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第六章 アランの力は遂に一つの頂点に
第四十五話 伝説との邂逅(9)
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これに、場がざわめくのをアランは感じた。
しかしそのざわめきは大きくはならなかった。
誰かに聞かれては困ることなのか、意識して声を小さくしているようだ。
アランがそう思った直後、声が場に響いた。
「しかし……問題は、一体誰がそれをやるのか――「私がやりましょう」
乗り気では無い、遠慮がちな声を押しのけるかのように響いたのは、男の声。
しかしその声の鮮明さに対し、提案者である女性の答えははっきりとしないものであった。
「あなたが、ですか? しかし……本当に良いのですか?」
これに男は即答した。
「やるべきことから考えるに、私が適任でしょう」
「……」
対照的に、女は良い答えを返せない。
アランはそのやり取りをもどかしく聞いていた。
この女性と、「やる」と進言した男の声、どこかで聞いたことがあるような、知っているような――ちゃんと確認したいのだが、相変わらず頭の中で砂埃が舞っている感じがする。
一体この声はなんなんだ。何をやるつもりなんだ。そう思ったアランは二人の会話に意識を集中させようとしたが、
「アラン」
「!?」
突如響いた自分を呼ぶ声に、アランの意識は引っ張られた。
その声の主が誰なのかは、その一言だけで分かった。
ゆえにアランは名を呼び返した。
「ソフィア様?」
「……」
気配から、感覚から察するに正解であった。しかし、ソフィアはすぐには答えなかった。
しばらくして、ソフィアはゆっくりと答えた。
「……アラン、あなたの中に住むようになって長いけれど、時々思うことがあるの。自分は何のために生き長らえているのだろう、と」
その言葉にアランは共感した。
かつての自分も、そんな風に考えたことがあるからだ。
しかし今はそうでは無い。今の自分にはやりたいことが、成したいことがある。
ゆえにアランは何も言わず、黙ってソフィアの言葉に耳を傾けた。
「……もう、かつての自分が、生きていた頃の自分がどういう風に考え、どう行動していたのかさえはっきりと思い出せない。今の私はただ一つの役割を、与えられた仕事を淡々とこなしているだけの存在だから」
その言葉の意味は今のアランには分からなかったが、アランはそれを尋ねようとはせず、次の言葉を待った。
そしてソフィアはアランに述べた。素直な、自身の思いを。
「……だから、今の彼が少し羨ましいの。彼の行動は正しいと思うから、なおさら」
どういうことなのか、尋ねるまでも無くソフィアは真意を語った。
「……だから、お願いアラン、彼の邪魔はしないであげて」
邪魔も何も、彼が何をしようとしているのかさえ分からない、アランはそんな言葉を返そうとしたが、
「えいぃっやッ!」「!」
突如耳に届いたアンナの気勢に、アランの意識は現実に戻った。
しかしそのざわめきは大きくはならなかった。
誰かに聞かれては困ることなのか、意識して声を小さくしているようだ。
アランがそう思った直後、声が場に響いた。
「しかし……問題は、一体誰がそれをやるのか――「私がやりましょう」
乗り気では無い、遠慮がちな声を押しのけるかのように響いたのは、男の声。
しかしその声の鮮明さに対し、提案者である女性の答えははっきりとしないものであった。
「あなたが、ですか? しかし……本当に良いのですか?」
これに男は即答した。
「やるべきことから考えるに、私が適任でしょう」
「……」
対照的に、女は良い答えを返せない。
アランはそのやり取りをもどかしく聞いていた。
この女性と、「やる」と進言した男の声、どこかで聞いたことがあるような、知っているような――ちゃんと確認したいのだが、相変わらず頭の中で砂埃が舞っている感じがする。
一体この声はなんなんだ。何をやるつもりなんだ。そう思ったアランは二人の会話に意識を集中させようとしたが、
「アラン」
「!?」
突如響いた自分を呼ぶ声に、アランの意識は引っ張られた。
その声の主が誰なのかは、その一言だけで分かった。
ゆえにアランは名を呼び返した。
「ソフィア様?」
「……」
気配から、感覚から察するに正解であった。しかし、ソフィアはすぐには答えなかった。
しばらくして、ソフィアはゆっくりと答えた。
「……アラン、あなたの中に住むようになって長いけれど、時々思うことがあるの。自分は何のために生き長らえているのだろう、と」
その言葉にアランは共感した。
かつての自分も、そんな風に考えたことがあるからだ。
しかし今はそうでは無い。今の自分にはやりたいことが、成したいことがある。
ゆえにアランは何も言わず、黙ってソフィアの言葉に耳を傾けた。
「……もう、かつての自分が、生きていた頃の自分がどういう風に考え、どう行動していたのかさえはっきりと思い出せない。今の私はただ一つの役割を、与えられた仕事を淡々とこなしているだけの存在だから」
その言葉の意味は今のアランには分からなかったが、アランはそれを尋ねようとはせず、次の言葉を待った。
そしてソフィアはアランに述べた。素直な、自身の思いを。
「……だから、今の彼が少し羨ましいの。彼の行動は正しいと思うから、なおさら」
どういうことなのか、尋ねるまでも無くソフィアは真意を語った。
「……だから、お願いアラン、彼の邪魔はしないであげて」
邪魔も何も、彼が何をしようとしているのかさえ分からない、アランはそんな言葉を返そうとしたが、
「えいぃっやッ!」「!」
突如耳に届いたアンナの気勢に、アランの意識は現実に戻った。
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