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第六章 アランの力は遂に一つの頂点に
第四十五話 伝説との邂逅(8)
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(どうすれば……!)
アランはもどかしさを感じていた。
なぜならば、混沌の弱点に気付いているからだ。
アランは混沌の秘密を、特徴を見抜きつつあった。
その一つは、計算を並列で行っているということ。
だが、計算能力の多くは表に出ている人格が使っている。自分との読み合いに負けないようにしているからだろう。
そして裏に控えている人格――いや、得体の知れない何かは補助的なことしか出来ていない。
そこを読み取るのは難しい。思考がバラバラにされているからだ。されど不可能では無い。ありえない思考、論理を組むことは無いからだ。どれとどれが繋がるのかは予想がつく。
それらが何かの条件で繋がり、表の人格と入れ替わっている。
後出し出来るゆえに隙が無い、対処のしようが無いように思える。
しかしそうでは無い。
先にも言ったように、計算能力の多くは表の人格が使っている。
ゆえに、
(あの後出しには弱点がある!)
アランは確信を言葉にしながら、歯を噛み締めた。
どうすればその弱点を突けるのかが分からないからだ。
要は裏の裏をかけばいいということ。
しかし、こちらの思考を読まれているゆえにそれが難しい。女が自分に笑みを向けているのを感じる。こちらの考えは筒抜けだ。
対する相手の裏の手はぼかされており、万華鏡のように目まぐるしく変わっている。相手が実行するその直前まで確定はできない。
だが、裏の裏さえ突ければこちらが外さない限り、ほぼ確実に入れられるはずだ。
その理由は先に述べたように――しかし、そこまで分かっているのに手が打てない!
「っ!」
瞬間、突如走った頭痛にアランの意識は揺らいだ。
迫る女に立ち向かうクラウスとアンナの脳内映像が歪み、ぼやける。
時が緩慢に感じるほどの計算速度を維持しているせいか? 脳に負荷をかけすぎた? アランはそう思った。
しかし直後、アランは妙な感覚を覚えた。
(……?)
頭の中に砂利が散りばめられたかのような感覚。
それが騒音によるものだと、アランは何故か思った。
その音が声であることにも不思議とすぐ気付いた。
ゆえに、アランはそれに耳を傾けた。
「……を固めろ!」
「防御重視だ!」
「全員で身を寄せ合って各個撃破されるのを防ぐんだ!」
共感で伝わってきたものでは無い、じゃあ一体誰の声――それが分からなかったゆえにアランの意識は強く惹かれた。
声は続く。
「あやつの使う網のことをもう忘れたか?!」
「固まっていたら一網打尽にされる!」
これに場は静かになったが、それはまばたき一回分ほどの時間であった。
「ならば両方だ!」「味方を呼べ! 軍をここに集めろ!」
「いつでも密集出来る程度の距離で散開するんだ!」「まだ上にいる連中を飛び降りさせろ!」
「リックを先頭にした陣形にすべきだろう」「数を生かして正面玄関方向にいる兵士達と合流する時間を稼ぐんだ!」
「いいやカルロだ! 炎を主軸とした陣形にするべきだ!」「ただの兵士で時間稼ぎになるのか?」「合流した兵士達で壁を作り、この不利な場所から移動するんだ!」
「そもそも、移動なんて出来るのか? 時間稼ぎも怪しい」「絶対仲間を盾にされる!」「カルロがますます炎を使えなくなるぞ!」
「話が進んで無いぞ」「さっきも似たような話をした。繰り返してる」「だけど目の前の事態を追うだけで精一杯だった」「なんとかして女を止める手を、対抗する手段を見つけないと」
息つく間も無く繰り広げられるやり取りに、アランの頭痛はさらに酷くなった。
滅茶苦茶だ。議論がまとまる気配が無い。
この連中に対して声を上げたい。しかしどうすればそんなことが出来るのかが分からない。
誰か、なんとかしてくれ――アランがそんな思いを抱いた瞬間、その声は響いた。
「選択肢は数多くある。そしてその全てが理に適っているかもしれない」
女性の声? アランはそう感じた。
特別な存在なのか、その者が発言している間は静かになっている。
そしてその声は「だけど、」と言葉を繋げた。
「時間は無限では無く、選べるものも、出来る事も限られている。もしかしたら、正解はその中に一つしか無いかもしれない」
その言葉は場を静めるためだけのものかと思えたが、
「そしてその中から一つ選べというのであれば、私は『彼自身』の考えを推したい」
と、女性は自身の考えを述べた。
アランはもどかしさを感じていた。
なぜならば、混沌の弱点に気付いているからだ。
アランは混沌の秘密を、特徴を見抜きつつあった。
その一つは、計算を並列で行っているということ。
だが、計算能力の多くは表に出ている人格が使っている。自分との読み合いに負けないようにしているからだろう。
そして裏に控えている人格――いや、得体の知れない何かは補助的なことしか出来ていない。
そこを読み取るのは難しい。思考がバラバラにされているからだ。されど不可能では無い。ありえない思考、論理を組むことは無いからだ。どれとどれが繋がるのかは予想がつく。
それらが何かの条件で繋がり、表の人格と入れ替わっている。
後出し出来るゆえに隙が無い、対処のしようが無いように思える。
しかしそうでは無い。
先にも言ったように、計算能力の多くは表の人格が使っている。
ゆえに、
(あの後出しには弱点がある!)
アランは確信を言葉にしながら、歯を噛み締めた。
どうすればその弱点を突けるのかが分からないからだ。
要は裏の裏をかけばいいということ。
しかし、こちらの思考を読まれているゆえにそれが難しい。女が自分に笑みを向けているのを感じる。こちらの考えは筒抜けだ。
対する相手の裏の手はぼかされており、万華鏡のように目まぐるしく変わっている。相手が実行するその直前まで確定はできない。
だが、裏の裏さえ突ければこちらが外さない限り、ほぼ確実に入れられるはずだ。
その理由は先に述べたように――しかし、そこまで分かっているのに手が打てない!
「っ!」
瞬間、突如走った頭痛にアランの意識は揺らいだ。
迫る女に立ち向かうクラウスとアンナの脳内映像が歪み、ぼやける。
時が緩慢に感じるほどの計算速度を維持しているせいか? 脳に負荷をかけすぎた? アランはそう思った。
しかし直後、アランは妙な感覚を覚えた。
(……?)
頭の中に砂利が散りばめられたかのような感覚。
それが騒音によるものだと、アランは何故か思った。
その音が声であることにも不思議とすぐ気付いた。
ゆえに、アランはそれに耳を傾けた。
「……を固めろ!」
「防御重視だ!」
「全員で身を寄せ合って各個撃破されるのを防ぐんだ!」
共感で伝わってきたものでは無い、じゃあ一体誰の声――それが分からなかったゆえにアランの意識は強く惹かれた。
声は続く。
「あやつの使う網のことをもう忘れたか?!」
「固まっていたら一網打尽にされる!」
これに場は静かになったが、それはまばたき一回分ほどの時間であった。
「ならば両方だ!」「味方を呼べ! 軍をここに集めろ!」
「いつでも密集出来る程度の距離で散開するんだ!」「まだ上にいる連中を飛び降りさせろ!」
「リックを先頭にした陣形にすべきだろう」「数を生かして正面玄関方向にいる兵士達と合流する時間を稼ぐんだ!」
「いいやカルロだ! 炎を主軸とした陣形にするべきだ!」「ただの兵士で時間稼ぎになるのか?」「合流した兵士達で壁を作り、この不利な場所から移動するんだ!」
「そもそも、移動なんて出来るのか? 時間稼ぎも怪しい」「絶対仲間を盾にされる!」「カルロがますます炎を使えなくなるぞ!」
「話が進んで無いぞ」「さっきも似たような話をした。繰り返してる」「だけど目の前の事態を追うだけで精一杯だった」「なんとかして女を止める手を、対抗する手段を見つけないと」
息つく間も無く繰り広げられるやり取りに、アランの頭痛はさらに酷くなった。
滅茶苦茶だ。議論がまとまる気配が無い。
この連中に対して声を上げたい。しかしどうすればそんなことが出来るのかが分からない。
誰か、なんとかしてくれ――アランがそんな思いを抱いた瞬間、その声は響いた。
「選択肢は数多くある。そしてその全てが理に適っているかもしれない」
女性の声? アランはそう感じた。
特別な存在なのか、その者が発言している間は静かになっている。
そしてその声は「だけど、」と言葉を繋げた。
「時間は無限では無く、選べるものも、出来る事も限られている。もしかしたら、正解はその中に一つしか無いかもしれない」
その言葉は場を静めるためだけのものかと思えたが、
「そしてその中から一つ選べというのであれば、私は『彼自身』の考えを推したい」
と、女性は自身の考えを述べた。
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