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第六章 アランの力は遂に一つの頂点に

第四十五話 伝説との邂逅(22)

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   ◆◆◆

 その合図は意識があるもの全てに伝わった。

「アラン様!」

 駆けつけたくとも出来ぬ無念さに、思わずクラウスが叫ぶ。
 その直後、

「……?!」

 アランが何度か感じたのと同じ喪失感に、クラウスの口は止まった。
 そして同時に驚いた。
 少し彼を手伝ってくる、と、よく知る懐かしい声が聞こえたからだ。

   ◆◆◆

「「雄雄雄雄雄ォッ!」」

 二人の叫び声がぶつかり、重なり、響き合う。
 だがそれよりも金属音の方が耳に痛い。
 凄まじい数の剣閃が二人の間で折り重なっている。
 かつてのリックとの戦いのように。
 されど、明らかに互角では無い。

「っ……!」

 押されているのはアラン。
 体に無数の刀傷が刻まれ、なお増えている。
 女は「温存していた」力を全て吐き出そうとしていた。
 その速度、それは雲水との戦いの時とほぼ同等であった。
 だが、速いのは腕だけ。
 雲水との戦いで見せた相手の視界を振り回すような足捌きは、高速移動は行われていない。
 今の女の状態では全力は腕一本だけで精一杯。
 しかし重い。
 アランの刀を押し返すほどに。
 先の戦いでは大人しかった女の心臓は、今では五月蝿いほどに大きな鼓動の音を立てている。
 あまりの苛烈さに、衝撃に、受けているアランの体はまるで振り子人形のように揺れている。

「ぐ……お、雄雄ォ!」

 されど、アランは吼えた。
 これを凌げば、女が力尽きれば自分の勝ち、そう信じて、それを希望として踏ん張っていた。
 だが、その不屈の闘志には陰が差していた。
 何かがおかしいのだ。
 体に違和感がある。思った通りに動かない。

(これはまるで、)

 何かに邪魔されているような――
 アランがそう言葉にした瞬間、

「!」

 台本が新たな展開を示した。

(手の無い左腕を、)

 鈍器として叩きつけてくる。台本が示したその内容を読み上げた直後、アランの体に斬撃とは違う衝撃が走った。
 女の左腕がアランの右脇腹に直撃。
 腕の中にある骨をねじ込んでくるかの様な一撃。

「げほっ!」

 腹から肺に昇った衝撃に、むせ返る。
 そこへ当然のように女が斬撃を放つ。
 これを刀で押されながらも受け流し、凌ぐアラン。
 しかし直後に再び左腕の一撃。
 左腕、刀、左腕、と、交互に打撃と斬撃が襲い来る。
 中ほどで折れた左下腕部をまるで鞭のようにしならせながら叩きつけてくる。
 左手首を塞いでいた止血帯がほどけ、赤い断面があらわになる。
 されど女は意にも介さない。
 まるでアランに血を塗りたくるかのような、アランを自分の血で赤く染めようとしているかのような猛攻が続く。
 これを受ける手段が無いアラン。
 斬撃を防ぐだけで精一杯。刃を打撃の方に向ける余裕が一切無い。
 衣服の下に青あざが広がり、内出血に変わっていくのを感じる。

(……この程度ッ!)

 再び吼え、己に活を入れるアラン。
 が、直後、

「ぐっ!」

 腹部に強烈な一撃。
 嗚咽感と共に腰がわずかに折れる。
 女がその硬直を突く。
 右から左へ抜ける、首を狙った水平斬撃。
 これに対し、アランは剣を盾にするように刃を縦に構えた。
 二つの刃が十字の形を作るようにぶつかり合う。
 その瞬間、女は切り替えた。

「!」

 瞬間、アランは「しまった」と思った。
 これは受けてはいけなかったのだ。台本がそれを示している。
 だが、受ける以外に手段が無かったのも事実。
 女が新たに選んだ手は力任せの鍔迫り合い。
 しかもただの鍔迫り合いでは無い。
 女の刃に、電撃魔法の糸が巻き付いている。
 螺旋状の電撃魔法を使った、磁束を用いた拘束だ。

「ぐふっ!」

 動けなくなったアランの体に容赦無く女の左腕が突き刺さる。
 離れなくては、そう思い、力を込めても既に手遅れ。刃はびくともしない。

「あぐっ!?」

 もがいている間に側頭部に一発。

(あ――)

 脳が、意識が揺れる。
 直後、台本の機能が一瞬途絶えたのと同時に、視界が大きく揺れ、傾いた。
 右足を蹴り折られたのだ。
 しかしそれでもアランは倒れなかった。関節が一つ増えた右足で器用に踏ん張った。
 だが、その動きは女が追撃を加えるには十分すぎるほどに緩慢であった。

「がっ!?」

 女の赤い手首の断面がアランの顎を綺麗に跳ね上げる。
 その一撃はアランの意識を白く塗り潰すに十分なものであった。
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