Chivalry - 異国のサムライ達 -

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)

文字の大きさ
上 下
384 / 586
第六章 アランの力は遂に一つの頂点に

第四十五話 伝説との邂逅(24)

しおりを挟む
   ◆◆◆

 直後、アランの意識は白い世界から戻ってきた。

(まだ、生きてる……?)

 そしてそこはあの世では無かった。
 電撃魔法による拘束も解けている。
 なぜ。どうやって。
 その答えは女の頭の中、直前の記憶の中にあった。
 意識が無くなっている間、自分の体は勝手に動いていた。
 女の右手に自分の右手を重ねたのだ。まるで恋人同士のように、優しく。
 刀を握る女の右手から伸びる電撃魔法の糸を引き千切り、握りこみながら。
 そして二人で仲良く、感電したのだ。

(そうか)

 アランはついに今の自分に何が起こっているのかを理解し、それを心の声にした。
 邪魔をされていたんじゃ無い。
 俺が邪魔していたんだ。
 俺の感情が強すぎるから。
 筋肉が硬直するほどに激昂しているから。
 だから、操作し辛いんだ。
 俺が逆らってたんだ。自分がやりたいように、それだけしか考えてなかったから。
 これじゃ駄目だ。

(怒りを――)

 炎を鎮めないと、そう声を響かせながら、アランは意識を自身の心の中に向けた。
 心の水面の上で炎が燃え盛っている。まるで水が燃えているかのように。
 その揺らめく赤色に意識を向け押さえ込む。水の中に沈めるように。
 これはただの心象風景。だが、そのように意識すること自体に意味が、効果があった。「落ち着け」と自身を戒める行為に通じていた。
 すると、炎はその通りに移動した。
 しかし炎は消えなかった。
 水の中で炎が燃えている、不思議な光景。
 表面は静かで冷たいが、奥は燃え盛っている。
 かつて魔王が言った「静かに熱く」、その境地をアランも体現しつつ、技術として習得しつつあった。
 アランの表情から熱さが消える。
 それを見た女は、

「疾ッ!」

 何かに急かされるように、攻撃の手を繰り出した。
 時が止まったかのような緩慢な世界の中で、アランの台本が開く。
 示された内容にあまり変化は無い。
 斬撃でこちらの姿勢を崩した後に、打撃を叩き込んでくるつもりだ。
 そしてこれに対して思いつくこちらの対処も変わり映えしない。
 斬撃を流して打撃は受ける。
 先ほどまでなら、それ以上考えられることは無かった。
 だが、今は違う。

(剣に――)

 頭の中であの言葉がずっと響き続けている。

(剣に、身を委ねる……)

 この言葉が指す答えは一つしか知らなかった。
 そしてこの言葉は、今の自分が抱えている全ての疑問、問題、そして予想される答え、解決法、その全てに通じている気がした。
 ならば、試すしか無かった。

「!」

 瞬間、それを感じ取った女は右目を大きく見開いた。
 アランが何をしようとしているのか、女には分かった。
 そしてそれは女から見れば未熟であり、侮辱のように思えた。
 だから叫んだ。

(この期に及んで、雲水の真似事などを!)

 アランは魂に身体制御の主導権を移し、それを刀の中に入れようとしている。
 しかしアランの魂に人格、意識は無い。理性などの写しも感じられない。体を動かすための機能が弱いように感じられる。
 ならば、先のように複眼を使うのだろうが、もうこいつの複眼がどのようなものなのかは先の一合で覚え、解析した。今ならば複眼が何をしようとしているのかを計算し、対応出来る。
 女は自身の常識に則って考え、そのように結論付けた。
 だから女は手を止めず、刃を、そして左腕を繰り出した。
 アランの体のあちこちで複眼が活動し、「左腕一本」で女の刃を迎え撃つ。
 またしても、アランの左手に大きな複眼が張り付いている。
 しかしこれは、

(予想通り!)

 と、女は叫びながら左腕を繰り出した。
 アランの複眼が輝き、右腕が前に出る。
 私の左腕を受け止めるためだろう。そのために、腕一本で刀を振るったのだろう。
 だが、

(そんなこと!)

 やらせん、と女は叫んだ。
 アランの右腕がどのように動くかは、複眼の思考は読めている。
 速度差は歴然。衝突を避けることは容易い。
 意識を「わざと」アランの心臓部に集中させ、左腕の照準を合わせる。
 当然のように胸元に移動するアランに右腕。
 直後、女は思考を切り替えた。
 左腕の照準が、軌道が顔面に向けられる。
 それを察したアランの右腕も防御のために移動し始めるが、速さに差がある。間に合わない。
 絶対に入る、それを確信した女は叫んだ。

(もらった!)

 その顔面を打ち抜く、という意思を発しながら。
 女の左腕の断面がアランの右頬に触れる。
 柔らかな感触。
 その感触はすぐに頬骨を砕くものに変わるはずだった。
 が、

「!?」

 女は、混沌は感じ取った。
 アランの頭に複眼が集まり、一つの大きな魂になったのを。
 そして同時に驚いた。
 その魂から放たれる気配は、波は、アランのものでは無い、まったく別人のものだったからだ。
 そしてその「誰か」は、アランの首に指示を出した。
 直後、女の手首がアランの頬に深くめりこみ、押されたアランの顔が回転を始めた。
 傍目からは殴られているだけに見える。
 しかし女の左手首に手ごたえは無かった。
 首を鋭く捻って受け流している。女が、混沌がそれを理解した直後、

「っ!」

 女の胸に、アランの右拳が突き刺さった。
 切り替えた直後の隙を突いた一撃。
 骨折した箇所を正確に捉えた一撃。
 そして、女は元の意識に戻ったと同時に叫んだ。

(まさか?!)

 最初から、

(受けるつもりでは無かったのか?!)

 このために右腕を?!

「ぐ……げほっ!」

 呼吸を整えなければ、そう判断した女は後方に地を蹴った。
 その直後、女は気付いた。
 アラン自身はこんな手を考えてはいなかったことを。
 それは今のアランの意識から明らか。

(ということは――)

 魂が各自で判断し、連携したということなのか?!

(いや、それよりも――)

 あの魂は「誰」のものなのだ?!
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?

甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。 友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。 マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に…… そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり…… 武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

処理中です...