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第六章 アランの力は遂に一つの頂点に
第四十三話 試練の時、来たる(33)
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◆◆◆
一方、
「……っ」
シャロンはアラン達がカードゲームに興じる様子を悔しそうに調べていた。
今日は闇夜。だから一人でもやれそうだと思った。
なのにアランが兵士達がいる詰所に入ってしまった。
(それに、まさかアンナまで……)
さらにその奇妙な珍客に惹かれたのか、夜勤の兵士達が集まってきている。
現時点で既に、誰にも気付かれずに事を済ませるのは不可能な数になっている。ちょっとした軍隊だ。
それでも、アンナが来なければ一人で済ませる自信は十分にあった。
もし、あの狭い場所で炎を放たれたら回避不能だろう。
アンナが兄を巻き込む恐れのある攻撃をする可能性は低いかもしれない。
しかし零とは言い切れない。
「……っ」
だから迷っている。
その天秤はまだ水平を保っている。
が、「味方と協力した方が安全でいいのでは?」という考えがその拮抗を傾かせ始めた。
(どうしたものか……)
シャロンはその傾きを感じながら、考えを巡らせていった。
◆◆◆
一方――
(今日はあきらめてくれたかな?)
ルイスは城から離れるように移動し始めたシャロンの様子をうかがいながら、安堵の表情を浮かべていた。
ご想像の通り、今夜の異常な動きには彼が関わっている。
しかしアランとアンナを誘導したのはルイスでは無い。
その仕事をやったのはナチャだ。
どうやらアランの魂は彼の御眼鏡に適ったようだ。だからこんなことを自らやってくれた。
しかしそれは「今晩だけ」になる可能性がある。
彼の「本体」は既に移動しているからだ。「分身」は大した持久力を持たない。
それはつまり、これから毎晩アランの世話をしなければならないということ。
「ふう……」
ルイスはため息を吐きながら、その重さを実感した。
(本当にこれは疲れる……)
シャロンに気付かれないようにやるのは骨が折れる。既に何かがおかしいとは思われているだろう。
(しかしまあ、それでも、)
今日はしのいだ、そんな風に気を取り直しながらルイスは次の行動を考えた。
まずは食事だ。
栄養を取らないと。肉に卵に野菜。そしてその後に睡眠だ。
「飯屋の主人を叩き起こさないとな……」
そんな事を呟きながら、ルイスはシャロンの後を追うように歩き始めた。
◆◆◆
二週間後――
「……」
真上に昇った太陽のもと、シャロンは森の中からアラン達がいる街を眺めていた。
傍目には一人でそうしているように見える。
が、今の彼女は一人では無かった。
感知を巡らせば明らかであった。森の中に数多くの人間が潜んでいることが。
そして、その内の一人が近づいて来ているのをシャロンは感じ取っていた。
「……」
近付いてくるその気配を、シャロンはうんざりと感じていた。
相手も感知持ちである。ゆえにその感情を読まれる可能性がある。
が、シャロンは隠そうとはしなかった。
本当にそいつのことが嫌いだからだ。敵意すら滲むほどに。
が、その者はシャロンが放つその鋭い感情を意にも介さず、声をかけてきた。
「おやおや、これはこれは、シャロンじゃあないか」
その老人はまるでシャロンだと分かっていなかったかのように喋った。
シャロンはその見え透いた嘘を鬱陶しく感じながら、声を返した。
「……久しぶりね、デズモンド」
この老人のことを覚えている読者がいたら驚嘆に値する。それほどまでに登場回数が少なく、しかも目立っていないからだ。
この老人はあの収容所の管理人をしていた男だ。
しかしなぜそのデズモンドがこの場にいるのか。
その理由をデズモンドは自ら喋り始めた。
一方、
「……っ」
シャロンはアラン達がカードゲームに興じる様子を悔しそうに調べていた。
今日は闇夜。だから一人でもやれそうだと思った。
なのにアランが兵士達がいる詰所に入ってしまった。
(それに、まさかアンナまで……)
さらにその奇妙な珍客に惹かれたのか、夜勤の兵士達が集まってきている。
現時点で既に、誰にも気付かれずに事を済ませるのは不可能な数になっている。ちょっとした軍隊だ。
それでも、アンナが来なければ一人で済ませる自信は十分にあった。
もし、あの狭い場所で炎を放たれたら回避不能だろう。
アンナが兄を巻き込む恐れのある攻撃をする可能性は低いかもしれない。
しかし零とは言い切れない。
「……っ」
だから迷っている。
その天秤はまだ水平を保っている。
が、「味方と協力した方が安全でいいのでは?」という考えがその拮抗を傾かせ始めた。
(どうしたものか……)
シャロンはその傾きを感じながら、考えを巡らせていった。
◆◆◆
一方――
(今日はあきらめてくれたかな?)
ルイスは城から離れるように移動し始めたシャロンの様子をうかがいながら、安堵の表情を浮かべていた。
ご想像の通り、今夜の異常な動きには彼が関わっている。
しかしアランとアンナを誘導したのはルイスでは無い。
その仕事をやったのはナチャだ。
どうやらアランの魂は彼の御眼鏡に適ったようだ。だからこんなことを自らやってくれた。
しかしそれは「今晩だけ」になる可能性がある。
彼の「本体」は既に移動しているからだ。「分身」は大した持久力を持たない。
それはつまり、これから毎晩アランの世話をしなければならないということ。
「ふう……」
ルイスはため息を吐きながら、その重さを実感した。
(本当にこれは疲れる……)
シャロンに気付かれないようにやるのは骨が折れる。既に何かがおかしいとは思われているだろう。
(しかしまあ、それでも、)
今日はしのいだ、そんな風に気を取り直しながらルイスは次の行動を考えた。
まずは食事だ。
栄養を取らないと。肉に卵に野菜。そしてその後に睡眠だ。
「飯屋の主人を叩き起こさないとな……」
そんな事を呟きながら、ルイスはシャロンの後を追うように歩き始めた。
◆◆◆
二週間後――
「……」
真上に昇った太陽のもと、シャロンは森の中からアラン達がいる街を眺めていた。
傍目には一人でそうしているように見える。
が、今の彼女は一人では無かった。
感知を巡らせば明らかであった。森の中に数多くの人間が潜んでいることが。
そして、その内の一人が近づいて来ているのをシャロンは感じ取っていた。
「……」
近付いてくるその気配を、シャロンはうんざりと感じていた。
相手も感知持ちである。ゆえにその感情を読まれる可能性がある。
が、シャロンは隠そうとはしなかった。
本当にそいつのことが嫌いだからだ。敵意すら滲むほどに。
が、その者はシャロンが放つその鋭い感情を意にも介さず、声をかけてきた。
「おやおや、これはこれは、シャロンじゃあないか」
その老人はまるでシャロンだと分かっていなかったかのように喋った。
シャロンはその見え透いた嘘を鬱陶しく感じながら、声を返した。
「……久しぶりね、デズモンド」
この老人のことを覚えている読者がいたら驚嘆に値する。それほどまでに登場回数が少なく、しかも目立っていないからだ。
この老人はあの収容所の管理人をしていた男だ。
しかしなぜそのデズモンドがこの場にいるのか。
その理由をデズモンドは自ら喋り始めた。
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