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第六章 アランの力は遂に一つの頂点に
第四十四話 再戦(2)
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◆◆◆
「走れ! 走れ!」
城内はあっという間に喧騒に包まれた。
「どうした、遅いぞ! 呼吸と足並みを揃えろと、前後の間隔を意識しろと何度も教えただろう!」
隊長らしき男が廊下を走る兵士達に活を入れる。
しかし目的地は叫ばない。
その必要が無いからだ。全員が自身の配置と役割をきちんと把握しているからだ。
今求められるのは、声にすべきものは速さだけ。
しかし感知の無い彼らがどうやって戦いの始まりを察知したのか。
それは街の方から上がった一つの狼煙(のろし)。
たったそれだけである。この兵士達はそのたった一つの情報を信じて動いているのだ。
そして間も無く、アラン達がその喧騒の中に姿を現した。
しかしカルロの姿はその中に無かった。
走れないからだ。だからカルロは一足先に「最も手堅い場所」に向かった。
「クラウス!」
そしてアランは喧騒の中で叫んだ。
あれをやるぞ、と叫ぼうとした。
しかしその直前、
「アラン様」
突如頭の中に響いた呼び声に、アランは振り返った。
そこにいたのはルイス。
すぐ後ろにはクレアとリックが並んでいる。
感知があるゆえに彼らがいることは分かっていた。ゆえにアランの顔に驚きの色は無い。
ただ、疑問だった。
どうしてこうも都合良く、こんな場所にいるのか。
その理由をルイスは答えた。
「将軍のお見舞いに来たのですが……いやはや、とんでもないことに巻き込まれてしまいましたよ」
その回答が嘘であることは感知を使わずとも分かった。
ルイス殿、あなたは一体何者なんだ。
「彼ら」と何か関係があるのか?
疑問が浮かんでは消えていく。
「……」
しかしルイスはそのいずれにも答えなかった。
だが、次の瞬間、ルイスは少し気が変わった。
一つだけ答えてもいい、そう思ったルイスは口を開こうとしたが、
「お客人、ここは危険です。どうか応接間……いえ、奥にある客間の方へ」
ルイス達を追いかけてきた執事が、場に声を割り込ませた。
これにルイスは「分かりました」と答えながら、執事の方に振り返った。
リックとクレアもルイスと同じように振り返る。
が、クレアは向けられた執事の視線に対して首を振った。
「いえ、私達はここで結構」
襲ってきている連中は教会側の人間だろう、そう思っているからそう答えた。
その答えは今のアランにとって心強かった。
しかし不安は拭えない。
アランはその原因の一つである人物の背中に、意識の線を向けた。
「……」
気付いているはずだった。しかしルイスは何も答えなかった。
ただ一言、
「御武運を」
という声が頭の中に響いた。
「……」
アランはその励ましの声に何も返さず、
「……やるぞ、クラウス!」
気を取り直し、クラウスの方に向き直った。
そしてその言葉を待っていたクラウスは頷きを返すと共に、抜刀した。
白刃を鏡とするように、剣に祈るように眼前に構える。
一呼吸遅れてアランも同じ構えを。
そして同時に発光する二人の刀身。
鏡合わせのまま、その輝く剣を頭上に掲げるアランとクラウス。
何をするつもりなのか、クレアとリックはそんな疑問が含まれた視線を二人に向けた。
次の瞬間、
「「!?」」
鳴り響いた金属音と共に、溢れた光の輪と共に、二人は目を見開いた。
「「……!」」
少し遅れてアンナとクリスも似たような表情を。
そして四人の心には同じ情景が広がっていた。
空から城を見下ろしているかのような感覚。
まるで鳥になったかのよう。
いや、鳥なんてものじゃない。
どこに兵士が、何人いるのか、何を身につけているのかなどの詳細まで分かる。
(これは……)
そして四人の中で真っ先に理解したのはクリスであった。
これはアランとクラウス、二人の力だけによるものでは無いことを。
他人の目を、耳を、感覚を利用していることを。共感し、連鎖し、協力していることを。
クリスがその事実を驚きの言葉にしようとした瞬間、
「これは……?!」
クレアが先に口を開いた。
元々感知の素質があるクレアも気付いたのだ。
「人間にこんなことが……!?」
クレアは驚きと僅かな恐怖が混じった顔でそう言葉を続けた。
「……」
しかし対照的に、リックの表情は静かなものに戻っていた。
経験したことがある感覚だったからだ。
(これは、この感じは、あの時の、あの戦いの――)
リックは思い出していた。
アランと一対一で死合ったあの時のことを。
そしてリックは気付き、思った。
(まさか、自分が『夢想の境地』を見出せたのは――)
お前の、この力の影響によるものなのか、そんな思いを込めた眼差しをリックはアランに向けた。
しかし答えは返って来ない。
「……」
だからリックは、意識を、視線を迫る脅威の方に向けた。
「走れ! 走れ!」
城内はあっという間に喧騒に包まれた。
「どうした、遅いぞ! 呼吸と足並みを揃えろと、前後の間隔を意識しろと何度も教えただろう!」
隊長らしき男が廊下を走る兵士達に活を入れる。
しかし目的地は叫ばない。
その必要が無いからだ。全員が自身の配置と役割をきちんと把握しているからだ。
今求められるのは、声にすべきものは速さだけ。
しかし感知の無い彼らがどうやって戦いの始まりを察知したのか。
それは街の方から上がった一つの狼煙(のろし)。
たったそれだけである。この兵士達はそのたった一つの情報を信じて動いているのだ。
そして間も無く、アラン達がその喧騒の中に姿を現した。
しかしカルロの姿はその中に無かった。
走れないからだ。だからカルロは一足先に「最も手堅い場所」に向かった。
「クラウス!」
そしてアランは喧騒の中で叫んだ。
あれをやるぞ、と叫ぼうとした。
しかしその直前、
「アラン様」
突如頭の中に響いた呼び声に、アランは振り返った。
そこにいたのはルイス。
すぐ後ろにはクレアとリックが並んでいる。
感知があるゆえに彼らがいることは分かっていた。ゆえにアランの顔に驚きの色は無い。
ただ、疑問だった。
どうしてこうも都合良く、こんな場所にいるのか。
その理由をルイスは答えた。
「将軍のお見舞いに来たのですが……いやはや、とんでもないことに巻き込まれてしまいましたよ」
その回答が嘘であることは感知を使わずとも分かった。
ルイス殿、あなたは一体何者なんだ。
「彼ら」と何か関係があるのか?
疑問が浮かんでは消えていく。
「……」
しかしルイスはそのいずれにも答えなかった。
だが、次の瞬間、ルイスは少し気が変わった。
一つだけ答えてもいい、そう思ったルイスは口を開こうとしたが、
「お客人、ここは危険です。どうか応接間……いえ、奥にある客間の方へ」
ルイス達を追いかけてきた執事が、場に声を割り込ませた。
これにルイスは「分かりました」と答えながら、執事の方に振り返った。
リックとクレアもルイスと同じように振り返る。
が、クレアは向けられた執事の視線に対して首を振った。
「いえ、私達はここで結構」
襲ってきている連中は教会側の人間だろう、そう思っているからそう答えた。
その答えは今のアランにとって心強かった。
しかし不安は拭えない。
アランはその原因の一つである人物の背中に、意識の線を向けた。
「……」
気付いているはずだった。しかしルイスは何も答えなかった。
ただ一言、
「御武運を」
という声が頭の中に響いた。
「……」
アランはその励ましの声に何も返さず、
「……やるぞ、クラウス!」
気を取り直し、クラウスの方に向き直った。
そしてその言葉を待っていたクラウスは頷きを返すと共に、抜刀した。
白刃を鏡とするように、剣に祈るように眼前に構える。
一呼吸遅れてアランも同じ構えを。
そして同時に発光する二人の刀身。
鏡合わせのまま、その輝く剣を頭上に掲げるアランとクラウス。
何をするつもりなのか、クレアとリックはそんな疑問が含まれた視線を二人に向けた。
次の瞬間、
「「!?」」
鳴り響いた金属音と共に、溢れた光の輪と共に、二人は目を見開いた。
「「……!」」
少し遅れてアンナとクリスも似たような表情を。
そして四人の心には同じ情景が広がっていた。
空から城を見下ろしているかのような感覚。
まるで鳥になったかのよう。
いや、鳥なんてものじゃない。
どこに兵士が、何人いるのか、何を身につけているのかなどの詳細まで分かる。
(これは……)
そして四人の中で真っ先に理解したのはクリスであった。
これはアランとクラウス、二人の力だけによるものでは無いことを。
他人の目を、耳を、感覚を利用していることを。共感し、連鎖し、協力していることを。
クリスがその事実を驚きの言葉にしようとした瞬間、
「これは……?!」
クレアが先に口を開いた。
元々感知の素質があるクレアも気付いたのだ。
「人間にこんなことが……!?」
クレアは驚きと僅かな恐怖が混じった顔でそう言葉を続けた。
「……」
しかし対照的に、リックの表情は静かなものに戻っていた。
経験したことがある感覚だったからだ。
(これは、この感じは、あの時の、あの戦いの――)
リックは思い出していた。
アランと一対一で死合ったあの時のことを。
そしてリックは気付き、思った。
(まさか、自分が『夢想の境地』を見出せたのは――)
お前の、この力の影響によるものなのか、そんな思いを込めた眼差しをリックはアランに向けた。
しかし答えは返って来ない。
「……」
だからリックは、意識を、視線を迫る脅威の方に向けた。
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