374 / 586
第六章 アランの力は遂に一つの頂点に
第四十五話 伝説との邂逅(14)
しおりを挟む
二つの閃光が交錯し、光魔法特有の衝突音が鳴り響く。
しかしリックの中にある台本は比較的静かであった。
女の考えが一撃離脱であったからだ。
わざと攻撃を弾かせて互いの片手を止め、次の手が繰り出される前に離れたのだ。後ろから追ってくる大蛇から逃げるためだ。
それはリックにとっても同じこと。長く足を止めてはいられない。
そして、女をみすみす逃がすつもりも無かった。
「逃がさん」という意識を女の背に叩きつけながら地を蹴り直す。
それを感じ取った女は後ろに振り返りつつ、網で迎撃しようとしたが、
「……っ!」
直後、女は切り替わった。
網での迎撃を中断したのだ。
使うならば別の機会のほうがいい、そんな感情が女の意識に流れていた。
(……?)
これにアランが違和感を抱いた。
なぜ? 別の機会? 予測される未来に、より都合の良い状況があるということなのか?
(いや、それは……)
何か違う気がする。あの万華鏡の中をざっと調べても、それらしい情報は見当たらない。
「……っ」
もどかしさに歯を噛み締めようとも答えは出ない。
そうしている間に、リックは壁沿いを走るシャロンの真右に並んだ。
攻撃がぎりぎり届かない距離を維持したまま併走し、アラン達から見て奥側、大広間の入り口側を壁沿いに左隅から右隅へと駆け抜ける。
その間、およそ数秒。
二人を追う大蛇に舐められた壁が、石柱が、そして入り口の鉄門が赤く焼け染まる。
互いに手は出さねども、意識は凄まじい速度で互いの手を読み合っていた。
そしてその意識の交錯には終わりが近付いていた。
目の前に部屋の角が、壁が迫っている。
壁伝いに曲がって逃げるという選択肢は無い。リックが阻止するからだ。そしてそれはお互いに分かっている。
ゆえに、
「ふっ!」「はっ!」
二人の動きは同時で、やはり同じだった。
二人が選んだ行動は角への跳躍。
直交した二枚の壁を利用して壁蹴りを複数回行えるからだ。
女は逃げるために、対するリックはそれを阻止するために。
ゆえに、二人の軌道は交差していた。
女は右の壁へ、リックはそれを止めるために左の壁へ。
二人の影が、閃光が交錯しぶつかり合う。
「「くっ!」」
すれ違い、壁に張り付いた二人の口から同時に声が漏れる。
女は逃げ道を探していた。
だが見つからない。リックの意識を振り切れない。それに対しての声。
そしてリックが声を漏らした理由は女を叩き落せなかったことに対してのもの。
ゆえに、二人は同じ形でもう一合ぶつかりあった。
女の影が右から左へ。リックの影が左から右へ。
されど結果は変わらず。
ならば、まだだ、と、今度は声無くもう一合。
「「!」」
その三合目にして遂に結果は変わった。
ぶつかり合い、速度を落とした二つの影がはっきりとした実像を現す。
女が放った斬撃をリックの左手が叩き払い、合わせて放ったリックの右拳を女が左手で受け止め、同時に繰り出された女の左膝をリックの右すねが受け止めている。
形はほぼ五分。
そして飛び出した速度もほぼ五分。
だが、一つだけそうでは無いものがあった。
それは重さ。女の方がやや軽い。
結果、両者は互いに減速しつつも、リックが女を少し押しのける形になった。
体がすれ違い、ぶつかり合っていた手足が離れる。
そして先に壁に辿り着いたのは――
「はっ!」
女の方であった。
壁側に寄るように軌道を変えられたことが要因であった。
しかしリックの中にある台本は比較的静かであった。
女の考えが一撃離脱であったからだ。
わざと攻撃を弾かせて互いの片手を止め、次の手が繰り出される前に離れたのだ。後ろから追ってくる大蛇から逃げるためだ。
それはリックにとっても同じこと。長く足を止めてはいられない。
そして、女をみすみす逃がすつもりも無かった。
「逃がさん」という意識を女の背に叩きつけながら地を蹴り直す。
それを感じ取った女は後ろに振り返りつつ、網で迎撃しようとしたが、
「……っ!」
直後、女は切り替わった。
網での迎撃を中断したのだ。
使うならば別の機会のほうがいい、そんな感情が女の意識に流れていた。
(……?)
これにアランが違和感を抱いた。
なぜ? 別の機会? 予測される未来に、より都合の良い状況があるということなのか?
(いや、それは……)
何か違う気がする。あの万華鏡の中をざっと調べても、それらしい情報は見当たらない。
「……っ」
もどかしさに歯を噛み締めようとも答えは出ない。
そうしている間に、リックは壁沿いを走るシャロンの真右に並んだ。
攻撃がぎりぎり届かない距離を維持したまま併走し、アラン達から見て奥側、大広間の入り口側を壁沿いに左隅から右隅へと駆け抜ける。
その間、およそ数秒。
二人を追う大蛇に舐められた壁が、石柱が、そして入り口の鉄門が赤く焼け染まる。
互いに手は出さねども、意識は凄まじい速度で互いの手を読み合っていた。
そしてその意識の交錯には終わりが近付いていた。
目の前に部屋の角が、壁が迫っている。
壁伝いに曲がって逃げるという選択肢は無い。リックが阻止するからだ。そしてそれはお互いに分かっている。
ゆえに、
「ふっ!」「はっ!」
二人の動きは同時で、やはり同じだった。
二人が選んだ行動は角への跳躍。
直交した二枚の壁を利用して壁蹴りを複数回行えるからだ。
女は逃げるために、対するリックはそれを阻止するために。
ゆえに、二人の軌道は交差していた。
女は右の壁へ、リックはそれを止めるために左の壁へ。
二人の影が、閃光が交錯しぶつかり合う。
「「くっ!」」
すれ違い、壁に張り付いた二人の口から同時に声が漏れる。
女は逃げ道を探していた。
だが見つからない。リックの意識を振り切れない。それに対しての声。
そしてリックが声を漏らした理由は女を叩き落せなかったことに対してのもの。
ゆえに、二人は同じ形でもう一合ぶつかりあった。
女の影が右から左へ。リックの影が左から右へ。
されど結果は変わらず。
ならば、まだだ、と、今度は声無くもう一合。
「「!」」
その三合目にして遂に結果は変わった。
ぶつかり合い、速度を落とした二つの影がはっきりとした実像を現す。
女が放った斬撃をリックの左手が叩き払い、合わせて放ったリックの右拳を女が左手で受け止め、同時に繰り出された女の左膝をリックの右すねが受け止めている。
形はほぼ五分。
そして飛び出した速度もほぼ五分。
だが、一つだけそうでは無いものがあった。
それは重さ。女の方がやや軽い。
結果、両者は互いに減速しつつも、リックが女を少し押しのける形になった。
体がすれ違い、ぶつかり合っていた手足が離れる。
そして先に壁に辿り着いたのは――
「はっ!」
女の方であった。
壁側に寄るように軌道を変えられたことが要因であった。
0
お気に入りに追加
88
あなたにおすすめの小説
何を間違った?【完結済】
maruko
恋愛
私は長年の婚約者に婚約破棄を言い渡す。
彼女とは1年前から連絡が途絶えてしまっていた。
今真実を聞いて⋯⋯。
愚かな私の後悔の話
※作者の妄想の産物です
他サイトでも投稿しております
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
夫から国外追放を言い渡されました
杉本凪咲
恋愛
夫は冷淡に私を国外追放に処した。
どうやら、私が使用人をいじめたことが原因らしい。
抵抗虚しく兵士によって連れていかれてしまう私。
そんな私に、被害者である使用人は笑いかけていた……
【完結】王子は聖女と結婚するらしい。私が聖女であることは一生知らないままで
雪野原よる
恋愛
「聖女と結婚するんだ」──私の婚約者だった王子は、そう言って私を追い払った。でも、その「聖女」、私のことなのだけど。
※王国は滅びます。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる