Chivalry - 異国のサムライ達 -

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)

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第六章 アランの力は遂に一つの頂点に

第四十五話 伝説との邂逅(4)

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 そのイメージは即座に共有され、皆の頭の中で一つの映像となった。
 すると次の瞬間、女はその映像と全く同じものを上に、天井に向けて放った。

「「「!」」」

 下から溢れ、飲み込むように広がる光る嵐。
 数多くの者がこれに驚きと恐怖の顔を浮かべた。
 この圧倒的暴力を前に、どうすればいいのか分からなかった。
 しかしただ数人、アランやクラウスのような、既に経験したことのある人間だけが違う表情を浮かべていた。

「父上!」「カルロ様!」

 そしてアランとクラウスは同時に叫び、動いた。
 二人とも考えはまとまっていない。
 ただ、「父を守らなければ」「カルロ将軍を死なせてはならない」と思っただけだ。
 庇うように二人がカルロの傍に並び立つ。
 すると次の瞬間、地響きと同時に、床に亀裂が走った。
 そしてその亀裂がぼんやりと光ったように見えた直後、裂け目が広がり、床は崩壊した。

「うおぁ?!」

 亀裂から溢れた嵐の余波と、浮遊感に誰かが叫び声を上げる。
 落下を始めるアラン達の体。

「!」

 瞬間、アランは気付いた。
 女の意識が、目線がこちらに向いているのを。その右手に握られている剣が既に次の輝きを宿しつつあるのを。
 同時に、しまったと思った。
 女の狙いはあくまでも俺なのだ。父に近付くべきでは無かったと。
 そう思った瞬間、

「アラン様!」

 クラウスの声が響いた。
 それは叱咤であり、激励でもあった。
 ならば、やるしかないと。
 アランはその声に、

「雄応ッ!」

 最大限の気勢を持って答えた。

「!?」

 その直後、二人の真後ろにいるカルロが大きく目を見開いた。
 それは圧倒的光景であった。
 目の前で描かれたそれは、初めて見る芸術であった。

「「でぇえええやっ!」」

 一つの気勢と共に描かれる無数の剣閃。
 濁流の曲線と刀が描く直線が寸分違わずぶつかり合うその凄まじさに、カルロは不謹慎にも心を奪われた。
 しかしその感動は長くは続かず、

「!」

 すぐに緊張感に変わった。
 嵐を切り払った先に見えたのは、前傾姿勢を取る女の姿。
 着地を狙われている! アランのその叫びが全員の心に響いた直後、

「疾ッ!」

 今度は鋭い声と金属音が右から響いた。
 アランの視界の右端に黒い影が映り込む。
 それが誰かは確認するまでも無く感じ取れた。
 クレアだ。
 しかしなぜ彼女は誰よりも早く、地面に降りる前に動けたのか。
 その謎を解く鍵は金属音にあった。
 ルイスからもらった義足で崩れ落ちる柱を蹴ったのだ。
 しかしアランがその答えを導くことは無かった。
 アランの意識は違う音の方に向いていた。
 その音はクレアの胸から響いていた。
 クレアは既に人外の域であった。その心臓は速く、そして痛いほどに高鳴っていた。
 クレアの影が女に食らい付く。
 が、次の瞬間、

「う?!」

 突進貫手の型で女の横を通り抜けたクレアは、焦りを含んだ声を漏らした。
 そしてその声が広間に響き渡るよりも早く、クレアの視界は赤く染まった。
 女の返り血では無い。
 その赤色は突き出されたクレアの右腕から生まれていた。
 まるで噴水の如く。
 かろうじて繋がっている、そのように見えるほどの傷の深さ。
 クレアの狙いは武器破壊、または小手であった。
 しかしそれを読まれ、迎え討たれたのだ。
 迎撃といっても実際は撫でられただけ。しかし自身の速度そのものが仇となった。
 やはり、この速度の世界で戦うには高い計算能力が必要なのだ。クレアは自身の速度を制御出来なかった。迎撃に対して何の対処も出来なかったのだ。
 クレア自身の感知は魔力の流れが読める程度。計算はほとんどアランに頼っている。
 そしてクレア自身の計算能力が高まることは無い、そのような技術を持たない。
 ならば、その答えに気づいたアランは即座に実行した。

「!」

 瞬間、クレアはかつて経験したことの無い感覚に包まれた。
 全てが緩慢になったような、時間が少し遅くなったような感覚。
 クレアの頭には大量の情報が、アランが導き出した計算結果が流れ込み始めていた。
 頭の中にある台本が凄まじい速度でめくられていく。

『背後にいる女がこちらに振り返りながら攻撃を仕掛けて来る。それは首を狙った回転切り――訂正、上段回し蹴り――訂正、振り返り胴薙ぎ――訂正、』

 次々と訂正され、書き換えられていく台本。
 アランが女の思考を読み、それに気付いた女が切り替えている。
 どこまでも続くかのような、終わらない読み合い。
 アランはクレアよりも緩やかな、時間が止まったかのような世界でその計算を行っていた。
 音は無い。
 されど音波の情報は取得、解析している。女の筋肉の動きを全て拾っている。
 そして静かでも無い。情報が、数字がまるで洪水のように、アランの脳内でうねっている。焼け付くような痛みを伴うほどに。
 あの時と、ラルフと戦った時と同じ手である。アランは神楽の範囲を狭めたのだ。計算範囲や対象を狭め、それによって余った処理能力を別のところにあてているのだ。
 そしてその計算速度は、

(……私と互角?!)

 女を驚かせるほどであった。
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