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第六章 アランの力は遂に一つの頂点に

第四十三話 試練の時、来たる(15)

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   ◆◆◆

 その後、話はすぐに終わった。
 クリスから現在の状況と、彼が知る限りのこれまでの詳細な経過報告がされたくらいである。
 その話にカルロは即答せず、「続きは明日にする」と答えるだけに留めた。
 クリスの城を勢いだけでねじ伏せるほどの戦力が、リックが存在することに、カルロは頭を痛めたのだ。
 リックはもう教会側の人間では無い。しかしカルロはそれを知らない。
 そしてアランに対しては、生きて帰って来たことに対しての言葉が贈られるだけに終わった。
 これにアランも同じような言葉を返したが、それ以上は何も言わなかった。
 話すならば一対一で、そう思っていたからだ。

 そしてその時は予想外に早く訪れた。

 重症の身でありながらカルロは寝具から降り、松葉杖を片手に部屋を出た。
 そして城から出る頃には、片手に花束が握られていた。
 行き先は城の裏手にある一族の墓地であった。
 そこにある妻の墓前に、カルロは花束を添えた。

「……」

 妻に対しての言葉は特に無かった。
 カルロは自問自答していた。今後について。
 しかしどう考えても戦力が足りない。
 教会側でまた反乱が起きたという情報は届いていたが、カルロは確定では無い甘い未来に希望を抱くような男では無かった。教会が倒れたとしても、その後の権力者達が同じ態度で我々に迫るとすれば、状況は大して変わらないだろうとカルロは考えていた。
 そしてこの問答にカルロは少し追い詰められていた。
 こういう時、カルロはよくここに来ていた。
 妻の霊が助言を与えてくれるなどとはカルロは思っていない。
 これはカルロにとっての一つの儀式であった。自身が困難に立たされていることの再認識を行う、そのためのもので、それ以上のものでは無かった。
 だがそれでも、いつもならば妻に対して一つか二つの言葉がある。
 しかし今日は無い。なぜなら、

「……どうした、アラン?」

 アランが尾けてきていることに気付いていたからだ。
 といってもアランは隠れてはいなかった。距離を置いていたというだけだ。
 そして声をかけられたアランは足を前に出した。

「……」

 しかし歩み寄るだけで、問われた用件については即答しようとしなかった。
 聞きたいことは数多くあった。
 しかし、それらについては既にアランの中で答えが出来上がっていた。
 父からどんな返事をもらおうと、それは今の自分にとって一つの意見に過ぎないだろうと、そう思えるほどにその答えは強固なものだった。
 そしてそれらを口で説明するのは正直面倒だった。
 そう思ったアランは、

「父上、お聞きしたいことがたくさんありました」

 と、「過去形」で言いながら、父の手を握った。

「!?」

 瞬間、カルロはあの時のアンナと同じ顔を浮かべた。
 わざわざ手を握ったのは、「自分がこれをやっている」ということをはっきりと分からせるためだ。
 そしてカルロの脳内では映像が流れていた。
 それはアラン自身が感じ取った収容所の惨状から始まった。
 その後、映像はクラウスから知った、教会と反乱軍の戦いの記憶へ。
 そして映像の場面は戦いから貧民街へ。

(やめろ……!)

 直後、アランの脳内に父の拒絶の声が響いた。
 やはり鮮明には思い出したくないのだろう。
 しかしアランはこの声を無視した。

「……っ!」

 父の苦悶の感覚とともに「その場面」が映し出される。
 アランはそこで映像を停止し、口を開いた。

「父上、私は最初彼らのことを、教会と戦ったこの者達のことを『正義』だと思いました」

 これにカルロは怒りの感情を滲ませ、声を上げようとした。
 しかしそれよりも早くアランが言葉を続けた。

「しかし彼らの多くは貧民街で『悪』に転化しました」
「……」

 父が感情を沈めるのを確認してから、アランは再び口を開いた。

「今となっては真実は分かりませんが、彼らのほとんどはただ教会が憎かっただけで、高潔な人間では無かったのでしょう」

 そしてアランは母の墓に視線を向けながら、言葉を付け足した。

「……母は、彼らの『正義』であった『一面』だけを全てと思い込んでしまったのかもしれません」
「……」

 アランの言葉に対し、カルロは何の言葉も感情も返さなかった。
 今となっては真実は分からないからだ。
 そして正直なところ、今のアランにとって重要なことは別にあった。
 アランはそれを声に出した。

「父上、私はこの力を使ってやってみたいことがあります」

 それはなんだ、と、カルロが心の声で尋ねるよりも早く、アランは手を離し、共感を切った。
 そこから先は読まれたくないからだ。まだ早い。そう思う理由をアランは声に出した。

「ですが私にはまだ分からないことがあります。ゆえにおぼろげなのです。何を目指してこの力を使うべきなのかが、まだはっきりと定まっていないのです」

 その言葉にカルロは残念だと思ったが、それが顔に表れることは無かった。
 アランがすぐに言葉を続けたからだ。

「ただそれでも、一つはっきりしていることは――」

 そしてその言葉はカルロの内に湧いた残念という思いをひっくり返すに十分なものだった。

「父上、私はどんな形であれ、この国を今よりも善く、そして強くしたいと思っています」

 アランが悩んでいること、それは魔法使いと無能力者の関係をどうすべきか、であった。
 そしてそのことについて相談する相手はもう決まっていた。
 それはただの直感であった。しかし、これが正解であろうという確信がアランにはあった。
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