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第六章 アランの力は遂に一つの頂点に
第四十三話 試練の時、来たる(23)
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◆◆◆
そしてそのアランはまだ教会でルイスの帰りを待っていた。
結構な時間が経っている。が、アランの心は全く揺るいでいなかった。
揺るぐどころか、その気持ちはますます強くなっていた。
ルイスの存在が近くに迫っていることを、帰ってきていることを感じ取っているからだ。
そしてしばらくして、待ち望んでいたその声が広間に響いた。
「お待たせしました、アラン様」
まだ待っていたのですか、という言葉は出ない。アランがまだ待っていることをルイスも感じ取っていたからだ。
そしてアランの意思の強さも理解している。
ゆえに、時間に対しての言葉は無く、最初から本題に入った。
「それで、話とは?」
これについてルイスはアランの心を読もうとはしなかった。
アランの中に悩み、迷いがあるのを感じ取ったからだ。
このような思考は読みにくく、疲れる。
だからルイスはアランの思考がまとまるのを待った。
そしてその時はすぐに訪れた。
「ルイス様は、今の魔法使いと無能力者の関係についてどう思われますか?」
その言葉にルイスは、
「……!」
僅かであるが動揺した。
なぜなら、二度目だったからだ。
過去にまったく同じ言葉を、ある者からぶつけられたことがあったからだ。
そしてルイスは感じ取った。思わず読み取ってしまった。
アランの脳裏に残酷な感覚が、収容所で感じ取ったものが横たわっているのを。
(凄まじいものを経験してきたのですね、アラン様)
さらにルイスは察知した。
アランが描いている理想像を。
それは言葉にすれば、平穏な共存、協力であった。
「あの人」が思い描いていたものとは少し違うが、方向性は同じであった。
だからルイスは思った。
(アラン様、あなたはやはり『母親似』なのですね)と。
ルイスの望みは違う。
されど話し合う価値はある。あの時のように。
そしてアラン相手であれば口を使う必要は無い。もっと便利なものがある。
そう思ったルイスは、アランにも分かるように自分を変えた。
「……!」
直後、今度はアランのほうが少し動揺した。
ルイスの思考が突然読めるようになったからだ。
いや、思考が蘇ったと言うべきか。そう感じた。
しかしそれよりもアランを動揺させたものは――
(これはまるで……灰?)
ルイスの心が、まるで燃え尽きた何かの残りかすであるかのように感じられたからだ。
そしてその感想にルイスは特に何かの感情を抱くようなことは無かった。
ただ一つ、あることを思い出しただけであった。
(そういえば、私と初めて共感した時のシャロンも同じ印象を抱いていたな)と。
同時に、ルイスは自虐的な薄い笑みを浮かべた。
確かにその通りかもしれない、そう思ったからだ。
そしてアランには私自身がそう思う理由を知ってもらおう、これは知ってもらうべきだ、そう思った。
ゆえにルイスは、あの時のアランがアンナにしたように歩み寄り、手を繋いだ。
「!」
瞬間、アランの顔に驚きの表情が浮かんだ。
同時に少し混乱した。
頭の中に映像が流れ始めたからだ。
それが何なのか、アランはすぐに理解した。
(ルイス殿の記憶……?)
それはルイスの記憶であった。脳の記憶を格納している部分が輝き、そして共感をもって自分に伝えられていることをアランは感じ取った。
そして流れ込むそれらは全て、
(戦いの記憶……?)
であった。
脳裏に流れる映像の中で、時にルイスは一人の戦士として戦い、時に指導者として戦っていた。
が、そのほとんどが、
(負けている……)
ルイスにとって悲しい結末を迎えていた。
そしてアランは察した。
ルイスが望む未来は何なのかを。
それは、
(この人は、魔法使いと無能力者の関係を、)
「逆転」させる。それがルイスの願いであった。
そう願うようになった理由、それは至極ありふれたものである。「強弱」の関係を「残酷」な形で示されただけだ。
しかしその思いはかつての熱さを、熱を失ってしまっている。
昔は積極的に活動していた。心は沸騰するように熱かった。
しかしその熱は高すぎたのかもしれない。
ある日、底が見えたのを感じた。
それはまるで、焦げ付いた鍋の底のようであった。
沸騰させるものが無くなったルイスの心はその熱を急速に失った。
だが、ルイスはまだあきらめていない。
底に焦げ付いたその何かは、まだ淡く、薄赤く光っている。
だからルイスは無能力者の体を使っているのだ。
強い魔法使いの体を手に入れて権力者でも目指せば、少し違う形でも望みを叶えられるかもしれない、そんな考えを抱いたことは数え切れないほどある。
しかし出来なかった。ただ意地を張っているだけ、そう分かっていてもだ。
されどルイスはその厄介な意地を愛している。
自分の願いは同じ無能で成さなければ意味が無い、そう信じている。
ゆえにルイスは強力な「武器」を求めている。
「武器」は魔法使いにでも使える。しかし最大値に対して平均値が高くなれば、それは戦力の差が縮められるということであり、差が少なければ後は戦術で補うことが出来る。今の戦力差は戦術だけで補うには大きすぎる。
それら武器に関する記憶も戦いの記憶とともに多少流れ込んできたが、アランは別の事に意識を捕らわれた。
アランはその灰のような心を見つめてようやく気付いた。
(なぜ、この人は……)
こんな古い記憶を持っているのかということを。
流れる記憶の中に、明らかに古い時代のものが混ざっている。
共感を使って先祖から記憶を受け継いできたのだろうか、アランはそう思った。
常識的な考えである。しかし不正解である。
その間違いをルイスは、
「……」
指摘し、教えようとはしなかった。
今はそれよりも話し合うべき事があるからだ。
そしてそのアランはまだ教会でルイスの帰りを待っていた。
結構な時間が経っている。が、アランの心は全く揺るいでいなかった。
揺るぐどころか、その気持ちはますます強くなっていた。
ルイスの存在が近くに迫っていることを、帰ってきていることを感じ取っているからだ。
そしてしばらくして、待ち望んでいたその声が広間に響いた。
「お待たせしました、アラン様」
まだ待っていたのですか、という言葉は出ない。アランがまだ待っていることをルイスも感じ取っていたからだ。
そしてアランの意思の強さも理解している。
ゆえに、時間に対しての言葉は無く、最初から本題に入った。
「それで、話とは?」
これについてルイスはアランの心を読もうとはしなかった。
アランの中に悩み、迷いがあるのを感じ取ったからだ。
このような思考は読みにくく、疲れる。
だからルイスはアランの思考がまとまるのを待った。
そしてその時はすぐに訪れた。
「ルイス様は、今の魔法使いと無能力者の関係についてどう思われますか?」
その言葉にルイスは、
「……!」
僅かであるが動揺した。
なぜなら、二度目だったからだ。
過去にまったく同じ言葉を、ある者からぶつけられたことがあったからだ。
そしてルイスは感じ取った。思わず読み取ってしまった。
アランの脳裏に残酷な感覚が、収容所で感じ取ったものが横たわっているのを。
(凄まじいものを経験してきたのですね、アラン様)
さらにルイスは察知した。
アランが描いている理想像を。
それは言葉にすれば、平穏な共存、協力であった。
「あの人」が思い描いていたものとは少し違うが、方向性は同じであった。
だからルイスは思った。
(アラン様、あなたはやはり『母親似』なのですね)と。
ルイスの望みは違う。
されど話し合う価値はある。あの時のように。
そしてアラン相手であれば口を使う必要は無い。もっと便利なものがある。
そう思ったルイスは、アランにも分かるように自分を変えた。
「……!」
直後、今度はアランのほうが少し動揺した。
ルイスの思考が突然読めるようになったからだ。
いや、思考が蘇ったと言うべきか。そう感じた。
しかしそれよりもアランを動揺させたものは――
(これはまるで……灰?)
ルイスの心が、まるで燃え尽きた何かの残りかすであるかのように感じられたからだ。
そしてその感想にルイスは特に何かの感情を抱くようなことは無かった。
ただ一つ、あることを思い出しただけであった。
(そういえば、私と初めて共感した時のシャロンも同じ印象を抱いていたな)と。
同時に、ルイスは自虐的な薄い笑みを浮かべた。
確かにその通りかもしれない、そう思ったからだ。
そしてアランには私自身がそう思う理由を知ってもらおう、これは知ってもらうべきだ、そう思った。
ゆえにルイスは、あの時のアランがアンナにしたように歩み寄り、手を繋いだ。
「!」
瞬間、アランの顔に驚きの表情が浮かんだ。
同時に少し混乱した。
頭の中に映像が流れ始めたからだ。
それが何なのか、アランはすぐに理解した。
(ルイス殿の記憶……?)
それはルイスの記憶であった。脳の記憶を格納している部分が輝き、そして共感をもって自分に伝えられていることをアランは感じ取った。
そして流れ込むそれらは全て、
(戦いの記憶……?)
であった。
脳裏に流れる映像の中で、時にルイスは一人の戦士として戦い、時に指導者として戦っていた。
が、そのほとんどが、
(負けている……)
ルイスにとって悲しい結末を迎えていた。
そしてアランは察した。
ルイスが望む未来は何なのかを。
それは、
(この人は、魔法使いと無能力者の関係を、)
「逆転」させる。それがルイスの願いであった。
そう願うようになった理由、それは至極ありふれたものである。「強弱」の関係を「残酷」な形で示されただけだ。
しかしその思いはかつての熱さを、熱を失ってしまっている。
昔は積極的に活動していた。心は沸騰するように熱かった。
しかしその熱は高すぎたのかもしれない。
ある日、底が見えたのを感じた。
それはまるで、焦げ付いた鍋の底のようであった。
沸騰させるものが無くなったルイスの心はその熱を急速に失った。
だが、ルイスはまだあきらめていない。
底に焦げ付いたその何かは、まだ淡く、薄赤く光っている。
だからルイスは無能力者の体を使っているのだ。
強い魔法使いの体を手に入れて権力者でも目指せば、少し違う形でも望みを叶えられるかもしれない、そんな考えを抱いたことは数え切れないほどある。
しかし出来なかった。ただ意地を張っているだけ、そう分かっていてもだ。
されどルイスはその厄介な意地を愛している。
自分の願いは同じ無能で成さなければ意味が無い、そう信じている。
ゆえにルイスは強力な「武器」を求めている。
「武器」は魔法使いにでも使える。しかし最大値に対して平均値が高くなれば、それは戦力の差が縮められるということであり、差が少なければ後は戦術で補うことが出来る。今の戦力差は戦術だけで補うには大きすぎる。
それら武器に関する記憶も戦いの記憶とともに多少流れ込んできたが、アランは別の事に意識を捕らわれた。
アランはその灰のような心を見つめてようやく気付いた。
(なぜ、この人は……)
こんな古い記憶を持っているのかということを。
流れる記憶の中に、明らかに古い時代のものが混ざっている。
共感を使って先祖から記憶を受け継いできたのだろうか、アランはそう思った。
常識的な考えである。しかし不正解である。
その間違いをルイスは、
「……」
指摘し、教えようとはしなかった。
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