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第六章 アランの力は遂に一つの頂点に
第四十三話 試練の時、来たる(28)
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◆◆◆
一方、ルイスはアランの魂が予想通りの結末を迎えたのを感じ取った後、行動を開始した。
「……」
しかし本人は動いていない。
動いているのは別のものだ。
しばらくして、その内の一つがルイスの前に姿を現した。
それはリックであった。
「おはようございます、ルイス殿」
リックは軽い会釈と共に朝の挨拶を述べた後、ルイスの前を通り過ぎていった。
歩むリックの爪先が示すもの、それは裏口であり、その先にある裏庭であった。
「……」
ルイスはその背中に何の言葉も投げかけなかった。
(……良し)
が、ルイスは内心でほくそ笑んでいた。
◆◆◆
その後、リックはルイスが「仕向けた通りの」ことを始めた。
基本動作から、仮想敵を想定した一連の型などの体術訓練である。
そしてルイスは基礎が一通り終わったところで、顔を見せた。
「あ、申し訳ない。勝手に裏庭を使ってしまって」
リックが放ったその予想通りの言葉に対し、ルイスは首を振りながら口を開いた。
「いえ、構いませんよ。興味があるのでそのまま続けてください」
その返事にリックは「ではお言葉に甘えて」と、訓練を再開した。
これは嘘であった。
ルイスはリックの一人訓練に対して興味など微塵も抱いていなかった。
ルイスが期待しているのはその先。
「……」
ルイスはそれを待った。
するとしばらくして、リックの動きが止まった。
同時に、ルイスはリックの意識が自分の方に向いているのを感じた。
しかしその口からルイスが期待している言葉が放たれる気配は無かった。
迷っているようであった。
これにルイスは内心で舌を打った。
(……本能が行動の決定権を強く握っている性質(たち)か)
ルイスはリックのある感情を汚染していた。
それは本能の管理下にあるもの。
本能は気付いたのかもしれない。自分の感情に異常が起きていることに。
しかし迷っているということは、その疑念は強固なものでは無いということ。
だからルイスは勝負に出た。
汚染の強度を上げる。
裏目に出れば、抵抗され始めたらあきらめるしか無い。
しかしルイスは今やるべきだという確信を持っていた。
そしてその汚染に対し、リックの心の天秤は、
「……」
一時水平を保ったが、その拮抗は一分もしないうちに、
「……ルイス殿」
大きく傾いた。
同時にその口から紡がれた言葉は、
「一人では味気無いので、練習に付き合っていただけませんか?」
ルイスが期待していたものであった。
これならば、向こうから申し出たこの形にすれば、シャロンであっても疑われる可能性は低い。
アランに対しても同じ手が使えればいいのだが。しかし残念なことに、アランが自発的に自分に訓練を申し込む動機に至るものが無い。
今リックに対して行っている好奇心や興味などの感覚汚染をアランに仕掛け、それが成功したとしても、アランは自分に剣の訓練など申し込まないだろう。同じ剣を使う、より親しい人間に声を掛けるはずだ。
感知の訓練であれば自分に声を掛けてくる可能性が高い。しかしそんなあからさまなものはシャロンに気付かれるであろう。
だからこんな回りくどいことをしている。
しかしそれでも、リックは戦力として魅力的だ。
だからルイスは笑みを浮かべながら、
「構いませんよ。無能とはいえ私も一族のはしくれ。『型師範』としての訓練は受けております」
既に考えてあった言葉を返した。
一方、ルイスはアランの魂が予想通りの結末を迎えたのを感じ取った後、行動を開始した。
「……」
しかし本人は動いていない。
動いているのは別のものだ。
しばらくして、その内の一つがルイスの前に姿を現した。
それはリックであった。
「おはようございます、ルイス殿」
リックは軽い会釈と共に朝の挨拶を述べた後、ルイスの前を通り過ぎていった。
歩むリックの爪先が示すもの、それは裏口であり、その先にある裏庭であった。
「……」
ルイスはその背中に何の言葉も投げかけなかった。
(……良し)
が、ルイスは内心でほくそ笑んでいた。
◆◆◆
その後、リックはルイスが「仕向けた通りの」ことを始めた。
基本動作から、仮想敵を想定した一連の型などの体術訓練である。
そしてルイスは基礎が一通り終わったところで、顔を見せた。
「あ、申し訳ない。勝手に裏庭を使ってしまって」
リックが放ったその予想通りの言葉に対し、ルイスは首を振りながら口を開いた。
「いえ、構いませんよ。興味があるのでそのまま続けてください」
その返事にリックは「ではお言葉に甘えて」と、訓練を再開した。
これは嘘であった。
ルイスはリックの一人訓練に対して興味など微塵も抱いていなかった。
ルイスが期待しているのはその先。
「……」
ルイスはそれを待った。
するとしばらくして、リックの動きが止まった。
同時に、ルイスはリックの意識が自分の方に向いているのを感じた。
しかしその口からルイスが期待している言葉が放たれる気配は無かった。
迷っているようであった。
これにルイスは内心で舌を打った。
(……本能が行動の決定権を強く握っている性質(たち)か)
ルイスはリックのある感情を汚染していた。
それは本能の管理下にあるもの。
本能は気付いたのかもしれない。自分の感情に異常が起きていることに。
しかし迷っているということは、その疑念は強固なものでは無いということ。
だからルイスは勝負に出た。
汚染の強度を上げる。
裏目に出れば、抵抗され始めたらあきらめるしか無い。
しかしルイスは今やるべきだという確信を持っていた。
そしてその汚染に対し、リックの心の天秤は、
「……」
一時水平を保ったが、その拮抗は一分もしないうちに、
「……ルイス殿」
大きく傾いた。
同時にその口から紡がれた言葉は、
「一人では味気無いので、練習に付き合っていただけませんか?」
ルイスが期待していたものであった。
これならば、向こうから申し出たこの形にすれば、シャロンであっても疑われる可能性は低い。
アランに対しても同じ手が使えればいいのだが。しかし残念なことに、アランが自発的に自分に訓練を申し込む動機に至るものが無い。
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だからこんな回りくどいことをしている。
しかしそれでも、リックは戦力として魅力的だ。
だからルイスは笑みを浮かべながら、
「構いませんよ。無能とはいえ私も一族のはしくれ。『型師範』としての訓練は受けております」
既に考えてあった言葉を返した。
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