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第六章 アランの力は遂に一つの頂点に
第四十五話 伝説との邂逅(18)
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だから女は最大級の反撃を返そうと思った。
しかし次の瞬間、女の心の中で声が響いた。
電撃魔法だけならばともかく、それも同時にやるのはまだ駄目だ、そんな混沌の声。
だが、女はもう限界だった。
むしろ、その声は女の激情をさらに煽っただけであった。
そして女はその混沌の声を引き金とし、感情を爆発させた。
「鬱陶しいぞっ!」
女は混沌に、そして上にいる兵士達に向かって吼えながら刀を豪快に振るった。
そして放たれたそれは正に「最大級」だった。
これまでで最大規模の光る嵐。
「!」
それを目にした瞬間、アランの中にあった違和感が確固たるものになった。
広間全体を飲み込むかのような規模の嵐。
殺意の篭ったその風を、光る刃を受け流しながら、アランは違和感の正体を探った。
そしてその違和感の答えが言葉になりかけた瞬間、
「うああぁっ?!」
後方から上がった叫び声に、その思考は中断された。
女が放ったそのたった一撃で、状況は大きく変わり始めていた。
悲鳴の主は既にこの世から去っていた。
上から降ってきた瓦礫に、背にしていた壁の一部に潰されたのだ。
「でぇやあっ!」
そして嵐は一度では終わらなかった。
先と比べると半分ほどの規模の嵐であったが、
「ああああっ!」
女は狂ったように叫びながら、嵐を連射し続けた。
目に付くもの全てを攻撃するかのように。
そしてそれは正しくその通りだった。
嵐が触れたもの全てを削り、切り裂き、砕いていく。
壁と柱に亀裂が入り、屋根が割れていく。
嵐が通るたびに、誰かが悲鳴を上げ、どこかで赤い華が咲き、何かが崩れる。
それを見た誰かが心の声を響かせた。
この広間を壊すつもりか? と。
誰かがそれに答えた。
このままだと広間だけじゃ済まない、柱が次々と折れてる、と。
すると直後、数え切れないほどの悲鳴が全員の心に響いた。
玉座の間の天井が降って来るぞ、と。押しつぶされる、と。
「母上!」
その悲鳴を聞いた瞬間、リックが声を上げ、地を蹴った。
広間の奥、壁際に寝かせてある意識不明の母に向かって。
このままでは危険だ、守らなくては、と。
しかしその足は途中で止まった。
「母、上?」
リックは気付いた。気付いてしまった。
自分の母がいつの間にか終わっていたことに。心臓が動いていないことに。
いつからだ? どうして気付かなかった?
まさか、
「アラン?」
黙っていたのか。「この事実」を。わざと共有しなかったのか。
リックは視線を向けながら尋ねた。
が、
「……」
アランの口は開かなかった。
しかし、アランは心で答えた。
リックを庇って蹴り飛ばされた時に、内臓が破裂していたことを。
彼女の腹の中は真っ赤に染まっていると。出血が肺にまでせり上がって来るほどに。
そして彼女は自分の血で溺れたことを、アランはリックに明かした。
手当てさせた兵士にだけはそれを伝え、相応の処置をさせた。が、駄目だったと。
「……!」
その告白に、リックの意識は凍りつくように止まった。
だが、ゆえにか、
「ふっ!」
リックの体は自然と動いた。
高く跳躍し、母の亡骸(なきがら)を潰さんと降り迫る瓦礫の一つを蹴り飛ばす。
こんな事をして今更何の意味がある? そんな当然の疑問が真っ白な思考の中に湧き上がる。
しかしその疑問は答えを生む事無く、白く塗り潰された。
反動を利用して空中で体を回転させ、背後を通り抜けようとする瓦礫を蹴り払う。
そして着地から間髪入れずに地を蹴り直し、突進右掌底打ち。
見上げ、次に備える。
「!」
すると、それがリックの目に映った。
(大きい!)
岩と呼んで遜色無い体積。
やれるか? などという疑問もまた、白い意識の中に消えた。
地を蹴り、壁を蹴り、高く舞い上がる。
そして、リックの瞳が岩の影に塗り潰された瞬間、
「せぇやっ!」
リックは体内で星を爆発させ、下から斜め上に蹴り上げるように右足を放った。
輝く足裏が岩肌に突き刺さる。
が、
(重い!)
当たり前のことであったが、それでもリックは言葉にせざるを得なかった。
少し動いたがこれでは足りない。
ならば――その言葉の続きもまた同じく白く塗り潰された。
もう片方の足で岩を蹴り、その反動を利用して壁に飛ぶ。
そしてすかさず壁を蹴り直し、
「破ッ!」
防御魔法を展開しながら、肩をぶちかました。
(良し!)
確信を生む手ごたえ。
これで母には当たらない。
そしてこの岩は母のすぐ傍に落ちる。
だから良い。この岩が柱に、支えとなって隙間を作ってくれるはずだ。
リックはそんなことを考えながら上を見上げた。
するとそこには、目の前に迫った天井があった。
落ちてきた玉座の間の天井だ。
これはどうしようもない。あとは、
(祈るのみだ)
と、リックはその対象すらおぼつかぬままに、防御魔法を展開した。
屋根がぶつかり、盾が砕ける。
そして直後、全身に走った衝撃にリックの意識は消えた。
しかし次の瞬間、女の心の中で声が響いた。
電撃魔法だけならばともかく、それも同時にやるのはまだ駄目だ、そんな混沌の声。
だが、女はもう限界だった。
むしろ、その声は女の激情をさらに煽っただけであった。
そして女はその混沌の声を引き金とし、感情を爆発させた。
「鬱陶しいぞっ!」
女は混沌に、そして上にいる兵士達に向かって吼えながら刀を豪快に振るった。
そして放たれたそれは正に「最大級」だった。
これまでで最大規模の光る嵐。
「!」
それを目にした瞬間、アランの中にあった違和感が確固たるものになった。
広間全体を飲み込むかのような規模の嵐。
殺意の篭ったその風を、光る刃を受け流しながら、アランは違和感の正体を探った。
そしてその違和感の答えが言葉になりかけた瞬間、
「うああぁっ?!」
後方から上がった叫び声に、その思考は中断された。
女が放ったそのたった一撃で、状況は大きく変わり始めていた。
悲鳴の主は既にこの世から去っていた。
上から降ってきた瓦礫に、背にしていた壁の一部に潰されたのだ。
「でぇやあっ!」
そして嵐は一度では終わらなかった。
先と比べると半分ほどの規模の嵐であったが、
「ああああっ!」
女は狂ったように叫びながら、嵐を連射し続けた。
目に付くもの全てを攻撃するかのように。
そしてそれは正しくその通りだった。
嵐が触れたもの全てを削り、切り裂き、砕いていく。
壁と柱に亀裂が入り、屋根が割れていく。
嵐が通るたびに、誰かが悲鳴を上げ、どこかで赤い華が咲き、何かが崩れる。
それを見た誰かが心の声を響かせた。
この広間を壊すつもりか? と。
誰かがそれに答えた。
このままだと広間だけじゃ済まない、柱が次々と折れてる、と。
すると直後、数え切れないほどの悲鳴が全員の心に響いた。
玉座の間の天井が降って来るぞ、と。押しつぶされる、と。
「母上!」
その悲鳴を聞いた瞬間、リックが声を上げ、地を蹴った。
広間の奥、壁際に寝かせてある意識不明の母に向かって。
このままでは危険だ、守らなくては、と。
しかしその足は途中で止まった。
「母、上?」
リックは気付いた。気付いてしまった。
自分の母がいつの間にか終わっていたことに。心臓が動いていないことに。
いつからだ? どうして気付かなかった?
まさか、
「アラン?」
黙っていたのか。「この事実」を。わざと共有しなかったのか。
リックは視線を向けながら尋ねた。
が、
「……」
アランの口は開かなかった。
しかし、アランは心で答えた。
リックを庇って蹴り飛ばされた時に、内臓が破裂していたことを。
彼女の腹の中は真っ赤に染まっていると。出血が肺にまでせり上がって来るほどに。
そして彼女は自分の血で溺れたことを、アランはリックに明かした。
手当てさせた兵士にだけはそれを伝え、相応の処置をさせた。が、駄目だったと。
「……!」
その告白に、リックの意識は凍りつくように止まった。
だが、ゆえにか、
「ふっ!」
リックの体は自然と動いた。
高く跳躍し、母の亡骸(なきがら)を潰さんと降り迫る瓦礫の一つを蹴り飛ばす。
こんな事をして今更何の意味がある? そんな当然の疑問が真っ白な思考の中に湧き上がる。
しかしその疑問は答えを生む事無く、白く塗り潰された。
反動を利用して空中で体を回転させ、背後を通り抜けようとする瓦礫を蹴り払う。
そして着地から間髪入れずに地を蹴り直し、突進右掌底打ち。
見上げ、次に備える。
「!」
すると、それがリックの目に映った。
(大きい!)
岩と呼んで遜色無い体積。
やれるか? などという疑問もまた、白い意識の中に消えた。
地を蹴り、壁を蹴り、高く舞い上がる。
そして、リックの瞳が岩の影に塗り潰された瞬間、
「せぇやっ!」
リックは体内で星を爆発させ、下から斜め上に蹴り上げるように右足を放った。
輝く足裏が岩肌に突き刺さる。
が、
(重い!)
当たり前のことであったが、それでもリックは言葉にせざるを得なかった。
少し動いたがこれでは足りない。
ならば――その言葉の続きもまた同じく白く塗り潰された。
もう片方の足で岩を蹴り、その反動を利用して壁に飛ぶ。
そしてすかさず壁を蹴り直し、
「破ッ!」
防御魔法を展開しながら、肩をぶちかました。
(良し!)
確信を生む手ごたえ。
これで母には当たらない。
そしてこの岩は母のすぐ傍に落ちる。
だから良い。この岩が柱に、支えとなって隙間を作ってくれるはずだ。
リックはそんなことを考えながら上を見上げた。
するとそこには、目の前に迫った天井があった。
落ちてきた玉座の間の天井だ。
これはどうしようもない。あとは、
(祈るのみだ)
と、リックはその対象すらおぼつかぬままに、防御魔法を展開した。
屋根がぶつかり、盾が砕ける。
そして直後、全身に走った衝撃にリックの意識は消えた。
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