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第六章 アランの力は遂に一つの頂点に
第四十五話 伝説との邂逅(12)
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右に振り抜いた長剣を持つ右手に力を込める。
そしてアンナが選んだ型は、
「せぇやっ!」
真下から真上に振り上げる、逆風。
出来るだけ速くかつ安全に、となるとこれくらいしか型が無いのだ。
左に切り返す薙ぎ払いのほうがより範囲のある良い手に思えるが、しかしそうすると二本の剣が左手側に偏ってしまう。つまり右側が完全に無防備になるのだ。
しかし逆風は斜めの軌道を取らないため横の範囲が狭い。体を半身ずらすだけで回避出来てしまう。
が、それはあくまで普通の斬撃の話。
「くっ!」
吹き上がった熱波に押されるように、女は大きく後退した。
そうするしか無かった。放出される糸の数が、熱量が凄まじく、先のような相殺が狙えなかったからだ。
振り上げられた剣から垂れた炎の糸がからまり、赤い壁を成す。
そしてその壁は目に痛いほどの光を放ちながら燃え上がった。
凄まじい速さで燃え尽き、そして交錯する二人の視線。
その時既に、アンナは次の攻撃動作に入っていた。
順手持ちに切り替えた左手の刀を、
「斬っ!」
大きく踏み込みながら右から左へ。
抜刀から一度も手を離していないがゆえに、その刃は真っ赤に染まっていた。
獲物を横から絡め取ろうとするかのように、炎の糸が編み広げられる。
「……っ!」
これに対し、女は再びの後退を選択。
炎の壁がほぼ間断無く展開されているゆえに踏み込めないのだ。
これが炎使いの二刀流の基本、かつ真髄であった。
交互に振って炎の壁を繰り出し続けることで、隙を少なくすることが出来る。単純だが、ゆえに強い。
そして、振り回すだけならば扱いやすい重量のものを持つべきだが、長剣には「体積が大きい」という、これまた単純かつ強力な利点がある。
つまり、それだけ多くの魔力を込めることが出来るということだ。
そして、アンナはその利点を女に見せ付けんと、振り上げた長剣をそのまま大上段に置いた。
天に向かって掲げられた刃が再び赤く染まり、そして燃え上がる。
十分に満たされた感覚が手に伝わる。
アンナはその感覚を叩き込まんと、
「破ッ!」
女に向かって飛び込むように、幅跳びをするかのように地を蹴った。
瞬間、
「!」
アランは感じ取った。
女が切り替わったのを。
そして変化した女は、
(調子に乗ったな!)
そうアンナに向かって叫びながら、後退のために込めていた足の力を前へ解放した。
アンナの考えは読めていた。
魔力を込めた剣を地面に叩きつけ、防御魔法を広げる要領で炎の波を放つつもりだ。
放たれる魔力の量が多く、燃焼速度も備わっているゆえに熱波というよりは衝撃波に近い。
直撃すれば間違い無くバラバラにされるほどの威力。
だが、その攻撃の範囲は「前に偏っている」。そうしないと自身を巻き込んでしまうからだ。
ならば、言い換えれば、剣が叩きつけられる前に相手の懐に飛び込み、
(撫で斬る!)
すれ違いざまに攻撃すれば良いということ。
女の影が霞み、前へ出る。
その直後、
(マズい!)
アランは体に走った悪寒を言葉にした。
回避する手段が無いからだ。
強く地を蹴ったせいでアンナの体はわずかに浮いてしまっている。
「ア――」
だからアランは再び妹の名を呼ぼうとした。
左手の刀でも防御魔法でも何でもいい、防いでくれ、と。そう願って。
だが、その声が最後まで紡がれることは無かった。
「あぐっ?!」「!?」
全く予想してなかった結果に、驚いたからだ。
アンナの選択は回避でも防御でも無かった。
蹴りであった。
魔法使い特有のローブの裾が大きくめくれ上がり、右太ももが露(あらわ)になるほどの勢いで女の上半身を蹴り上げたのだ。
しかしさらに奇妙なことは、
「え?」
迎撃した本人が間の抜けた声を上げたことだ。
何が起きたのか、本人にも分かっていなかった。
ただ一つ確かなことは、アンナの頭の中に「蹴り」という選択肢は無かったこと。
そしてその答えに最も早く辿り着いたのは、
(これは……!)
女であった。
アンナが蹴りを放つ直前、女は感じ取っていた。
アンナの頭に大量の虫が集まり、一つの回路となったのを。
それが蹴りを放つための神経網として機能したことは明らか。
そして問題は誰がこれをやったのか、ということ。
女はその思考をさらに巡らせようとしたが、
「がはっ!」
地面に背中が激突した衝撃に思考は一時途絶えた。
蹴られた時に折れた一本の胸骨がさらなる痛みを周囲に巡らす。
背中が自然に反るほどの痛み。
そして地に仰向けに倒れた体勢。まさに完全な無防備。
だがこの時、女にとって幸運なことが一つあった。
高速で踏み込んでいたことだ。
アンナの蹴りではその勢いは止まらなかった。
ゆえに、女の体は地の上を滑り、アンナの股下をくぐっていった。まるで女が自らアンナの下に滑り込んだかのように見えるほどに。
そして女は背中と地面が削り合うのを感じながらこれをやった犯人を捜した。
アランでは無いことは確認した。
同じだからだ。誰の仕業なのか探している側だ。
(ということは、やはり、)
ルイスだろうか、女はそう思った。
だが、女はその予想に対して懐疑的にならざるをえなかった。
なぜなら、虫が仕事をする際に発せられた波が、ルイスのものとは違うものだったからだ。
そしてアンナが選んだ型は、
「せぇやっ!」
真下から真上に振り上げる、逆風。
出来るだけ速くかつ安全に、となるとこれくらいしか型が無いのだ。
左に切り返す薙ぎ払いのほうがより範囲のある良い手に思えるが、しかしそうすると二本の剣が左手側に偏ってしまう。つまり右側が完全に無防備になるのだ。
しかし逆風は斜めの軌道を取らないため横の範囲が狭い。体を半身ずらすだけで回避出来てしまう。
が、それはあくまで普通の斬撃の話。
「くっ!」
吹き上がった熱波に押されるように、女は大きく後退した。
そうするしか無かった。放出される糸の数が、熱量が凄まじく、先のような相殺が狙えなかったからだ。
振り上げられた剣から垂れた炎の糸がからまり、赤い壁を成す。
そしてその壁は目に痛いほどの光を放ちながら燃え上がった。
凄まじい速さで燃え尽き、そして交錯する二人の視線。
その時既に、アンナは次の攻撃動作に入っていた。
順手持ちに切り替えた左手の刀を、
「斬っ!」
大きく踏み込みながら右から左へ。
抜刀から一度も手を離していないがゆえに、その刃は真っ赤に染まっていた。
獲物を横から絡め取ろうとするかのように、炎の糸が編み広げられる。
「……っ!」
これに対し、女は再びの後退を選択。
炎の壁がほぼ間断無く展開されているゆえに踏み込めないのだ。
これが炎使いの二刀流の基本、かつ真髄であった。
交互に振って炎の壁を繰り出し続けることで、隙を少なくすることが出来る。単純だが、ゆえに強い。
そして、振り回すだけならば扱いやすい重量のものを持つべきだが、長剣には「体積が大きい」という、これまた単純かつ強力な利点がある。
つまり、それだけ多くの魔力を込めることが出来るということだ。
そして、アンナはその利点を女に見せ付けんと、振り上げた長剣をそのまま大上段に置いた。
天に向かって掲げられた刃が再び赤く染まり、そして燃え上がる。
十分に満たされた感覚が手に伝わる。
アンナはその感覚を叩き込まんと、
「破ッ!」
女に向かって飛び込むように、幅跳びをするかのように地を蹴った。
瞬間、
「!」
アランは感じ取った。
女が切り替わったのを。
そして変化した女は、
(調子に乗ったな!)
そうアンナに向かって叫びながら、後退のために込めていた足の力を前へ解放した。
アンナの考えは読めていた。
魔力を込めた剣を地面に叩きつけ、防御魔法を広げる要領で炎の波を放つつもりだ。
放たれる魔力の量が多く、燃焼速度も備わっているゆえに熱波というよりは衝撃波に近い。
直撃すれば間違い無くバラバラにされるほどの威力。
だが、その攻撃の範囲は「前に偏っている」。そうしないと自身を巻き込んでしまうからだ。
ならば、言い換えれば、剣が叩きつけられる前に相手の懐に飛び込み、
(撫で斬る!)
すれ違いざまに攻撃すれば良いということ。
女の影が霞み、前へ出る。
その直後、
(マズい!)
アランは体に走った悪寒を言葉にした。
回避する手段が無いからだ。
強く地を蹴ったせいでアンナの体はわずかに浮いてしまっている。
「ア――」
だからアランは再び妹の名を呼ぼうとした。
左手の刀でも防御魔法でも何でもいい、防いでくれ、と。そう願って。
だが、その声が最後まで紡がれることは無かった。
「あぐっ?!」「!?」
全く予想してなかった結果に、驚いたからだ。
アンナの選択は回避でも防御でも無かった。
蹴りであった。
魔法使い特有のローブの裾が大きくめくれ上がり、右太ももが露(あらわ)になるほどの勢いで女の上半身を蹴り上げたのだ。
しかしさらに奇妙なことは、
「え?」
迎撃した本人が間の抜けた声を上げたことだ。
何が起きたのか、本人にも分かっていなかった。
ただ一つ確かなことは、アンナの頭の中に「蹴り」という選択肢は無かったこと。
そしてその答えに最も早く辿り着いたのは、
(これは……!)
女であった。
アンナが蹴りを放つ直前、女は感じ取っていた。
アンナの頭に大量の虫が集まり、一つの回路となったのを。
それが蹴りを放つための神経網として機能したことは明らか。
そして問題は誰がこれをやったのか、ということ。
女はその思考をさらに巡らせようとしたが、
「がはっ!」
地面に背中が激突した衝撃に思考は一時途絶えた。
蹴られた時に折れた一本の胸骨がさらなる痛みを周囲に巡らす。
背中が自然に反るほどの痛み。
そして地に仰向けに倒れた体勢。まさに完全な無防備。
だがこの時、女にとって幸運なことが一つあった。
高速で踏み込んでいたことだ。
アンナの蹴りではその勢いは止まらなかった。
ゆえに、女の体は地の上を滑り、アンナの股下をくぐっていった。まるで女が自らアンナの下に滑り込んだかのように見えるほどに。
そして女は背中と地面が削り合うのを感じながらこれをやった犯人を捜した。
アランでは無いことは確認した。
同じだからだ。誰の仕業なのか探している側だ。
(ということは、やはり、)
ルイスだろうか、女はそう思った。
だが、女はその予想に対して懐疑的にならざるをえなかった。
なぜなら、虫が仕事をする際に発せられた波が、ルイスのものとは違うものだったからだ。
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