Chivalry - 異国のサムライ達 -

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)

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第六章 アランの力は遂に一つの頂点に

第四十三話 試練の時、来たる(13)

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   ◆◆◆

 意外なことに、クリスの話はアランが見せた神秘についてでは無かった。

「お二人が練習している間にカルロ将軍の使いが命令を伝えに来た。アンナは至急城に戻ってくるように、とのことだ」
「ただの伝言では無く、命令、ですか?」

 その内容に、アンナが尋ね返すと。

「そうだ。大至急とのことだ」

 クリスは即答しながらアランの方に視線を移し、

「そしてアラン殿、『今回は』あなたも戻ったほうがいい」

 含みを持たせる言い回しで、そう言った。
 わざわざ『今回は』などという言葉を付けた理由を、アランは尋ねるまでも無く読み取っていた。
 それはある噂であった。
 カルロが突然前線から離れ、しかも戻ってこないのは、戦いで重症を負ったからだという噂。
 クリス自身は真実を知らない。あくまでもただの噂である。
 が、

「……」

 アランは何かをかみ締めるように歯に力を入れていた。
 アランは思い出していた。
 ラルフと共感した時に、彼の記憶の中に父の姿があったことを。
 その時は大変だったからそれ以上記憶を探る余裕が無かった。

「……」

 そんな言葉が浮かんだ瞬間、アランの心は沈んだ。
 いまの言葉を言い訳にするにはあまりに苦しいと、自分自身分かっていたからだ。
 本当は探ろうと思えば探れた。でもそうしなかった。
 どうしてかはもうはっきりとは思い出せない。もしかしたら、怖かったのかもしれない。
 自分の予想では、ラルフの心から感じ取れた勝気と自信から察するに――

「……」

 そこでアランは思考を切った。
 会って確かめよう、そう思ったからだ。

「兄様……?」

 そして、兄が何かを知っていることを察したアンナは尋ねるように声を出した。
 が、アランは、

「……」

 アンナに対しては何も答えず、

「わかった。俺もアンナと一緒に城へ戻るよ」

 と、クリスに対して少し遅い返事を返すだけに終わった。
 それを聞いたクリスは、

「そうか。なら早速出発しよう。二人はすぐに準備してくれ。私は外で馬を用意しておく」

 と言いながら、戦装束などの私物が詰まった麻袋を肩にかけた。
 その動作に、気付いたアランはそれを尋ねようとしたが、それよりも先にクリスが答えた。

「命令には私も来るようにとあった。将軍としての務めは一時お休みしていいらしい。……何の話かは分からないが、よほど大事な事のようだな」

 クリスが不安を煽ろうとしているわけでは無いことは分かっていたが、それでもアランの心はその言葉に少しざわついていた。

   ◆◆◆

 移動は早馬によるものでは無く、徒歩に合わせた馬車となった。
 アランとクラウスが話したからだ。妙な連中に尾行されていると。
 ならばと、クリスは防御が硬い馬車を用意した。
 護衛の兵士も多くついている。
 クラウスはその兵士達を率いるように、自ら外の警護についた。
 そしてアランは尾行の位置を馬車の中から探し出し、クラウスに伝えていた。
 馬車の中にいる人数は三人。アランとアンナ、そしてクリスだ。
 アンナが一緒にいるためか、緊張感はあまり無かった。
 だからクリスは、馬車の中でアランが見せた神秘について尋ねた。
 これにアランは快く、隠し事無しに答えた。
 そしてアンナに対してやったように、クリスとも練習を行った。
 馬車の中なので剣を振り回すことは出来なかったが、クリスに関してはそれでも問題は無かった。やはりアランが思った通り、クリスの感知能力の素質は本物であった。
 クリスが慣れてからはアンナを交えて三人で練習するようになった。三人で剣を抜き、刀身を鏡とするように、輝く剣に祈るように眼前に構えながら、感情をやり取りした。
 クリスの上達は速く、みるみるうちにアンナと差をつけ始めた。それに伴い感知の範囲も急速に広がっていった。尾行の位置に気付くほどに。
 その円はアランほどには大きくない。神楽を起こせるほどの強大な波も発生させられないように感じられた。
 しかしそれは「今はまだ」というだけのものに思えた。練習を積めばクリス将軍はきっと化ける。アランはそう思っていた。
 そして三人はそのまま練習を楽しみながら、目的地に着くのを待った。
 ゆえに緊張感は薄かった。
 それが問題であった。
 クラウスもだ。アンナと一緒に行動出来ていることに安心感を抱いている。
 アランとクラウスは致命的な間違いを犯している。ディーノを強引にでも連れてこなかったことだ。
 まだ誰も気付いていない。自分達を遥かに凌駕する怪物に狙われていることに。
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