Chivalry - 異国のサムライ達 -

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)

文字の大きさ
上 下
317 / 586
第六章 アランの力は遂に一つの頂点に

第四十三話 試練の時、来たる(8)

しおりを挟む
   ◆◆◆

 次の日――

 早朝に出発したアランとクラウスは昼過ぎにはクリスの陣地に到着した。

 アランは真っ先に、陣を仕切るクリスの元へ挨拶に向かった。

「お久しぶりですね、クリス将軍」

 アランは再会を純粋に喜び、薄い笑みを口元に張り付かせていた。
 しかし対照的に、クリスは難しい顔で口を開いた。

「……正直、このような形で再会出来るとは思っていませんでしたよ、アラン殿」

 クリスが何を言わんとしているのか、その言葉の裏に何が含まれているのかを、アランは読み取った。
 クリスはこのような「まともな再会」を半ばあきらめていた。
 良くて交渉材料、悪ければ肉の盾として使われるだろうと踏んでいた。
 状況によってはアランごと敵を焼き払うことの許可を、カルロに伺いに行かねばならなくなるだろうなと考えていたほどだ。
 そして、クリスの表情に込められていた思いはそれだけでは無かった。
 クリスの視線は開かなくなったアランの両目に釘付けになっていた。
 生きたまま帰還出来たとはいえ、代償は払わざるを得なかったのか、いや、むしろこの程度で済んで幸運だったと考えるべきなのか、という思いがクリスの視線に込められていた。
 さらに同時にクリスは奇妙な感覚も抱いていた。
 存在しないはずのアランの視線がこちらの視線と綺麗に重なっているような、目を合わせて見つめられているような感覚があった。
 表現し難い、経験したことの無い感覚がクリスの体を包んでいた。
 まるで何もかも見透かされているような――

「……」

 馬鹿馬鹿しい、そう思ったクリスは思考を切り、それは不自然な沈黙という形で表に現れた。
 ゆえに、次に口を開いたのはアランの方であった。

「そういえば気になったのですが――」

 その言葉に、クリスが少し慌てたような調子で「ああ、なんでしょう?」と促すと、アランは言葉を続けた。

「この陣を囲むように、深い溝が迷路のように掘られているのを見たのですが、あれは……?」

 敵の侵入を妨害するために溝を掘るにしても、迷路にする必要は無いのでは? そう思ったゆえにアランは尋ねた。
 これに対し、クリスはアランが放った「見た」という言葉に少し違和感を覚えたが、それは表情に出すことなく答えた。

「まだ試行錯誤の段階なので、なんとも言えませんが……より硬い防御を築きたいと私なりに考えた結果があれなのですよ」

 クリスのこの回答にアランは、

「……なるほど」

 と淡白な返事を返した。
 しかしクリスの思考を読んでいたアランは、内心では「これは本当に良いものかもしれない」と共感していた。
 その感覚が伝わったのか、クリスは表情を和らげながら口を開いた。

「ところでアラン様。もう知っているとは思いますが、アンナ様もこの陣に滞在しておられます。早めに会ってくるとよろしいでしょう」

 これに、アランは即答した。

「ええ、もちろん。今から会いに行くつもりです」

 そしてアランは小さな礼をしながら「では、また後ほど」と言葉を続けた後、クリスの前から離れた。

(……やはり)

 その時の動きをクリスは見逃さなかった。
 目が見えないはずなのに、平然と歩いている。

「……」

 どうしてそんなことが出来るのか分からなかったクリスは、ただ沈黙するしか無かった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

【完結】結婚前から愛人を囲う男の種などいりません!

つくも茄子
ファンタジー
伯爵令嬢のフアナは、結婚式の一ヶ月前に婚約者の恋人から「私達愛し合っているから婚約を破棄しろ」と怒鳴り込まれた。この赤毛の女性は誰?え?婚約者のジョアンの恋人?初耳です。ジョアンとは従兄妹同士の幼馴染。ジョアンの父親である侯爵はフアナの伯父でもあった。怒り心頭の伯父。されどフアナは夫に愛人がいても一向に構わない。というよりも、結婚一ヶ月前に破棄など常識に考えて無理である。無事に結婚は済ませたものの、夫は新妻を蔑ろにする。何か勘違いしているようですが、伯爵家の世継ぎは私から生まれた子供がなるんですよ?父親?別に書類上の夫である必要はありません。そんな、フアナに最高の「種」がやってきた。 他サイトにも公開中。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

処理中です...