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第六章 アランの力は遂に一つの頂点に
第四十四話 再戦(10)
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◆◆◆
「「「……!」」」
瞬間、アラン達はそれの凄まじさに表情を変えた。
しかし、リックとクレアだけは少し違う顔を作っていた。
自分達が知るものよりも、高度なものであったからだ。
◆◆◆
二つの影が交錯する。
目が比較的良い者にはそう見えた。
そうでない者には二つの閃光がぶつかったようにしか、または単純に光ったようにしか見えなかった。
何度も何度もぶつかり合う、二つの影。
感知が無くては到底付いていけぬ速さ。
その凄まじさに、
(これが人間の戦いなのか?!)
という心の声が場に響いた。
誰の声なのかは分からなかった。
むしろそれはどうでも良かった。
ぶつかり合っている雲水と女以外は全員そう思っていたからだ。
いや、全員では無かった。
ある一人は違っていた。
それはバージル。
絶え間無く、巨大な三日月を連射している。
闇雲では無い、ちゃんと狙ってだ。
そんなことが出来るのは、雲水の補助を受けているから、「ここに撃て」という指示を受けているからだ。
そして間も無く、そこにもう一人が加わった。
それはやはりカイル。
鎖の届かぬ距離ゆえに援護手段は光弾。
負傷のせいで素早い離脱が出来ないカイルはこれ以上近付くことが出来ない。
しかしそれでも、その距離であっても、精鋭級であるカイルの光弾は十分な精度と殺傷力を有していた。
影と閃光が衝突を繰り返し、そこに三日月と光弾が乱れ飛ぶ。
女に加勢している男達や街を守る兵士達の攻撃も混じっているために、目ではどちらが有利なのかまったく分からない。
感知を使える者には雲水が積極的に攻めているように感じられた。
バージルとカイルが加わってから状況が雲水の方に傾いたように思える。
しかしそれは間違いであった。
女は温存しているだけであった。
この後、カルロとアンナとの戦いが控えているからだ。
そして雲水が積極的に攻撃している理由は、そうしなければならないからだ。
バージルとカイルを守るためである。
女がそのように、そうするしか無いようにけしかけている。
意識をわざとバージルとカイルの方に向け、雲水を挑発している。
理由はもう一つ。
雲水の技術がまだ完成の域に達していないことを見切ったからだ。
自滅させることが女の狙い。
そしてその成果はすぐに雲水の呼吸に表れた。
「ハッ、ハッ、ぜっ、ごほっ!」
雲水の口から鉄の匂いが漂う。
クレアよりも上の域に達しているのは間違いないが、やはり雲水の技術は女と比べるとまだ未熟。
しかし、何故二人はこうも長く動けるのか。
その秘密は魔力を生む臓器の使い方にあった。
この技は臓器への負担が大きく、ゆえに長く使えない。
ならば、使う時間を出来るだけ短くすればいい。
魔力を使う、出力するその瞬間に合わせて、臓器を動かすのだ。
また、全身に魔力を通わせる必要も無い。
必要な部分、攻撃ならば肩と腕に、移動ならば足だけに、という具合にだ。
そうすれば臓器への負担をさらに減らせる。
しかしこの技術は高い感知技術が無ければ成立しない。
敵の動きが読めなければ、どの部位を動かすべきか、どこに魔力を注ぐべきかの判断がつかないからだ。
出力が大きい分、読み間違いが即、死に繋がる。
実のところ、この戦いでは奥義の技量差よりも、雲水の写しが弱くなっていることの方が大きく影響していた。
その事実に気付いた瞬間、
「雄雄雄ッ!」
雲水は吼えた(ほえた)。
雲水の影がさらに加速する。
力尽きる前に押し切る、雲水にはそれしか思いつかなかった。
◆◆◆
「……っ」
いつからか、クレアは唇を噛んでいた。
歯痒かった。そして悔しかった。
なぜ、自分はこれを思いつかなかったのかと。
気付けるはずだった。
何度もリックに対して言ったでは無いか、父から何度も教わったではないか、重要なのは「制御力」と「集中力」であると。
そうだ。必要な時に、必要なところにだけ「集中」させる、それが重要なのだ。
なぜ気づけなかった。そのための訓練をあれほど積んでいたのに。
「……っ」
直後、奥歯が軋んだ音がクレアの頭に響いた。
いつの間にか奥歯を噛み締めていたのだ。
焼け付くような感情が、いつの間にかそうさせていた。
その感覚は隣にいるリックに伝わっていたが、
「……」
普段見たことの無い母のそんな様子に、何も言うことは出来なかった。
「「「……!」」」
瞬間、アラン達はそれの凄まじさに表情を変えた。
しかし、リックとクレアだけは少し違う顔を作っていた。
自分達が知るものよりも、高度なものであったからだ。
◆◆◆
二つの影が交錯する。
目が比較的良い者にはそう見えた。
そうでない者には二つの閃光がぶつかったようにしか、または単純に光ったようにしか見えなかった。
何度も何度もぶつかり合う、二つの影。
感知が無くては到底付いていけぬ速さ。
その凄まじさに、
(これが人間の戦いなのか?!)
という心の声が場に響いた。
誰の声なのかは分からなかった。
むしろそれはどうでも良かった。
ぶつかり合っている雲水と女以外は全員そう思っていたからだ。
いや、全員では無かった。
ある一人は違っていた。
それはバージル。
絶え間無く、巨大な三日月を連射している。
闇雲では無い、ちゃんと狙ってだ。
そんなことが出来るのは、雲水の補助を受けているから、「ここに撃て」という指示を受けているからだ。
そして間も無く、そこにもう一人が加わった。
それはやはりカイル。
鎖の届かぬ距離ゆえに援護手段は光弾。
負傷のせいで素早い離脱が出来ないカイルはこれ以上近付くことが出来ない。
しかしそれでも、その距離であっても、精鋭級であるカイルの光弾は十分な精度と殺傷力を有していた。
影と閃光が衝突を繰り返し、そこに三日月と光弾が乱れ飛ぶ。
女に加勢している男達や街を守る兵士達の攻撃も混じっているために、目ではどちらが有利なのかまったく分からない。
感知を使える者には雲水が積極的に攻めているように感じられた。
バージルとカイルが加わってから状況が雲水の方に傾いたように思える。
しかしそれは間違いであった。
女は温存しているだけであった。
この後、カルロとアンナとの戦いが控えているからだ。
そして雲水が積極的に攻撃している理由は、そうしなければならないからだ。
バージルとカイルを守るためである。
女がそのように、そうするしか無いようにけしかけている。
意識をわざとバージルとカイルの方に向け、雲水を挑発している。
理由はもう一つ。
雲水の技術がまだ完成の域に達していないことを見切ったからだ。
自滅させることが女の狙い。
そしてその成果はすぐに雲水の呼吸に表れた。
「ハッ、ハッ、ぜっ、ごほっ!」
雲水の口から鉄の匂いが漂う。
クレアよりも上の域に達しているのは間違いないが、やはり雲水の技術は女と比べるとまだ未熟。
しかし、何故二人はこうも長く動けるのか。
その秘密は魔力を生む臓器の使い方にあった。
この技は臓器への負担が大きく、ゆえに長く使えない。
ならば、使う時間を出来るだけ短くすればいい。
魔力を使う、出力するその瞬間に合わせて、臓器を動かすのだ。
また、全身に魔力を通わせる必要も無い。
必要な部分、攻撃ならば肩と腕に、移動ならば足だけに、という具合にだ。
そうすれば臓器への負担をさらに減らせる。
しかしこの技術は高い感知技術が無ければ成立しない。
敵の動きが読めなければ、どの部位を動かすべきか、どこに魔力を注ぐべきかの判断がつかないからだ。
出力が大きい分、読み間違いが即、死に繋がる。
実のところ、この戦いでは奥義の技量差よりも、雲水の写しが弱くなっていることの方が大きく影響していた。
その事実に気付いた瞬間、
「雄雄雄ッ!」
雲水は吼えた(ほえた)。
雲水の影がさらに加速する。
力尽きる前に押し切る、雲水にはそれしか思いつかなかった。
◆◆◆
「……っ」
いつからか、クレアは唇を噛んでいた。
歯痒かった。そして悔しかった。
なぜ、自分はこれを思いつかなかったのかと。
気付けるはずだった。
何度もリックに対して言ったでは無いか、父から何度も教わったではないか、重要なのは「制御力」と「集中力」であると。
そうだ。必要な時に、必要なところにだけ「集中」させる、それが重要なのだ。
なぜ気づけなかった。そのための訓練をあれほど積んでいたのに。
「……っ」
直後、奥歯が軋んだ音がクレアの頭に響いた。
いつの間にか奥歯を噛み締めていたのだ。
焼け付くような感情が、いつの間にかそうさせていた。
その感覚は隣にいるリックに伝わっていたが、
「……」
普段見たことの無い母のそんな様子に、何も言うことは出来なかった。
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