上 下
342 / 586
第六章 アランの力は遂に一つの頂点に

第四十三話 試練の時、来たる(33)

しおりを挟む
   ◆◆◆

 一方、

「……っ」

 シャロンはアラン達がカードゲームに興じる様子を悔しそうに調べていた。
 今日は闇夜。だから一人でもやれそうだと思った。
 なのにアランが兵士達がいる詰所に入ってしまった。

(それに、まさかアンナまで……)

 さらにその奇妙な珍客に惹かれたのか、夜勤の兵士達が集まってきている。
 現時点で既に、誰にも気付かれずに事を済ませるのは不可能な数になっている。ちょっとした軍隊だ。
 それでも、アンナが来なければ一人で済ませる自信は十分にあった。
 もし、あの狭い場所で炎を放たれたら回避不能だろう。
 アンナが兄を巻き込む恐れのある攻撃をする可能性は低いかもしれない。
 しかし零とは言い切れない。

「……っ」

 だから迷っている。
 その天秤はまだ水平を保っている。
 が、「味方と協力した方が安全でいいのでは?」という考えがその拮抗を傾かせ始めた。

(どうしたものか……)

 シャロンはその傾きを感じながら、考えを巡らせていった。

   ◆◆◆

 一方――

(今日はあきらめてくれたかな?)

 ルイスは城から離れるように移動し始めたシャロンの様子をうかがいながら、安堵の表情を浮かべていた。
 ご想像の通り、今夜の異常な動きには彼が関わっている。
 しかしアランとアンナを誘導したのはルイスでは無い。
 その仕事をやったのはナチャだ。
 どうやらアランの魂は彼の御眼鏡に適ったようだ。だからこんなことを自らやってくれた。
 しかしそれは「今晩だけ」になる可能性がある。
 彼の「本体」は既に移動しているからだ。「分身」は大した持久力を持たない。
 それはつまり、これから毎晩アランの世話をしなければならないということ。

「ふう……」

 ルイスはため息を吐きながら、その重さを実感した。

(本当にこれは疲れる……)

 シャロンに気付かれないようにやるのは骨が折れる。既に何かがおかしいとは思われているだろう。

(しかしまあ、それでも、)

 今日はしのいだ、そんな風に気を取り直しながらルイスは次の行動を考えた。
 まずは食事だ。
 栄養を取らないと。肉に卵に野菜。そしてその後に睡眠だ。

「飯屋の主人を叩き起こさないとな……」

 そんな事を呟きながら、ルイスはシャロンの後を追うように歩き始めた。

   ◆◆◆

 二週間後――

「……」

 真上に昇った太陽のもと、シャロンは森の中からアラン達がいる街を眺めていた。
 傍目には一人でそうしているように見える。
 が、今の彼女は一人では無かった。
 感知を巡らせば明らかであった。森の中に数多くの人間が潜んでいることが。
 そして、その内の一人が近づいて来ているのをシャロンは感じ取っていた。

「……」

 近付いてくるその気配を、シャロンはうんざりと感じていた。
 相手も感知持ちである。ゆえにその感情を読まれる可能性がある。
 が、シャロンは隠そうとはしなかった。
 本当にそいつのことが嫌いだからだ。敵意すら滲むほどに。
 が、その者はシャロンが放つその鋭い感情を意にも介さず、声をかけてきた。

「おやおや、これはこれは、シャロンじゃあないか」

 その老人はまるでシャロンだと分かっていなかったかのように喋った。
 シャロンはその見え透いた嘘を鬱陶しく感じながら、声を返した。

「……久しぶりね、デズモンド」

 この老人のことを覚えている読者がいたら驚嘆に値する。それほどまでに登場回数が少なく、しかも目立っていないからだ。
 この老人はあの収容所の管理人をしていた男だ。
 しかしなぜそのデズモンドがこの場にいるのか。
 その理由をデズモンドは自ら喋り始めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫を愛することはやめました。

杉本凪咲
恋愛
私はただ夫に好かれたかった。毎日多くの時間をかけて丹念に化粧を施し、豊富な教養も身につけた。しかし夫は私を愛することはなく、別の女性へと愛を向けた。夫と彼女の不倫現場を目撃した時、私は強いショックを受けて、自分が隣国の王女であった時の記憶が蘇る。それを知った夫は手のひらを返したように愛を囁くが、もう既に彼への愛は尽きていた。

【完結】王子は聖女と結婚するらしい。私が聖女であることは一生知らないままで

雪野原よる
恋愛
「聖女と結婚するんだ」──私の婚約者だった王子は、そう言って私を追い払った。でも、その「聖女」、私のことなのだけど。  ※王国は滅びます。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

形だけの正妃

杉本凪咲
恋愛
第二王子の正妃に選ばれた伯爵令嬢ローズ。 しかし数日後、側妃として王宮にやってきたオレンダに、王子は夢中になってしまう。 ローズは形だけの正妃となるが……

別に構いませんよ、離縁するので。

杉本凪咲
恋愛
父親から告げられたのは「出ていけ」という冷たい言葉。 他の家族もそれに賛同しているようで、どうやら私は捨てられてしまうらしい。 まあいいですけどね。私はこっそりと笑顔を浮かべた。

何を間違った?【完結済】

maruko
恋愛
私は長年の婚約者に婚約破棄を言い渡す。 彼女とは1年前から連絡が途絶えてしまっていた。 今真実を聞いて⋯⋯。 愚かな私の後悔の話 ※作者の妄想の産物です 他サイトでも投稿しております

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

処理中です...