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第六章 アランの力は遂に一つの頂点に

第四十三話 試練の時、来たる(21)

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「……」

 しかしルイスは声を上げなかった。
 確かに、『アトラク=ナクァ』よりはそっちの方が良いと思ったからだ。
『ナクァ』の部分だけを残して、発音をより普通の名前らしく、かつ耳障り良く変えたのだろう。

(それで『ナチャ』、か。ふむ、悪くない)

 ルイスは本当にそう思ったゆえに、何も言わないことにした。
 そして直後、シャロンが口を開いた。

「『ナチャ』ねえ……悪くないと思うけど、その名前は自分で考えたの?」

 これに蜘蛛は首を振ってから答えた。

「いや、つけてもらったんだよ。ルイスにね」

 意外では無かったのか、シャロンはその答えに「へえ」と相槌を打った後、ルイスに向かって尋ねた。

「……聞いておきたいんだけど、なんで『ナチャ』なの?」

 好機が訪れた。自分がつけた名前とは違うものであると説明する良い機会が。
 しかし『アトラク=ナクァ』のことは、今やルイスにとってもどうでもいいことになっていた。
 だからルイスは、

「昔読んだある本に、こいつとそっくりな人物が描かれていてな。そいつの名前を拝借しただけだよ」

 と答えた。
 これにシャロンは、「こいつとそっくりな登場人物って、どんな設定よ」と思ったが、それは尋ねる気が起きなかった。長い話になりそうで嫌だったからだ。
 そしてルイスが『アトラク=ナクァ』のことをどうでもよくなっていたのは、別のことに意識を取られていたからだ。

(さすがに、死人としての生活が長いだけはあるな)

 ルイスは蜘蛛の技術力の高さに感心していた。

(ん、待てよ?)

 その瞬間、ルイスは気付いた。

(だったら、調整はこいつにやってもらえばいいじゃないか)

 そうだ、そうしよう、そうすべきだ、と思ったルイスは早速口を開いた。

「ナチャ、一つ頼みたいことがあるんだが」

 これに蜘蛛が「頼み事? なんだい?」と尋ね返すと、ルイスは答えた。

「悪いんだが、シャロンの調整を代わりにやってくれないか?」

 悪びれた様子は無くルイスはそう言った。
 が、蜘蛛は上機嫌であったゆえに、

「構わないさ。それくらいなら、お安い御用」

 と即答した。
 それを聞いたルイスが、

「そうか。じゃあ頼んだぞ」

 と、言いながらつま先を家の方に向けると、蜘蛛は「どこに行くんだい?」とその背に尋ねた。
 これにルイスは、

「帰って寝るんだよ。俺は普通の人間だからな」

 と、薄い笑みを浮かべながら答え、その足を進め始めた。
 そして歩き始めてすぐにルイスは、

(そういえば、アランが待っているかもしれないな)

 ということを思い出し、

(そしてそのアランを巡って派手な戦いが起きる可能性が高い、か)

 巻き込まれないように備えておいたほうがいいなと、その準備について思考を巡らせることで家路までの暇を潰すことにした。
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