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第六章 アランの力は遂に一つの頂点に
第四十五話 伝説との邂逅(24)
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◆◆◆
直後、アランの意識は白い世界から戻ってきた。
(まだ、生きてる……?)
そしてそこはあの世では無かった。
電撃魔法による拘束も解けている。
なぜ。どうやって。
その答えは女の頭の中、直前の記憶の中にあった。
意識が無くなっている間、自分の体は勝手に動いていた。
女の右手に自分の右手を重ねたのだ。まるで恋人同士のように、優しく。
刀を握る女の右手から伸びる電撃魔法の糸を引き千切り、握りこみながら。
そして二人で仲良く、感電したのだ。
(そうか)
アランはついに今の自分に何が起こっているのかを理解し、それを心の声にした。
邪魔をされていたんじゃ無い。
俺が邪魔していたんだ。
俺の感情が強すぎるから。
筋肉が硬直するほどに激昂しているから。
だから、操作し辛いんだ。
俺が逆らってたんだ。自分がやりたいように、それだけしか考えてなかったから。
これじゃ駄目だ。
(怒りを――)
炎を鎮めないと、そう声を響かせながら、アランは意識を自身の心の中に向けた。
心の水面の上で炎が燃え盛っている。まるで水が燃えているかのように。
その揺らめく赤色に意識を向け押さえ込む。水の中に沈めるように。
これはただの心象風景。だが、そのように意識すること自体に意味が、効果があった。「落ち着け」と自身を戒める行為に通じていた。
すると、炎はその通りに移動した。
しかし炎は消えなかった。
水の中で炎が燃えている、不思議な光景。
表面は静かで冷たいが、奥は燃え盛っている。
かつて魔王が言った「静かに熱く」、その境地をアランも体現しつつ、技術として習得しつつあった。
アランの表情から熱さが消える。
それを見た女は、
「疾ッ!」
何かに急かされるように、攻撃の手を繰り出した。
時が止まったかのような緩慢な世界の中で、アランの台本が開く。
示された内容にあまり変化は無い。
斬撃でこちらの姿勢を崩した後に、打撃を叩き込んでくるつもりだ。
そしてこれに対して思いつくこちらの対処も変わり映えしない。
斬撃を流して打撃は受ける。
先ほどまでなら、それ以上考えられることは無かった。
だが、今は違う。
(剣に――)
頭の中であの言葉がずっと響き続けている。
(剣に、身を委ねる……)
この言葉が指す答えは一つしか知らなかった。
そしてこの言葉は、今の自分が抱えている全ての疑問、問題、そして予想される答え、解決法、その全てに通じている気がした。
ならば、試すしか無かった。
「!」
瞬間、それを感じ取った女は右目を大きく見開いた。
アランが何をしようとしているのか、女には分かった。
そしてそれは女から見れば未熟であり、侮辱のように思えた。
だから叫んだ。
(この期に及んで、雲水の真似事などを!)
アランは魂に身体制御の主導権を移し、それを刀の中に入れようとしている。
しかしアランの魂に人格、意識は無い。理性などの写しも感じられない。体を動かすための機能が弱いように感じられる。
ならば、先のように複眼を使うのだろうが、もうこいつの複眼がどのようなものなのかは先の一合で覚え、解析した。今ならば複眼が何をしようとしているのかを計算し、対応出来る。
女は自身の常識に則って考え、そのように結論付けた。
だから女は手を止めず、刃を、そして左腕を繰り出した。
アランの体のあちこちで複眼が活動し、「左腕一本」で女の刃を迎え撃つ。
またしても、アランの左手に大きな複眼が張り付いている。
しかしこれは、
(予想通り!)
と、女は叫びながら左腕を繰り出した。
アランの複眼が輝き、右腕が前に出る。
私の左腕を受け止めるためだろう。そのために、腕一本で刀を振るったのだろう。
だが、
(そんなこと!)
やらせん、と女は叫んだ。
アランの右腕がどのように動くかは、複眼の思考は読めている。
速度差は歴然。衝突を避けることは容易い。
意識を「わざと」アランの心臓部に集中させ、左腕の照準を合わせる。
当然のように胸元に移動するアランに右腕。
直後、女は思考を切り替えた。
左腕の照準が、軌道が顔面に向けられる。
それを察したアランの右腕も防御のために移動し始めるが、速さに差がある。間に合わない。
絶対に入る、それを確信した女は叫んだ。
(もらった!)
その顔面を打ち抜く、という意思を発しながら。
女の左腕の断面がアランの右頬に触れる。
柔らかな感触。
その感触はすぐに頬骨を砕くものに変わるはずだった。
が、
「!?」
女は、混沌は感じ取った。
アランの頭に複眼が集まり、一つの大きな魂になったのを。
そして同時に驚いた。
その魂から放たれる気配は、波は、アランのものでは無い、まったく別人のものだったからだ。
そしてその「誰か」は、アランの首に指示を出した。
直後、女の手首がアランの頬に深くめりこみ、押されたアランの顔が回転を始めた。
傍目からは殴られているだけに見える。
しかし女の左手首に手ごたえは無かった。
首を鋭く捻って受け流している。女が、混沌がそれを理解した直後、
「っ!」
女の胸に、アランの右拳が突き刺さった。
切り替えた直後の隙を突いた一撃。
骨折した箇所を正確に捉えた一撃。
そして、女は元の意識に戻ったと同時に叫んだ。
(まさか?!)
最初から、
(受けるつもりでは無かったのか?!)
このために右腕を?!
「ぐ……げほっ!」
呼吸を整えなければ、そう判断した女は後方に地を蹴った。
その直後、女は気付いた。
アラン自身はこんな手を考えてはいなかったことを。
それは今のアランの意識から明らか。
(ということは――)
魂が各自で判断し、連携したということなのか?!
(いや、それよりも――)
あの魂は「誰」のものなのだ?!
直後、アランの意識は白い世界から戻ってきた。
(まだ、生きてる……?)
そしてそこはあの世では無かった。
電撃魔法による拘束も解けている。
なぜ。どうやって。
その答えは女の頭の中、直前の記憶の中にあった。
意識が無くなっている間、自分の体は勝手に動いていた。
女の右手に自分の右手を重ねたのだ。まるで恋人同士のように、優しく。
刀を握る女の右手から伸びる電撃魔法の糸を引き千切り、握りこみながら。
そして二人で仲良く、感電したのだ。
(そうか)
アランはついに今の自分に何が起こっているのかを理解し、それを心の声にした。
邪魔をされていたんじゃ無い。
俺が邪魔していたんだ。
俺の感情が強すぎるから。
筋肉が硬直するほどに激昂しているから。
だから、操作し辛いんだ。
俺が逆らってたんだ。自分がやりたいように、それだけしか考えてなかったから。
これじゃ駄目だ。
(怒りを――)
炎を鎮めないと、そう声を響かせながら、アランは意識を自身の心の中に向けた。
心の水面の上で炎が燃え盛っている。まるで水が燃えているかのように。
その揺らめく赤色に意識を向け押さえ込む。水の中に沈めるように。
これはただの心象風景。だが、そのように意識すること自体に意味が、効果があった。「落ち着け」と自身を戒める行為に通じていた。
すると、炎はその通りに移動した。
しかし炎は消えなかった。
水の中で炎が燃えている、不思議な光景。
表面は静かで冷たいが、奥は燃え盛っている。
かつて魔王が言った「静かに熱く」、その境地をアランも体現しつつ、技術として習得しつつあった。
アランの表情から熱さが消える。
それを見た女は、
「疾ッ!」
何かに急かされるように、攻撃の手を繰り出した。
時が止まったかのような緩慢な世界の中で、アランの台本が開く。
示された内容にあまり変化は無い。
斬撃でこちらの姿勢を崩した後に、打撃を叩き込んでくるつもりだ。
そしてこれに対して思いつくこちらの対処も変わり映えしない。
斬撃を流して打撃は受ける。
先ほどまでなら、それ以上考えられることは無かった。
だが、今は違う。
(剣に――)
頭の中であの言葉がずっと響き続けている。
(剣に、身を委ねる……)
この言葉が指す答えは一つしか知らなかった。
そしてこの言葉は、今の自分が抱えている全ての疑問、問題、そして予想される答え、解決法、その全てに通じている気がした。
ならば、試すしか無かった。
「!」
瞬間、それを感じ取った女は右目を大きく見開いた。
アランが何をしようとしているのか、女には分かった。
そしてそれは女から見れば未熟であり、侮辱のように思えた。
だから叫んだ。
(この期に及んで、雲水の真似事などを!)
アランは魂に身体制御の主導権を移し、それを刀の中に入れようとしている。
しかしアランの魂に人格、意識は無い。理性などの写しも感じられない。体を動かすための機能が弱いように感じられる。
ならば、先のように複眼を使うのだろうが、もうこいつの複眼がどのようなものなのかは先の一合で覚え、解析した。今ならば複眼が何をしようとしているのかを計算し、対応出来る。
女は自身の常識に則って考え、そのように結論付けた。
だから女は手を止めず、刃を、そして左腕を繰り出した。
アランの体のあちこちで複眼が活動し、「左腕一本」で女の刃を迎え撃つ。
またしても、アランの左手に大きな複眼が張り付いている。
しかしこれは、
(予想通り!)
と、女は叫びながら左腕を繰り出した。
アランの複眼が輝き、右腕が前に出る。
私の左腕を受け止めるためだろう。そのために、腕一本で刀を振るったのだろう。
だが、
(そんなこと!)
やらせん、と女は叫んだ。
アランの右腕がどのように動くかは、複眼の思考は読めている。
速度差は歴然。衝突を避けることは容易い。
意識を「わざと」アランの心臓部に集中させ、左腕の照準を合わせる。
当然のように胸元に移動するアランに右腕。
直後、女は思考を切り替えた。
左腕の照準が、軌道が顔面に向けられる。
それを察したアランの右腕も防御のために移動し始めるが、速さに差がある。間に合わない。
絶対に入る、それを確信した女は叫んだ。
(もらった!)
その顔面を打ち抜く、という意思を発しながら。
女の左腕の断面がアランの右頬に触れる。
柔らかな感触。
その感触はすぐに頬骨を砕くものに変わるはずだった。
が、
「!?」
女は、混沌は感じ取った。
アランの頭に複眼が集まり、一つの大きな魂になったのを。
そして同時に驚いた。
その魂から放たれる気配は、波は、アランのものでは無い、まったく別人のものだったからだ。
そしてその「誰か」は、アランの首に指示を出した。
直後、女の手首がアランの頬に深くめりこみ、押されたアランの顔が回転を始めた。
傍目からは殴られているだけに見える。
しかし女の左手首に手ごたえは無かった。
首を鋭く捻って受け流している。女が、混沌がそれを理解した直後、
「っ!」
女の胸に、アランの右拳が突き刺さった。
切り替えた直後の隙を突いた一撃。
骨折した箇所を正確に捉えた一撃。
そして、女は元の意識に戻ったと同時に叫んだ。
(まさか?!)
最初から、
(受けるつもりでは無かったのか?!)
このために右腕を?!
「ぐ……げほっ!」
呼吸を整えなければ、そう判断した女は後方に地を蹴った。
その直後、女は気付いた。
アラン自身はこんな手を考えてはいなかったことを。
それは今のアランの意識から明らか。
(ということは――)
魂が各自で判断し、連携したということなのか?!
(いや、それよりも――)
あの魂は「誰」のものなのだ?!
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