382 / 586
第六章 アランの力は遂に一つの頂点に
第四十五話 伝説との邂逅(22)
しおりを挟む
◆◆◆
その合図は意識があるもの全てに伝わった。
「アラン様!」
駆けつけたくとも出来ぬ無念さに、思わずクラウスが叫ぶ。
その直後、
「……?!」
アランが何度か感じたのと同じ喪失感に、クラウスの口は止まった。
そして同時に驚いた。
少し彼を手伝ってくる、と、よく知る懐かしい声が聞こえたからだ。
◆◆◆
「「雄雄雄雄雄ォッ!」」
二人の叫び声がぶつかり、重なり、響き合う。
だがそれよりも金属音の方が耳に痛い。
凄まじい数の剣閃が二人の間で折り重なっている。
かつてのリックとの戦いのように。
されど、明らかに互角では無い。
「っ……!」
押されているのはアラン。
体に無数の刀傷が刻まれ、なお増えている。
女は「温存していた」力を全て吐き出そうとしていた。
その速度、それは雲水との戦いの時とほぼ同等であった。
だが、速いのは腕だけ。
雲水との戦いで見せた相手の視界を振り回すような足捌きは、高速移動は行われていない。
今の女の状態では全力は腕一本だけで精一杯。
しかし重い。
アランの刀を押し返すほどに。
先の戦いでは大人しかった女の心臓は、今では五月蝿いほどに大きな鼓動の音を立てている。
あまりの苛烈さに、衝撃に、受けているアランの体はまるで振り子人形のように揺れている。
「ぐ……お、雄雄ォ!」
されど、アランは吼えた。
これを凌げば、女が力尽きれば自分の勝ち、そう信じて、それを希望として踏ん張っていた。
だが、その不屈の闘志には陰が差していた。
何かがおかしいのだ。
体に違和感がある。思った通りに動かない。
(これはまるで、)
何かに邪魔されているような――
アランがそう言葉にした瞬間、
「!」
台本が新たな展開を示した。
(手の無い左腕を、)
鈍器として叩きつけてくる。台本が示したその内容を読み上げた直後、アランの体に斬撃とは違う衝撃が走った。
女の左腕がアランの右脇腹に直撃。
腕の中にある骨をねじ込んでくるかの様な一撃。
「げほっ!」
腹から肺に昇った衝撃に、むせ返る。
そこへ当然のように女が斬撃を放つ。
これを刀で押されながらも受け流し、凌ぐアラン。
しかし直後に再び左腕の一撃。
左腕、刀、左腕、と、交互に打撃と斬撃が襲い来る。
中ほどで折れた左下腕部をまるで鞭のようにしならせながら叩きつけてくる。
左手首を塞いでいた止血帯がほどけ、赤い断面があらわになる。
されど女は意にも介さない。
まるでアランに血を塗りたくるかのような、アランを自分の血で赤く染めようとしているかのような猛攻が続く。
これを受ける手段が無いアラン。
斬撃を防ぐだけで精一杯。刃を打撃の方に向ける余裕が一切無い。
衣服の下に青あざが広がり、内出血に変わっていくのを感じる。
(……この程度ッ!)
再び吼え、己に活を入れるアラン。
が、直後、
「ぐっ!」
腹部に強烈な一撃。
嗚咽感と共に腰がわずかに折れる。
女がその硬直を突く。
右から左へ抜ける、首を狙った水平斬撃。
これに対し、アランは剣を盾にするように刃を縦に構えた。
二つの刃が十字の形を作るようにぶつかり合う。
その瞬間、女は切り替えた。
「!」
瞬間、アランは「しまった」と思った。
これは受けてはいけなかったのだ。台本がそれを示している。
だが、受ける以外に手段が無かったのも事実。
女が新たに選んだ手は力任せの鍔迫り合い。
しかもただの鍔迫り合いでは無い。
女の刃に、電撃魔法の糸が巻き付いている。
螺旋状の電撃魔法を使った、磁束を用いた拘束だ。
「ぐふっ!」
動けなくなったアランの体に容赦無く女の左腕が突き刺さる。
離れなくては、そう思い、力を込めても既に手遅れ。刃はびくともしない。
「あぐっ!?」
もがいている間に側頭部に一発。
(あ――)
脳が、意識が揺れる。
直後、台本の機能が一瞬途絶えたのと同時に、視界が大きく揺れ、傾いた。
右足を蹴り折られたのだ。
しかしそれでもアランは倒れなかった。関節が一つ増えた右足で器用に踏ん張った。
だが、その動きは女が追撃を加えるには十分すぎるほどに緩慢であった。
「がっ!?」
女の赤い手首の断面がアランの顎を綺麗に跳ね上げる。
その一撃はアランの意識を白く塗り潰すに十分なものであった。
その合図は意識があるもの全てに伝わった。
「アラン様!」
駆けつけたくとも出来ぬ無念さに、思わずクラウスが叫ぶ。
その直後、
「……?!」
アランが何度か感じたのと同じ喪失感に、クラウスの口は止まった。
そして同時に驚いた。
少し彼を手伝ってくる、と、よく知る懐かしい声が聞こえたからだ。
◆◆◆
「「雄雄雄雄雄ォッ!」」
二人の叫び声がぶつかり、重なり、響き合う。
だがそれよりも金属音の方が耳に痛い。
凄まじい数の剣閃が二人の間で折り重なっている。
かつてのリックとの戦いのように。
されど、明らかに互角では無い。
「っ……!」
押されているのはアラン。
体に無数の刀傷が刻まれ、なお増えている。
女は「温存していた」力を全て吐き出そうとしていた。
その速度、それは雲水との戦いの時とほぼ同等であった。
だが、速いのは腕だけ。
雲水との戦いで見せた相手の視界を振り回すような足捌きは、高速移動は行われていない。
今の女の状態では全力は腕一本だけで精一杯。
しかし重い。
アランの刀を押し返すほどに。
先の戦いでは大人しかった女の心臓は、今では五月蝿いほどに大きな鼓動の音を立てている。
あまりの苛烈さに、衝撃に、受けているアランの体はまるで振り子人形のように揺れている。
「ぐ……お、雄雄ォ!」
されど、アランは吼えた。
これを凌げば、女が力尽きれば自分の勝ち、そう信じて、それを希望として踏ん張っていた。
だが、その不屈の闘志には陰が差していた。
何かがおかしいのだ。
体に違和感がある。思った通りに動かない。
(これはまるで、)
何かに邪魔されているような――
アランがそう言葉にした瞬間、
「!」
台本が新たな展開を示した。
(手の無い左腕を、)
鈍器として叩きつけてくる。台本が示したその内容を読み上げた直後、アランの体に斬撃とは違う衝撃が走った。
女の左腕がアランの右脇腹に直撃。
腕の中にある骨をねじ込んでくるかの様な一撃。
「げほっ!」
腹から肺に昇った衝撃に、むせ返る。
そこへ当然のように女が斬撃を放つ。
これを刀で押されながらも受け流し、凌ぐアラン。
しかし直後に再び左腕の一撃。
左腕、刀、左腕、と、交互に打撃と斬撃が襲い来る。
中ほどで折れた左下腕部をまるで鞭のようにしならせながら叩きつけてくる。
左手首を塞いでいた止血帯がほどけ、赤い断面があらわになる。
されど女は意にも介さない。
まるでアランに血を塗りたくるかのような、アランを自分の血で赤く染めようとしているかのような猛攻が続く。
これを受ける手段が無いアラン。
斬撃を防ぐだけで精一杯。刃を打撃の方に向ける余裕が一切無い。
衣服の下に青あざが広がり、内出血に変わっていくのを感じる。
(……この程度ッ!)
再び吼え、己に活を入れるアラン。
が、直後、
「ぐっ!」
腹部に強烈な一撃。
嗚咽感と共に腰がわずかに折れる。
女がその硬直を突く。
右から左へ抜ける、首を狙った水平斬撃。
これに対し、アランは剣を盾にするように刃を縦に構えた。
二つの刃が十字の形を作るようにぶつかり合う。
その瞬間、女は切り替えた。
「!」
瞬間、アランは「しまった」と思った。
これは受けてはいけなかったのだ。台本がそれを示している。
だが、受ける以外に手段が無かったのも事実。
女が新たに選んだ手は力任せの鍔迫り合い。
しかもただの鍔迫り合いでは無い。
女の刃に、電撃魔法の糸が巻き付いている。
螺旋状の電撃魔法を使った、磁束を用いた拘束だ。
「ぐふっ!」
動けなくなったアランの体に容赦無く女の左腕が突き刺さる。
離れなくては、そう思い、力を込めても既に手遅れ。刃はびくともしない。
「あぐっ!?」
もがいている間に側頭部に一発。
(あ――)
脳が、意識が揺れる。
直後、台本の機能が一瞬途絶えたのと同時に、視界が大きく揺れ、傾いた。
右足を蹴り折られたのだ。
しかしそれでもアランは倒れなかった。関節が一つ増えた右足で器用に踏ん張った。
だが、その動きは女が追撃を加えるには十分すぎるほどに緩慢であった。
「がっ!?」
女の赤い手首の断面がアランの顎を綺麗に跳ね上げる。
その一撃はアランの意識を白く塗り潰すに十分なものであった。
0
お気に入りに追加
88
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
旦那様には愛人がいますが気にしません。
りつ
恋愛
イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判
七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。
「では開廷いたします」
家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


婚約破棄?一体何のお話ですか?
リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。
エルバルド学園卒業記念パーティー。
それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる…
※エブリスタさんでも投稿しています

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜
福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。
彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。
だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。
「お義姉さま!」 . .
「姉などと呼ばないでください、メリルさん」
しかし、今はまだ辛抱のとき。
セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。
──これは、20年前の断罪劇の続き。
喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。
※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。
旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』
※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。
※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる