、理解不能な部分が女をイラつかせた。
馬鹿にされているような感覚。
だから女は、
「ふざけるな!」
と、叫びながら地を蹴った。
踏み込みの勢いを乗せた袈裟斬りを放つ。
その光る刃はアランの体に易々と食い込むかのように思えた。そうとしか予測出来なかった。
が、
「!?」
返ってきたのは硬い手ごたえ。耳に届いたのは金属音。
そしてもう一つ。
(何ぃっ?!)
一筋の閃光。
身をそらした女の肌に赤い線が描かれる。
もしもの時のために、切り替え用の思考を回避に偏らせていたおかげで避けることが出来た。
閃光の正体は刀による突き。
そしてそれを放ったアランの型は、
(水鏡流……ッ!)
であるが、少し違う。
右腕は使われていない。だらんと垂れ下がっている。
それもそのはず。
いま、アランを動かしている者は、生前は隻腕だったからだ。
しかし、シャロンは知らない。何が起きているのかも理解出来ていない。
だから再び叫んだ。
(今、アランに水鏡流の構えを取らせているのは、誰だ?!)
この場にいる誰のものとも一致しない。
なんと、クラウスとも違う。
クラウスと相性が良く、改造を免れたわけでは無い。
この隻腕の者が戦いやすいように、アランの体を動かしやすいように、『再調整』されたからだ。
そして、その調整は今も続いている。
だから、
「?!」
女はさらに驚かされる。
突然、アランが刀を両手持ちに切り替えたからだ。
アランは隻腕では無い。両手を使うほうが有利だからだ。
そして当然、折れた右足を軸足として使い続けることも理に適っていない。
だからアランの中にいる何者かは、姿勢を変えた。
胴体を右に向けた半身の構えを左向きにする。
体重をかける足を、後ろに置く足を右足から左足に、鍔寄りの握り手を左手から右手に。
それらの動作の際、女は感じ取った。
水鏡流の構えを取っている「誰か」の気配が、波が変わったのを。
さらに、両手に一つずつ、大きな虫が取り付いた。
この三つは連絡を取り合っている。
しかも、それぞれ別人だ。
そして、この三人は間違いなくアランの中から出てきた。
だから女は戸惑う。
(なんだ、これは!)
と。
しかし答えは当然返って来ない。
それでも、女は言葉を続けた。
(私は一体誰と――いや、何と戦っている?!)、と。
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