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第六章 アランの力は遂に一つの頂点に

第四十四話 再戦(16)

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   ◆◆◆

「「……ぐっ!」」

 二人の口から同時に苦悶の声が漏れる。
 そして同時に崩れる二人の膝。
 地に着くのもまた同じ――

「……っ!」

 かと思えたが、寸前のところで女は堪えた。
 先のぶつかり合いの結果は相打ちであった。
 雲水が見せた一撃は突進突き。
 突きと言えば聞こえが良いが、実際はただの体当たりであった。水鏡流の構えのまま腕を固定し、突っ込んだだけだ。
 そして対する女が繰り出したのは両手。
 それは諸手突きの初動のように見えたが、右手と左手で軌道が違っていた。
 女は雲水の攻撃を、突進突きを読んでいた。
 左手で叩き払い、右手で貫く、女はその未来を描いていた。
 のだが――

「!」

 予想していなかったことが起きた。
 雲水の刀が折れたのだ。
 女は計算出来ていなかったのだ。この激戦で雲水の刀が消耗していたことを。
 そして直後に雲水は型を変えた。
 手首を捻り、正面に向けていた剣先を横に向ける。
 残った短い刃で放つ胴薙ぎであった。
 これを女は右手で迎撃しようとした。
 そして二つの光の軌跡は綺麗に交差した。

「くっ……」

 その一撃の結果が刻み込まれ、赤く染まりつつある脇腹を押さえながら女は立ち上がり、振り返った。
 雲水がまだ生きていることを女は分かっていた。
 放った迎撃の右拳は折れた刀を握る雲水の手を砕いた。
 が、それでも雲水の一撃は止まらなかった。軌道が少し逸れただけであった。
 しかしそれは自分の拳も同じであった。
 脇腹に熱いものが触れたように感じた瞬間、自分の拳は雲水の胸に突き刺さった。
 胸骨を砕いた感触がまだ拳に残っている。
 致命傷に至っているかどうか際どい、それほどの感触。
 だが、それでもまだ雲水は生きている。感じる。

(ならば、)

 やることは一つだけだ、女は心の中でそう叫びながら膝を地に着けたままの雲水に向かって構えた。
 が、その瞬間、

「……?!」

 女は驚きに目を見開いた。
 こちらが構えたと同時に、雲水から強烈な戦意が放たれたのだ。
 雲水の心はまだ死んでいない。迎え撃つつもりだ。
 だが、

(出来るのか?! その傷で?! その状態で?!)

 当然の疑問を女は雲水に向かって叩き付けた。
 しかし答えが返ってくるはずも無し。
 そして二人はにらみ合った。
 どちらも、何かを待っていた。
 女は判断出来る情報を。
 雲水は女が仕掛けてくるのを。体の自由が戻るのを。
 奇しくも、その何かを二人は同時に手に入れた。

「……!」

 それに、女は再び目を見開いた。
 じりと、雲水が前に動いたのだ。
 片膝を地に着けたままの引きずるような前進。
 しかしその動作が女にとっては決定的なものになった。
 女は直後に雲水に対して背を向け、地を蹴った。
 まだ動けるとはいえ、追って来れるほどでは無いことは明らかだったからだ。
 目的はあくまでアランなのだ。
 走れなくなった相手と博打を張る必要は一切無い。
 双方の距離が瞬く間に離れる。
 雲水は遠ざかるその背中に対し、

(待て……!)

 と、出来もしない言葉を叩き付けた。
 声は出せなかった。
 肺が片方潰されたからだ。
 遠ざかる女の影に向かって戦意を、言葉を放ち続ける。
 しかし体は動かない。
 思考が薄れていく。
 まるで体と脳の接続が少しずつ途切れていくような感覚。
 雲水はその感覚に精一杯抗いながら、叫んだ。

(おのれ……不甲斐無し!)

 奇妙なことに、雲水が放った最後の言葉は自身への叱咤であった。
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