302 / 586
第六章 アランの力は遂に一つの頂点に
第四十二話 魔王(21)
しおりを挟む
隊長は反射的にその迫る光に向かって防御魔法を展開した。
が、
「ぐっ!?」
爆音と共に隊長の視界が大きく揺らいだ。
その揺れと共に、受けに使った左手首が折れた感覚が隊長の脳に伝わった。
ふらついた姿勢を立て直すために膝に力を入れ直すが、足裏が雪の上を滑る。
そうこうしているうちに人形は再び目の前。
そうだ。分かっていた。遠距離戦では勝ち目が無い事を。魔王から離れれば離れるほどに不利になることを。
そして恐らく、引き撃ちに徹すれば魔王はこの遊びを終わらせようとするだろう。
ならば取れる選択肢は一つ。
(奴の遊びに付き合った上で、奴の望む展開を覆すしか無い!)
その隊長の心の叫びに、魔王は笑みを返した。
そして魔王は隊長から視線を外し、
(さて、我は今のうちに狙撃主を排除しておくか)
この娯楽に水を差す、うっとうしい邪魔者に向かって杖を向けた。
その直後、魔王の杖が光ったのと同時に、
「シャァァッ!」
隊長の雄叫びが場に響いた。
その口が閉じるよりも速く、剣戟の音が鳴り始める。
何度も何度も。絶え間無く。耳に痛いほどに。
「ラアアアアアああぁッ!」
しかしそれに負けじと隊長は叫び続ける。
剣戟の音が響く度に隊長と人形の間で光の粒子が散る。
隊長が叫び声を上げる度に、人形の姿勢が崩れる。
剣と剣のぶつけ合いでは今だ隊長に分がある。
しかし押し切れない。人形がふらつく度に生ずるその隙を突くことが出来ない。
分身がその隙を埋めるように手を、時に足を、増やし、時に伸ばし、反撃してくるからだ。
そしてこの反撃方法は奇抜の一言。時に胸から手が伸びてきたりする。
だが、鋭くなった隊長の感覚はそれら変幻自在の反撃を全て見切り、光の盾で受け止めていた。
しかしその度に隊長の姿勢はわずかに崩されていた。
手首が折れたせいで支えが効かなくなったからだ。偽者の軽い攻撃でも盾がふらつく。
単純な力のぶつけ合いでは隊長に分があるが、手数では人形の方が勝る。
そしてその天秤は完全な五分であった。
時に少し傾くが、すぐに水平に戻る。
完全な拮抗状態。
先に体力が尽きた方が終わる、隊長はそう考えていたが、
「っ!?」
その考えが甘いことを、隊長は左肩に走った衝撃とともに知った。
再びの横槍、魔王が放った光弾であった。
そしてその光弾には意思が込められていた。着弾と同時に、痛みとともに声が頭の中に響いた。
それは「膠着状態などつまらん」という内容であった。
体勢を崩した隊長に分身の重さ無き拳が、蹴りが襲い掛かる。
次々と隊長の体に打ち込まれ、流れる紫電がその身を焦がす。
受け止めることは出来なかった。そうしなかった。出来なかった。それよりも受けるべきものがあった。
それは人形が放つ曲刀の一撃。
電流に身を焼かれながらも、隊長はその光る刃を叩き払い、時に受け流し続けた。
「あぐっ!」
そこへ魔王の光弾が再び着弾。
よろめく体に分身の容赦無い追撃が次々と打ち込まれる。
大きく崩れ、千鳥足になる隊長の足。
それでも隊長は致命の一撃を避け続けた。人形が放つ斬撃をいなした。
しかし状況は良くならない。魔王も手を止めない。
さらなる追撃の光弾で隊長の視界が大きく傾く。
魔王は楽しんでいる。隊長を少しずつ追い込んで遊んでいる。そしてこれを邪魔していた狙撃主はもう全滅した。光弾からそう伝わってくる。
しかし隊長の意識は魔王の方には傾かない。
ただ必死に、体勢を立て直すことを考えている。滑る足裏を止めようと、必死に膝に力を込めている。
そして隊長の感情は一色に染まっている。
(まだだ、まだ……っ!)
不屈の闘志が彼の心を埋め尽くし、燃えている。
が、
「ぐっ!?」
爆音と共に隊長の視界が大きく揺らいだ。
その揺れと共に、受けに使った左手首が折れた感覚が隊長の脳に伝わった。
ふらついた姿勢を立て直すために膝に力を入れ直すが、足裏が雪の上を滑る。
そうこうしているうちに人形は再び目の前。
そうだ。分かっていた。遠距離戦では勝ち目が無い事を。魔王から離れれば離れるほどに不利になることを。
そして恐らく、引き撃ちに徹すれば魔王はこの遊びを終わらせようとするだろう。
ならば取れる選択肢は一つ。
(奴の遊びに付き合った上で、奴の望む展開を覆すしか無い!)
その隊長の心の叫びに、魔王は笑みを返した。
そして魔王は隊長から視線を外し、
(さて、我は今のうちに狙撃主を排除しておくか)
この娯楽に水を差す、うっとうしい邪魔者に向かって杖を向けた。
その直後、魔王の杖が光ったのと同時に、
「シャァァッ!」
隊長の雄叫びが場に響いた。
その口が閉じるよりも速く、剣戟の音が鳴り始める。
何度も何度も。絶え間無く。耳に痛いほどに。
「ラアアアアアああぁッ!」
しかしそれに負けじと隊長は叫び続ける。
剣戟の音が響く度に隊長と人形の間で光の粒子が散る。
隊長が叫び声を上げる度に、人形の姿勢が崩れる。
剣と剣のぶつけ合いでは今だ隊長に分がある。
しかし押し切れない。人形がふらつく度に生ずるその隙を突くことが出来ない。
分身がその隙を埋めるように手を、時に足を、増やし、時に伸ばし、反撃してくるからだ。
そしてこの反撃方法は奇抜の一言。時に胸から手が伸びてきたりする。
だが、鋭くなった隊長の感覚はそれら変幻自在の反撃を全て見切り、光の盾で受け止めていた。
しかしその度に隊長の姿勢はわずかに崩されていた。
手首が折れたせいで支えが効かなくなったからだ。偽者の軽い攻撃でも盾がふらつく。
単純な力のぶつけ合いでは隊長に分があるが、手数では人形の方が勝る。
そしてその天秤は完全な五分であった。
時に少し傾くが、すぐに水平に戻る。
完全な拮抗状態。
先に体力が尽きた方が終わる、隊長はそう考えていたが、
「っ!?」
その考えが甘いことを、隊長は左肩に走った衝撃とともに知った。
再びの横槍、魔王が放った光弾であった。
そしてその光弾には意思が込められていた。着弾と同時に、痛みとともに声が頭の中に響いた。
それは「膠着状態などつまらん」という内容であった。
体勢を崩した隊長に分身の重さ無き拳が、蹴りが襲い掛かる。
次々と隊長の体に打ち込まれ、流れる紫電がその身を焦がす。
受け止めることは出来なかった。そうしなかった。出来なかった。それよりも受けるべきものがあった。
それは人形が放つ曲刀の一撃。
電流に身を焼かれながらも、隊長はその光る刃を叩き払い、時に受け流し続けた。
「あぐっ!」
そこへ魔王の光弾が再び着弾。
よろめく体に分身の容赦無い追撃が次々と打ち込まれる。
大きく崩れ、千鳥足になる隊長の足。
それでも隊長は致命の一撃を避け続けた。人形が放つ斬撃をいなした。
しかし状況は良くならない。魔王も手を止めない。
さらなる追撃の光弾で隊長の視界が大きく傾く。
魔王は楽しんでいる。隊長を少しずつ追い込んで遊んでいる。そしてこれを邪魔していた狙撃主はもう全滅した。光弾からそう伝わってくる。
しかし隊長の意識は魔王の方には傾かない。
ただ必死に、体勢を立て直すことを考えている。滑る足裏を止めようと、必死に膝に力を込めている。
そして隊長の感情は一色に染まっている。
(まだだ、まだ……っ!)
不屈の闘志が彼の心を埋め尽くし、燃えている。
0
お気に入りに追加
88
あなたにおすすめの小説
夫を愛することはやめました。
杉本凪咲
恋愛
私はただ夫に好かれたかった。毎日多くの時間をかけて丹念に化粧を施し、豊富な教養も身につけた。しかし夫は私を愛することはなく、別の女性へと愛を向けた。夫と彼女の不倫現場を目撃した時、私は強いショックを受けて、自分が隣国の王女であった時の記憶が蘇る。それを知った夫は手のひらを返したように愛を囁くが、もう既に彼への愛は尽きていた。
【完結】王子は聖女と結婚するらしい。私が聖女であることは一生知らないままで
雪野原よる
恋愛
「聖女と結婚するんだ」──私の婚約者だった王子は、そう言って私を追い払った。でも、その「聖女」、私のことなのだけど。
※王国は滅びます。
別に構いませんよ、離縁するので。
杉本凪咲
恋愛
父親から告げられたのは「出ていけ」という冷たい言葉。
他の家族もそれに賛同しているようで、どうやら私は捨てられてしまうらしい。
まあいいですけどね。私はこっそりと笑顔を浮かべた。
何を間違った?【完結済】
maruko
恋愛
私は長年の婚約者に婚約破棄を言い渡す。
彼女とは1年前から連絡が途絶えてしまっていた。
今真実を聞いて⋯⋯。
愚かな私の後悔の話
※作者の妄想の産物です
他サイトでも投稿しております
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる