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第六章 アランの力は遂に一つの頂点に
第四十二話 魔王(15)
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言いながら魔王は杖を隊長の方に向け輝かせた。
先端に巨大な光弾が形成される。
しかしそれを見ても隊長は足を止めなかった。隊長の怒りは、心は揺るがなかった。
どんなに強烈な散弾が来ようとも突破してみせる、隊長の心はそんな覚悟で埋まっていた。
「くくっ」
その覚悟を察した魔王は笑い声を漏らした。
嬉しかったのでは無い。
馬鹿にしているのだ。散弾だと思い込んでいる隊長の事を。
隊長は汚染されているのだ。
魔王は「挑発されている」という感覚と共に、散弾のイメージを隊長の意識に刷り込んだのだ。
怒りで塗りつぶされているゆえに、簡単に「偽りの挑発」に乗ってくれた。
だから面白い。簡単すぎて少し白けるほどに。
そして直後、魔王はその思いを隊長の心に送ると同時に、杖の先端を「足元に向けながら」爆発させた。
「何っ!?」
直後、眼前に表れた「白い壁」に、隊長は思わず足を止めた。
(雪の津波?!)
出身地が海のそばであったがゆえに、隊長はそれをそう表現した。
違う、これは雪崩だと、理性が瞬時に言葉を訂正したが、それは本能と魂にとってはどうでもよかった。
“飲まれる――後退しながら左右に逃げ――だめだ、この足場では間に合わない!”
隊長の本能と魂は激しい言葉を交わしながら逃げ道を探した。
しかし見つからなかった。
“ならば防御魔法で受ける? 馬鹿を言うな、無理に決まっているだろう!”
ゆえに、二人のやり取りは過熱化していったが、
“逃げられないのであれば――”
直後、透き通るような理性の声がその場に割り込んだ。
“突破しよう。押しつぶされないように、雪の中に埋められないように、上を目指して泳ぐんだ”
その意見に、隊長の魂と本能は即座に賛成した。同時に隊長の足は動いた。少しでも上に跳ぶように、溶けた雪を蹴った。
隊長は雪崩に対しての対処法を知っていたわけでは無い。
しかし幸運にも、彼の理性は正解を引き当てることが出来た。
「うおおぉっ!」
雪崩を掻き分けるように両腕を動かしながら、隊長は叫んだ。
心を押しつぶされないために。体をすり潰すかのような激しい雪の圧力に抵抗するために。
「!?」
しかし次の瞬間、隊長の心に絶望の色が滲んだ。
左腕が止まってしまったのだ。
重い。もう腕力だけでは動かせる気配が無い。
しかしこの事態に本能が立ち上がった。
「ぐ……ぉ、」
無意識のうちに逆手持ちに切り替えていた右手の曲刀を輝かせる。
そして、本能は右肩と肘の内部で魔力を爆発させた。
「うお、ラアアァァァッ!!」
瞬間、隊長の右腕は激しい痛みと引き換えに軽さを得た。
雪の壁を突き抜けた感覚。
その感覚は希望に変わり、隊長の体に力を与えた。
這い上がるように、左手を爆発させる。
「ぶはぁっ!」
次の瞬間、隊長の体から重さが消えた。
激しく消耗した体に活を入れ直すために、息を吸い込む。
「げほっ! げほっ!」
雪を飲み込んでいたらしく、激しくむせかえる。
「……が、ごほっ!」
隊長は咳き込みながら、周囲に最大限の警戒を払った。
「……?」
しかし、隊長が恐れていた事が起きる気配は無かった。
頭を出した直後に追撃されると思っていた。
(魔王は?)
姿が見えない。雪崩を起こした後、移動したようだ。
どこに? そう思った隊長が視線と感知能力を巡らせるよりも一瞬早く、
「隊長ーーっ!」
それは耳に届いた。
女の声。この場にいる最後の部下だ。
視線をそちらに向ける。
来るな、という思いを込めながら。
「っ!」
しかしそこには予想通りの光景があった。
魔王に向かって突撃する女の姿。
魔王も女に向かって走り始めている。
先端に巨大な光弾が形成される。
しかしそれを見ても隊長は足を止めなかった。隊長の怒りは、心は揺るがなかった。
どんなに強烈な散弾が来ようとも突破してみせる、隊長の心はそんな覚悟で埋まっていた。
「くくっ」
その覚悟を察した魔王は笑い声を漏らした。
嬉しかったのでは無い。
馬鹿にしているのだ。散弾だと思い込んでいる隊長の事を。
隊長は汚染されているのだ。
魔王は「挑発されている」という感覚と共に、散弾のイメージを隊長の意識に刷り込んだのだ。
怒りで塗りつぶされているゆえに、簡単に「偽りの挑発」に乗ってくれた。
だから面白い。簡単すぎて少し白けるほどに。
そして直後、魔王はその思いを隊長の心に送ると同時に、杖の先端を「足元に向けながら」爆発させた。
「何っ!?」
直後、眼前に表れた「白い壁」に、隊長は思わず足を止めた。
(雪の津波?!)
出身地が海のそばであったがゆえに、隊長はそれをそう表現した。
違う、これは雪崩だと、理性が瞬時に言葉を訂正したが、それは本能と魂にとってはどうでもよかった。
“飲まれる――後退しながら左右に逃げ――だめだ、この足場では間に合わない!”
隊長の本能と魂は激しい言葉を交わしながら逃げ道を探した。
しかし見つからなかった。
“ならば防御魔法で受ける? 馬鹿を言うな、無理に決まっているだろう!”
ゆえに、二人のやり取りは過熱化していったが、
“逃げられないのであれば――”
直後、透き通るような理性の声がその場に割り込んだ。
“突破しよう。押しつぶされないように、雪の中に埋められないように、上を目指して泳ぐんだ”
その意見に、隊長の魂と本能は即座に賛成した。同時に隊長の足は動いた。少しでも上に跳ぶように、溶けた雪を蹴った。
隊長は雪崩に対しての対処法を知っていたわけでは無い。
しかし幸運にも、彼の理性は正解を引き当てることが出来た。
「うおおぉっ!」
雪崩を掻き分けるように両腕を動かしながら、隊長は叫んだ。
心を押しつぶされないために。体をすり潰すかのような激しい雪の圧力に抵抗するために。
「!?」
しかし次の瞬間、隊長の心に絶望の色が滲んだ。
左腕が止まってしまったのだ。
重い。もう腕力だけでは動かせる気配が無い。
しかしこの事態に本能が立ち上がった。
「ぐ……ぉ、」
無意識のうちに逆手持ちに切り替えていた右手の曲刀を輝かせる。
そして、本能は右肩と肘の内部で魔力を爆発させた。
「うお、ラアアァァァッ!!」
瞬間、隊長の右腕は激しい痛みと引き換えに軽さを得た。
雪の壁を突き抜けた感覚。
その感覚は希望に変わり、隊長の体に力を与えた。
這い上がるように、左手を爆発させる。
「ぶはぁっ!」
次の瞬間、隊長の体から重さが消えた。
激しく消耗した体に活を入れ直すために、息を吸い込む。
「げほっ! げほっ!」
雪を飲み込んでいたらしく、激しくむせかえる。
「……が、ごほっ!」
隊長は咳き込みながら、周囲に最大限の警戒を払った。
「……?」
しかし、隊長が恐れていた事が起きる気配は無かった。
頭を出した直後に追撃されると思っていた。
(魔王は?)
姿が見えない。雪崩を起こした後、移動したようだ。
どこに? そう思った隊長が視線と感知能力を巡らせるよりも一瞬早く、
「隊長ーーっ!」
それは耳に届いた。
女の声。この場にいる最後の部下だ。
視線をそちらに向ける。
来るな、という思いを込めながら。
「っ!」
しかしそこには予想通りの光景があった。
魔王に向かって突撃する女の姿。
魔王も女に向かって走り始めている。
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