Chivalry - 異国のサムライ達 -

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)

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第六章 アランの力は遂に一つの頂点に

第四十三話 試練の時、来たる(8)

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   ◆◆◆

 次の日――

 早朝に出発したアランとクラウスは昼過ぎにはクリスの陣地に到着した。

 アランは真っ先に、陣を仕切るクリスの元へ挨拶に向かった。

「お久しぶりですね、クリス将軍」

 アランは再会を純粋に喜び、薄い笑みを口元に張り付かせていた。
 しかし対照的に、クリスは難しい顔で口を開いた。

「……正直、このような形で再会出来るとは思っていませんでしたよ、アラン殿」

 クリスが何を言わんとしているのか、その言葉の裏に何が含まれているのかを、アランは読み取った。
 クリスはこのような「まともな再会」を半ばあきらめていた。
 良くて交渉材料、悪ければ肉の盾として使われるだろうと踏んでいた。
 状況によってはアランごと敵を焼き払うことの許可を、カルロに伺いに行かねばならなくなるだろうなと考えていたほどだ。
 そして、クリスの表情に込められていた思いはそれだけでは無かった。
 クリスの視線は開かなくなったアランの両目に釘付けになっていた。
 生きたまま帰還出来たとはいえ、代償は払わざるを得なかったのか、いや、むしろこの程度で済んで幸運だったと考えるべきなのか、という思いがクリスの視線に込められていた。
 さらに同時にクリスは奇妙な感覚も抱いていた。
 存在しないはずのアランの視線がこちらの視線と綺麗に重なっているような、目を合わせて見つめられているような感覚があった。
 表現し難い、経験したことの無い感覚がクリスの体を包んでいた。
 まるで何もかも見透かされているような――

「……」

 馬鹿馬鹿しい、そう思ったクリスは思考を切り、それは不自然な沈黙という形で表に現れた。
 ゆえに、次に口を開いたのはアランの方であった。

「そういえば気になったのですが――」

 その言葉に、クリスが少し慌てたような調子で「ああ、なんでしょう?」と促すと、アランは言葉を続けた。

「この陣を囲むように、深い溝が迷路のように掘られているのを見たのですが、あれは……?」

 敵の侵入を妨害するために溝を掘るにしても、迷路にする必要は無いのでは? そう思ったゆえにアランは尋ねた。
 これに対し、クリスはアランが放った「見た」という言葉に少し違和感を覚えたが、それは表情に出すことなく答えた。

「まだ試行錯誤の段階なので、なんとも言えませんが……より硬い防御を築きたいと私なりに考えた結果があれなのですよ」

 クリスのこの回答にアランは、

「……なるほど」

 と淡白な返事を返した。
 しかしクリスの思考を読んでいたアランは、内心では「これは本当に良いものかもしれない」と共感していた。
 その感覚が伝わったのか、クリスは表情を和らげながら口を開いた。

「ところでアラン様。もう知っているとは思いますが、アンナ様もこの陣に滞在しておられます。早めに会ってくるとよろしいでしょう」

 これに、アランは即答した。

「ええ、もちろん。今から会いに行くつもりです」

 そしてアランは小さな礼をしながら「では、また後ほど」と言葉を続けた後、クリスの前から離れた。

(……やはり)

 その時の動きをクリスは見逃さなかった。
 目が見えないはずなのに、平然と歩いている。

「……」

 どうしてそんなことが出来るのか分からなかったクリスは、ただ沈黙するしか無かった。
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