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第六章 アランの力は遂に一つの頂点に

第四十五話 伝説との邂逅(25)

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 叫ぶシャロン。
 されど答えは出ない。
 それも当然、過去のものも含めて、先の出来事はシャロンの常識ではありえないことだったからだ。
 他人の魂が住み着くこと自体は珍しく無い。ケビンのように。
 だが通常、その場合は作り直され、宿主の魂と同じものになる。
 そうしなければ同居出来ないからだ。宿主から提供される魂の材料、言い換えれば出される食事に合わせなければいけないからだ。そうしないと飢えてしまい、『仕事』が出来なくなる。最悪の場合は死ぬ。これはすなわち、相性が良ければ改造を免れ、『勝手に憑り付くことも不可能では無い』ということでもある。
 そしてこの改造の後に残るのは人格とそれを支えるための記憶の一部くらいである。それすらも消されることがあるが。
 ゆえに、同居人の魂から発せられる活動音、基本となる波の形は宿主と同じものになる。
 虫との連携の際に使われる信号の波形と周波数にも個人差があり、同居の際はこれも当然共通化される。だから、シャロンや雲水はどの虫が誰のものかで、どのように連携を取っているのかが判別出来るのだ。
 しかし今のアランに起こったことは違う。
 アランの首を動かしたもの、その時に発せられた波は、明らかにアランのものでは無かったのだ。

 アランの身に何が起こっているのか。
 その答えを探るべく、女は意識をアランの方に集中させた。
 アランの心は打ち震えていた。
 芸術的な打撃の交差から生まれた感動が、アランの意識を研ぎ澄ましていた。
 しかしアランを感動させていたものはそれだけでは無かった。
 先ほどの首捻りで力を使い尽くした魂が消えていくのを感じていた。
 その魂の人格が薄くなっていくのを感じていた。
 それが誰なのか、アランはその名を遂に言葉にした。

(フリッツなのか?)

“はい”という声が心の中に響く。

 か弱く、細い声。
 しかし、その声ははっきりと、そして深くアランの心に染み込んだ。
 そしてアランはフリッツに問うた。

(あれからずっと、一緒にいてくれたのか?)、と。

 リックとの戦いの後、行方不明になったあの日からなのか、と。

“はい”という声が再び心の中に響く。

 しかしその声は先よりもか弱くなっていた。
 だからアランは悲しんだ。
 すると、声は再び響いた。

“悲しむ必要はありませんよ”

 なぜか。フリッツは言葉を続けた。

“すぐに私の『複製』が作られますので”

 その言葉にアランは何故だか、少しだけやるせない気持ちになった。
 そして、その言葉を最後に「この」フリッツは消えた。
 しかし、消滅の際にフリッツはある情報を残していった。
 自分の仕事はただの時間稼ぎである、と。
 そして自分は仕事を「成功」させた、と。
 アランはその言葉の意味を瞬時に理解した。
 なぜ、時間を稼ぐ必要があったのか。
 なぜ、この戦いの中で次々と不思議なことが、これまで体験したことの無い事が起きたのか。
 その事実から導き出される答えは一つ。
 ならば、いま自分がやるべきことも、

(ただ、一つのみ!)

 アランがその答えに刮目した瞬間、声が再び響いた。

“剣に身を委ねよ”と。

 これにアランは「分かってる」と即答した。
 アランのその返事には、今のままでは、気持ちを静めるだけでは足りないという理解が含まれていた。
 実はそれはとうに分かっていた。
 だが、怖かったのだ。
 しかしもう覚悟は決まった。
 アランはその覚悟を叫びに変えた。

「俺の命、皆に預けたぞ!」

 この女に一人で勝つことは難しい。
 ならば、数の力に頼るしか無い。
 しかし、たった一人で数の暴力を発揮するという矛盾は、どうすれば現実のものに出来るか。
 アランはその矛盾の答えを実行して見せた。
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